防具を手に入れて
王都に戻ると、エルセが受付で待っており朝の忙しかった様子とは違ったのであった。
「あ、もう倒してきたの」
「これでいいのか」
そう言ってアルフェルトは魔法陣の中から魔物が持っていた吹き矢に部分を取り出した。
「本当に倒したんだ。とりあえず、報酬の分持ってくるね」
エルセはその部位を手に取ってギルドの奥の方へと向かった。
すると、横のある酒場の方から大男がまたやってくる。
「どんな方法で倒したんだ?」
「その銃で倒したんだ」
アルフェルトはそう淡々と言った。
「へっ、嘘も大概にしろよ。豆鉄砲であいつは倒せねぇよ」
「試してみるか」
アルフェルトは魔力で光る目をその大男に向けた。
それに少し恐怖を感じたのか大男は一歩下がる。
「いつかお前らの不正を暴いてやるからな! 覚えていろよ」
少し汗をかきながら、大男は酒場の方へと戻っていたのであった。
「お待たせ、またちょっかいかけられたの?」
エルセは報酬の入った袋を持って奥から戻ってきた。どうやら奥からアルフェルトと大男のやりとりを見ていたようだ。
「ああ、別にどうってことはない」
「もし何かあったら言ってね」
エルセはそういうとアルフェルトに金貨の入った袋を渡す。
「あの人、本当にしつこいわよね」
報酬を無事に獲得してアルフェルトが振り返るとユイはそうぼそっと呟いたのだ。その言葉を聞いていたシスティも「うんうん」と大きく頷いている。
「いつかは見返してやらないとな」
「豆鉄砲なんて言わせないんだから」
そう意気込んだシスティは銃を背負い直した。
ギルドから出て、そのままエルメンライク銃砲店に向かった。
そこではいつものように老人が指示を飛ばして、弟子の何人かが魔導具で素材を削ったり組み合わせたりして銃を製造している。
朝から銃の製造していたのか、弟子たちは額から滝のように汗を流している。魔法によってある程度は楽に製造できるのだが、細かい作業を長時間しているとそれだけで体力を使うものだ。
昼を過ぎた頃に到着した時にはすでに銃を五丁ほど完成させていた。
「こんにちは!」
そう大声で挨拶をするシスティに老人は先ほどまで真剣だった顔が緩む。
「おぉ、今日も来たのか」
「うん! ここって銃以外にも作ってるよね」
システィが言う通り、ここは銃砲店と書いてあるが銃以外にも作っている。例えば弾丸などを持ち運ぶためのポーチだったり、銃関係のアクセサリーも充実している。
「それがどうかしたのかの?」
「頼みがあるんだけど、鎧とかって作れないかな」
その言葉を聞くと、老人は少し考え込んだ。
「……銃砲店になる前はの、ここは騎士が使うようなものを作っておったんじゃ。その名残と言っちゃあれじゃが、道具は揃っておる」
「何か問題でもあるのかな」
「その道具はかなり昔のものでは、あのような魔導具じゃないんじゃ」
「あ、全然大丈夫だよ」
そう、システィは魔導具に頼る製造法よりもこのような手作業での製造が得意なのだ。
「そうか、さすがはシスティじゃの」
「えへへ、そこの彫刻機だけあとで借りるね」
そう言うと老人は大きく頷く。
「好きに使っていいわい」
すると、システィは老人に案内されたさらに奥の部屋に向かう。そこには古い革製品を作るための道具が数種類揃っていた。鎧を取り付ける部分は動物の皮が使われており、それらは使い込んでいくたび使用者に馴染んでいくため古くから使われている。
システィの世界ではその動物の皮と同じような質のものを人工的に作り上げることで低予算で大量に作り出すことができたのだが、この世界ではそう言った化学工場といったものはない。
「えっと、皮は前の店で売ってたよね」
「そうだな」
「じゃ、ちょっと手に入れてくるね」
そういって、システィは腕捲りをして革の素材を買いに行った。
「元気な子よね」
「ああ、あれぐらい活気がある方がオレらとしても動きやすい」
そう元気よく買い出しに行ったシスティの背後を見ながら二人はそう呟いた。
「鎧なんだが、重装備でなくてもいいんだな」
「ええ、以前の世界でも胸当てぐらいしか使わなかったからね。でも、もう少し防具も考えてみようと思うわ」
ユイはその俊敏性を失いたくないがために、防具をあまり使わなかった。攻撃をそもそも受けなければ防具なんていらないと思っていたユイだったが、さっきに魔物ととの戦いで少しずつ意識が変わりつつあった。
もし、アルフェルトの魔法で防御されていなかったら、あの音速を超える吹き矢を避けることはできなかったからだ。
「まぁその点はシスティと相談しながら決めていくとするか」
「ところで付与魔法とかは使えるのかしら。魔物の金属は魔力を通しやすい性質のようだからな。使えるはずだ」
アルフェルトの魔法を防具に付与できるのであれば、強力な防具を装備することができるのだ。
さらにこれらの金属は非常に軽いため、ユイの俊敏性をそこまで落とさないと言う点も大きい。
「そう、それなら一つ作って欲しいものがあるのだけど」
「可能なものなら作ろう」
そう言うとユイは紙を取り出して、アルフェルトに渡す。先ほど、システィが老人と話していた時に書き込んでおいたものであった。
「三つだけだな」
「そうよ。作れそうかしら」
リストに書かれているのはどれも身体強化の類だ。脚力の強化で移動速度のさらに高速化、そして腕力も上げることで剣撃の重みを増し、最後に風を発生させる魔法であった。
「ふむ、脚力と腕力はわかるのだが、風を発生させる魔法は何に使うんだ」
「風を上下から吹かせることで重心を安定させられると思ったの」
「できそうではあるか。少し考えてみるよ」
アルフェルトがユイの要望に答えるために考え始めた直後、システィが買い出しから戻ってきたのだ。
「ただいまー いい革あったよ」
そういって戻ってきたシスティの手には牛の革を持っていた。
それらの革を作業台に置いて、ユイの方を向く。
「まずはユイちゃんのサイズ測るね」
そう言うとシスティは少し悪そうな目をして、ユイのサイズを測る。
「ちょっとくすぐったいわ」
「これぐらい我慢してよ」
ユイの採寸には定規などを使わず、指先と腕の長さで全て採寸されていった。当然ながら少しいやらしい手つきのためかくすぐったいようであった。
「ユイちゃんって意外と胸あるんだね」
「そうかしら」
すると、システィは「あっ」と気付いたかのようにアルフェルトの方を向く
「アルフェルトはこっち向かないでね」
「わかった」
そうしてしばらくはユイの採寸が行われた。
採寸が終わり、システィはサイズが合うように革を裁断していく。
その手つきは素早く、熟練の職人のようであった。
「ベルト類はこれで大丈夫、あとはゲートルとか足回りだね」
そう呟きながら、素早い手つきですぐに完成する。
しかし、いくら素早いといっても時間はかかるもので、すでに外は夕方になっていた。
「とりあえず、革で作れる部分はできた。一回付けてみて」
そういってシスティに言われるようにユイはそれらを取り付ける。
ベルト類は太ももから肩まで幅広く作られており、甲冑を取り付ける際に使うようだ。
「これ、便利ね」
システィが作ったベルトはバックルで留めるものではなく、引っ張るだけで緩めたり締めたりできるものであった。
「バックルだと時間かかるからね。これだとすぐに取り付けたりできるでしょ」
不要な場合はすぐに取り外すことができるように設計されているようだ。ユイの瞬発力を少しでも下げないようにする配慮でもあった。
「あと、このゲートルと言うものはいいわね」
「登山なんかで怪我をしないように作られたものなんだけど、戦闘用でも使えるかなって」
ふくらはぎを締め付け、足の無駄な筋肉の動きを制限することで疲れにくくする効果がある。さらに怪我を予防する効果もあるそうだ。
「色々知っているのね」
「じゃ、次はアーマープレートを作ろー」
そういってシスティは弟子たちが使っている工房に向かった。
そこではすでに八丁ほど銃が完成しており、疲れ果てていた弟子たちがいた。
「使っていいのかな」
システィがその光景を見て呟くと一人の男がばっと起き上がり、口を開く。
「どうぞ、使ってください!」
そういって男は倒れている弟子たちを引きずるように場所を開けた。
「ありがとう……」
システィは少し居心地が悪そうに魔導具の前に向かって、魔物から得た金属板を加工し始める。
それから一時間弱でアーマー部分が完成し、また奥の部屋に戻る。
「ユイちゃんの意向で重装備の甲冑は作らないことにしたの。その代わり、必要な部分を厳選して作ったからね」
どうやらシスティは採寸していた時からどのような防具を作るかを決めていたようだ。
「仕事が早いわね」
「当然だよ。その前にアルフェルトの魔法で強化してからね」
「この前と同じだな」
そして、この前と同じ魔法でプレートを強化する。前回と同じように少しだけ縮むが、強度が数倍上がるのだ。
「うん、ちょうどいいサイズになった」
そう言うとシスティはプレートに先ほど作ったベルトを組み込んでいく。
「完成!」
組み上げた防具を机に並べて大きく背伸びをするシスティは少しだけ眠そうにしていた。
「半日で作り上げるなんてすごいわね」
「これぐらい早くないとね。早速付けてみて」
システィにそう言われ、ユイはその出来上がった防具を着込んでいく。
腕は肘から手の甲まで防具があり、利き手側は肩当てがない。そして、かなり軽量化された胸当てに腰当てがある。足の部分は太ももの部分からすねのあたりまでプレートで覆われるようになっている。
腰回りは動きやすいように前の部分の草摺を省いており、移動の邪魔にならないようになっている。
「これは見た目も綺麗ね」
防具にはユイの体のラインに沿って流線的な模様が描かれている。そして、太ももの部分はあえて肌を露出させることで蒸れを予防し、疲れが溜まるのを防いでいる。
「少し色気が強い気がするけど」
ユイはそう感想を漏らす。するとシスティは手を振ってそれを否定する。
「ユイちゃんは可愛いし綺麗だから無骨なデザインにはしたくなかったの。それに役割がないデザインじゃないからね」
ふんっとシスティはそう熱弁する。どうやら彼女にはユイが美しく戦う女騎士のように見えたのだろう。
「まぁいいではないか。とてもよく似合っている」
「それならいいのだけど」
「それでいいの!」
こうしてユイは今までの市民的な服装から美しく色気のある騎士へと変貌を遂げたのであった。
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