英雄たちの共闘作戦
しばらく歩いていると、大木をいくつか組み合わせたいかにも巣のような見た目の場所を発見した。
三人はその巣を少し離れた場所から様子を伺っている。
「あれが巣かしら」
「そうだろうな」
大木で作られた巣は高さは優に五メートルは超えており、大型の魔物がいるのは確かだ。
その様子からも三人は警戒を一段引き上げるのであった。
「スコープがあればもう少し見やすいんだけどな」
システィも二人と同じく巣の様子を伺っている。その場所から巣までの距離は八〇〇メートルほど離れており、当然ながら目視では限界がある。
「スコープというのはどのようなものなんだ」
「えっとね、レンズを組み合わせて遠くからでもよく見えるものだよ」
「なるほど」
アルフェルトは少し考え込んでから口を開く。
「……光を曲げれば可能、か」
そういうとアルフェルトは両手に人差し指と親指で円を作るとその中に魔法陣が浮かび上がる。その青白い光はきれいに輝いている。
そして、それを重ねて片目で覗いてみる。
「こんなものか」
そう言ってアルフェルトがシスティにも見せる。
「そう、こんな感じの! こんなにきれいに見えるんだね」
魔法で作られたスコープにシスティは驚いた。以前の世界で使っていた普通のスコープよりも鮮明だったのだ。
「私にも見せてくれるかしら」
ユイも少し気になったのか、そう呟いた。
そうして、魔法のスコープで三人は巣の様子を観察した。入り口のような場所には動物の骨や皮などが散乱しており、つい最近まで食事をしていたことがわかったのだ。
「死体の様子からして、大きな爪で切り裂いたような跡があるな」
「うーん、でもそれが致命傷になっているわけではなさそうね」
アルフェルトとユイは動物の死体からどのような魔物かを分析し始める。
「あの、頭部にある傷はなんだ」
スコープを覗いているアルフェルトが何かに気が付いたようだ。
「見せてくれる?」
「あの熊の頭部にある傷だ」
システィは魔法のスコープで覗きながら確認する。
「射創……銃弾の傷に似てるね」
「深い傷だ。おそらくあれで仕留められたんだろう」
大型の魔物はどうやら遠距離を得意とする魔物のようだ。あのような巣の中から射撃できるような何かで近く通り過ぎた動物を食料として仕留めているようだ。
「確かにそれだと近くを馬車で通れないわね」
「どのような魔物かはわかった。あとはどう倒すかだな」
以前のような戦略級の魔法を使ってしまえば楽に倒せるのだろうが、跡形もなくなってしまう。それでは依頼の報酬が手に入らない。
最高難易度の依頼を達成し、多額の報酬を得たとしても有限だ。得られる報酬はできる限り欲しいのだ。
「前のような魔法だと厳しいからね。ここは私が突撃するべきかしら」
「いや、相手の力量を理解できていないからな。それは避けたいところではある」
そう二人が悩んでいると、システィが小さく手を上げる。
「ボクが狙撃してみようか」
「魔物も遠距離の攻撃を得意としているわよ」
ユイがシスティにそう忠告するが、それでもシスティはやりたいという目をしている。
「あの射撃場での距離とは違う。それでもやるのか」
「うん」
システィはできるという確信があった。自分の銃と技量に確固たる自信があるからだ。
「わかった。オレがあの大木を破壊する」
「それじゃあ、出てきたタイミングで倒すよ」
そういうとシスティはその大きな銃を固定して、射撃態勢に入る。それを見たアルフェルトは突風を作り出し巨大な大木を吹き飛ばす。すると中から大きな外骨格に覆われた魔物が現れた。
「殻があるのか」
「いけるよ」
システィがそう言った直後、引き金を引いた。肺を圧迫されるような衝撃波とともに発射された弾丸は魔物の頭部を直撃した。
その強力な弾丸を魔物の外骨格は守ることができず、完全に貫いていた。外骨格からは魔物の体液が漏れ出しており、少なくとも大きなダメージを与えることができた。しかし、それでも魔物の動きは止まらず、そのまま三人の方を向いた。
「うそ、あんな状態でも動けるの!」
システィの弾丸は相手の急所に完全に貫いていたが、致命傷にまでは至らなかったようだ。
「なんかこっちに向けているわよ」
「え!」
すると魔物は棒状の何かをこちらに向けて、大きく息を吸った。
その直後発射されたのは木を削って作られた矢のようなもので、音速に近い速度で射出される。どうやらあの魔物は吹き矢を使って遠距離から獲物を仕留めているようであった。
その射出された矢は事前に張り巡らされていたアルフェルトの魔法障壁によって防がれ、システィへの直撃は免れた。
「システィ、次も同じところに狙えるか」
「え?」
アルフェルトは再度障壁を作り直しながら、システィに向かって言う。
「あの殻は貫いている。後は体内に銃弾を打ち込むだけだ」
「えっと、動きを止めてくれればいけると思う」
「オレとユイで相手の動きを封じる。その隙を狙ってくれ」
「うん、わかった」
システィはもう一度射撃態勢を取り、神経を集中させる。スコープがない状態での射撃は非常に難しい上に、同じところを狙う必要がある。
魔物の殻に空けられた穴は子供の握り拳程度しかない。それを八〇〇メートルから狙うのは常人では不可能に近い。それでもシスティの技量とその銃の性能であれば可能だろう。彼女はそう信じていた。
そして、アルフェルトとユイは相手の様子を見つつ、前線に向かう。
「ユイ、相手を翻弄してくれないか。防衛は任せろ」
「そうしましょう。防衛は任せたわ」
そう言ってユイは高速で移動する。その動きに魔物は気を取られ、吹き矢を射出する。
音速を超える矢は当然ながらユイは目視で避けることはできない。だが、アルフェルトの障壁によって矢の速度は低下、それをユイは素早い剣捌きで切り落とす。
矢を放ってしまった魔物は次の矢を装填するのに時間がかかる。その隙を狙ってシスティは狙撃する。
再度肺を圧迫するような衝撃波が平原に轟き、魔物に直撃する。命中したのは最初と同じ場所であった。
「ゴオオオォ!」
システィが撃った箇所から大量の体液が噴水のように吹き出し、それが致命傷になったようで魔物は大声で鳴き喚き、そして鈍い音を立てて崩れていった。
「どうやらこれで倒せたようだな」
「あの外骨格硬すぎでしょ」
システィはあの魔物の外骨格が強力だということに驚いたのだ。
「とりあえず、調べてみるか」
そう言って三人は倒した魔物の方へ歩いてく。
魔物の体液は緑色をしており、異臭を放っている。鼻を押さえながら魔物に近づいてみると外骨格は金属のようなもので、甲冑のような構造をしていた。
「これだと何かに使えそうかな」
「あの店の魔導具を使って何か作ってみるか」
そう言ってアルフェルトは金属を魔法で切断して、持ってみる。
「軽いな」
「こんなにも軽いの」
アルフェルトとシスティが持った魔物の外骨格は以上に軽かったのだ。
「これ、アルミとかよりも軽いよ」
システィが言ったように一メートル角に切った外骨格は数グラム程度しかないそうだ。うまく貼り合わせて強度を増したとしてもそこまで重くはならならいだろう。
「強度もある。鎧に最適だろうな」
「うんうん。これならユイちゃんを前衛に出しても大丈夫そう」
「まぁ鎧はあまり好きじゃないのだけど、そこまで軽いのなら使ってみようかしら」
そう言って、その巨大な魔物の外骨格を手に入れたのだ。
それからは討伐したという証明の吹き矢の部分を剥ぎ取り、王都に戻るのであった。
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