収穫祭の準備
翌朝、窓から差し込む朝日に三人はほぼ同時に目を覚ました。
「システィ、そこで寝てたの?」
「いつの間にか寝ちゃってたみたい」
どうやらシスティは窓の近くで昨晩夜風に当たっているとそのまま眠ってしまったようだ。
「昨日夜遅くまで調整をしていたんだろ」
そうアルフェルトが言う。彼もシスティが銃の調整をしていたことを知っている。
「うん。納得のいくまでね」
「あまり頑張り過ぎると、体によくないよ」
ユイはそうシスティの体のことを気遣う。夜遅くまで作業を続けていると翌日思うように体が動かなかったりするものだ。
「そうだね。以前の世界のことを思い出してしまって張り切っちゃった」
「それだけならいいんだけど、無理しないようにね」
「はーい」
システィは少し反省するように返事をする。そして三人は今日も朝食を食べるために階段を下りるのであった。
階段を降りるといつものようにテルミーが出迎えてくれる。
「おはようなのにゃ。今日の朝食は少しアレンジしてみたにゃ」
テルミーはいつものように元気な声で朝の挨拶をする。彼女は毎日が楽しそうで三人もその笑顔から朝の元気をもらっているようなものであった。
「いつもと違うのか。それは楽しみだ」
調理器具を新しいものにしてからテルミーは少しアレンジされた料理を振る舞ってくれるようになった。それは彼女にとってちょうどいいスキルアップになるものであり、三人は毎朝それを楽しみにしていた。
「では早速準備するにゃ」
そうテルミーは元気よく厨房に向かったのであった。
三人がテーブルについてしばらくするとテルミーが朝食を持ってきてくれた。一見するとただトーストの上にチーズをのせたように見えるが、どう彼女がアレンジを加えたのだろうか。
「今日のトーストは一味違うにゃ。楽しんで食べてくださいなのにゃ」
そう言ってテルミーはまた厨房の方へと向かったのであった。
「どう違うんだろうね」
システィが興味深そうにトーストを見ている。もちろんトースト以外にもサラダやスープなどもあるが、これらはいつもと同じように思える。
そして、システィが一口トーストを食べてみる。
「あ、フルーツが入ってる」
「フルーツ?」
「うん。なんか不思議な感じ」
システィの言葉を聞いてアルフェルトも一口食べてみる。
「なるほど、確かに不思議な味だ」
「私も食べてみるわ」
二人が食べているのを見ていたユイもトーストを食べてみる。
「これは食べたことのない味だわ」
ユイもその不思議な味に驚いていたのであった。
「なるほど、チーズの中にフルーツを入れているのか」
アルフェルトがナイフでチーズの中を覗いてみるとそこにはリンゴやバナナといった朝食でよく見かける果物が入っっていたのであった。
「でもチーズに焦げ目も付いているよ」
システィはそう言う。確かにフルーツに火を使うと水気がなくなってしまう。
「おそらくだが、一瞬だけ表面を高温で炙ったんじゃないか」
「その通りにゃ! よく気付いたのにゃ」
厨房の奥から三人の会話を聞いていたテルミーは驚いた。まさか調理法まで気付かれるとは思っていなかったようだ。
「確かに今までになかった味がする。とてもおいしい」
「うん。これ、好きかも」
アルフェルトとシスティに続いてユイも軽く頷いてみせる。どうやら三人はこの朝食が気に入ったようであった。
それからゆっくりと朝食を食べた三人はいつものように依頼を受けにギルドに向かうのであった。
ギルドに向かうといつものようにエルセが受付にいたのであったが、少し様子が違う。その大量の書類と格闘している彼女のところにアルフェルトが向かう。
「おはよう。何をしているんだ」
アルフェルトが話しかけるとエルセは振り返る。
「あ、もう来たんだ」
「いつもこれぐらいの時間だ。今日は忙しそうだな」
「えっとね、明後日は収穫祭だからね。その準備なの」
この王都では収穫祭といって年に数回行われ、季節ごとに取れた作物などを祝うための祭りのようだ。
「やっぱりそのような祭りはあるのね」
「祭りは好きだよ」
ユイとシスティは楽しそうに頷いた。
「収穫祭の日はギルドはお休みだから、そのための事務処理が大変でね。今日も依頼?」
エルセは整理している手を一旦止めてアルフェルトの方を向く。
「ああ、ちょうどいいものはあるか」
「うーんと……南平原に巣を作っている大型の魔物がいるんだけど」
エルセは今日入ったばかりの依頼用紙をアルフェルトに見せる。
その用紙を受け取ってユイとシスティの方を向く。すると二人は「いいよ」と返事をする。
「これにしよう」
「はーい。報酬も多いからがんばってね」
そう言うとエルセは大きく手を振って見送ると、再度書類の整理に取り掛かるのであった。
三人はギルドから出て、南通りから平原に抜ける。
「平原だって、初めての場所だね」
「今までは森だったり洞窟だったからな」
「それにしても大型の魔物ってどんなものかしら」
ユイは疑問に思ったことを口にした。
確かに平原で大物の魔物と出会すことはなかなかないのだ。動物などは多くいるのだが、それは森でも同じだ。逆に大きくては目立ってしまい、隠れられる洞窟や森の方が大物の魔物にとって都合が良いはずだ。
「そう言われてみればどんなのだろ」
「まぁどんな魔物かは目で見て確かめてみるしかないな」
そう言って三人は平原を探索するのであった。
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