依頼達成の報告
依頼を終え、ギルドをでた三人は西通りに向かっていた。時刻は四時を過ぎたあたりで、陽が沈みかけている。
西通りは工業地帯のようで、あらゆる工房と言われる場所が乱立している。薄らとオレンジ色に染まる空はこの通りの雰囲気を際立たせていた。
先ほど地図で場所を確認していたシスティが道案内をしてくれている。
「えっと、この先にあるみたい」
そう指差した先に向かうと大きな看板に『エルメンライク銃砲店』と書かれた店に到着した。
この銃砲店には六人ほどの従業員がいるらしく、奥にはここの店主と思わしき老人がいろいろと指示を飛ばしている。
「ここが銃砲店と呼ばれる場所か。初めてみる」
アルフェルトは興味深そうに工房の様子を見ている。
彼は作り上げられている銃の部品を見ているのではなく、魔導具の方を見ていた。ここでは魔導具を使って精密な部品製造を行っているようで、それらは彼の興味を引くに十分であった。
「うーん、ボクのところはこんな道具使っていなかったんだけどね」
当然システィの世界にはここのように魔導具などが存在していなかった。電気で動く工具などを使って製造していたのだ。
「とりあえず、あの人に聞いてみたらどうかしら」
ユイがそう言うとシスティの背中を押す。
システィはそれに驚き一旦は立ち止まるが、勇気を出して奥の老人に話しかけることにした。
「あ、あの依頼の件で」
恐る恐る話しかけるシスティに鋭く険しい目で捕らえる老人。もちろんシスティは緊張のあまりか小さく息を飲んだ。
すると、老人の顔が緩み急に笑顔になる。
「おお、あそこの駆除が完了したのか」
「えっと……一応交換券をもらってきたんだけど」
そう言ってシスティは先ほどギルドからもらってきた交換券を老人に見せる。
「そうかそうか。ちょっと待っててくれ。もうすぐで完成するからの」
「あ、わかりました」
老人は再び険しい目をして指示を飛ばす。
「大事なお客さんだぞ! しっかり気合入れんかい!」
「「はい!!」」
老人の一声で従業員のやる気が一気に上がる。
その男たちの熱気にシスティは目をくらくらとしている。
従業員の一人が一本の金属棒を取り出し、大きな魔導具の中に丁寧に入れる。そして、魔導具の中が光り始める。
耳を刺すような高い音を出しながら金属を削り、完成したのは真っ直ぐに伸びた二本の筒であった。
それを取り出すところを見ていたシスティはまるで品定めをするかのように目を凝らして見つめている。彼女にとってその光景は以前いた世界を思い出させるものであった。
使っている道具は違えど、部品一つ一つが彼女にとって馴染みがあるからだ。
「あんた、銃を作ったことあんのかい?」
鋭い目つきを維持したまま、老人はシスティに話しかける。
口調は優しいが、その見た目は歴年の職人の表情をしている。
「え?」
「目を見りゃわかるわい。おい! そこの。こっちに持ってこい」
老人が手招きをし、筒状の金属棒を手にした男がシスティと老人のもとに来る。そして、老人は男からその筒を手に取るとシスティに向かって解説を始めた。
「わしらの工房ではな。こうして筒の中に溝を作ることで命中率を上げとるんじゃよ」
そう自慢げに笑顔で解説する老人。システィが筒の中を見ると、確かに溝が掘られている。
「あの一瞬でここまで綺麗に作れるんだ」
そうシスティは感想を漏らした。それに調子付けられたのか老人も話を続ける。
「そしてな。あいつが作っている機構で弾を連続で撃てるようにしとるんじゃ」
「レバーアクション……」
その瞬間、システィの目は職人の目のように鋭く輝き始める。
「ちょっといいかな」
「おぉ、なんじゃ」
「連発式の銃、これが最先端の銃?」
「そうじゃよ。軍も最近になって発射薬と弾丸を一つにした銃弾を取り入れるようになってな。それを使っていろいろ試作したんじゃよ」
そう言うと老人は工房の奥を指さした。そこにはいくつもの銃の試作型が並んでいた。数十種に及ぶ連発式小銃の試作品はどれもシスティの世界にあった古いものに酷似しており、それだけでこの老人が相当な技術力を持っていると言える。
しかし、それではシスティの要望に応えれるものではなかった。レバーアクションは確かに連発で撃てるのだが、その構造上弾丸の形状に制約が出てしまう。そのため長距離射撃で使用される先端の尖った弾丸を使えないのだ。
「その最先端の銃じゃなくて、この銃を改良したいの」
試作型の中から一つシスティが手に取る。それはシスティの世界ではボルトアクションと呼ばれるもので、当然システィの世界では狙撃銃として現役だったものだ。
「じゃが、それは姿勢を維持した状態で連発できないのが欠点での。だからその機構はやめたんじゃよ」
確かに連射性には劣るかもしれない。だが、そんなことはシスティには関係なかったのだ。
「ちょっと改造したら全然問題ないよ。紙もらうね」
そう言うとシスティは素早い手つきで設計図を描いていく。彼女が描いているのはボルトアクションをセミオートに変換する機構である。
その様子を老人が見て感心し、そして疑問を抱いたようだ。
「こ、この筒はなんのためにあるんじゃ」
老人が指差したのは銃側面にある細長い筒であった。
「これは発射時に出るガス……えっと、発射する時の爆風的なのを再利用するための筒なの」
「そんなことができるのか」
「当たり前でしょ」
その言葉に老人は口を開けて唖然としていた。
この老人は長いこと銃の製造に携わってきたのはその風貌からすぐに読み取れる。しかし、そんな彼でもシスティが考えたこのアイデアは思い付かなかったようだ。
「設計図はできたから、作ってみてもいいかな」
「……ここまで才能ある娘だとは思っておらんかったわい。じゃが魔石の量が足りんくてな」
老人はそう申し訳なさそうな顔をしていると、アルフェルトが口を開く。
「魔石なら問題ない。純度はこれぐらいでいいか」
そう言ってアルフェルトは手から魔石を生み出す。その光景を見た老人は目を見開いて驚いた。
「十分過ぎるわい。どうやらわしが出る幕はなさそうじゃ。あんたらに任せる。お前らそこを退け!」
老人のその一声で工房にいた男たちは作業に区切りをつけると即座に離れた。
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