名門銃砲店の依頼

 今日も依頼を受けるために三人はギルドに向かった。

 朝は元気過ぎるテルミーに元気を分けてもらったため、いつも以上に調子が良い三人はギルドの掲示板を眺めていた。

 初めての依頼で高難易度のものはなく、どれも簡単そうな依頼ばかりであった。

 しかし、システィはその中で一点だけを見つめていた。

「何かいい依頼でもあったのか」

 後からアルフェルトがシスティに問う。

 すると、システィは指差した。アルフェルトとユイがその依頼書を見る。


『鉱山地帯の魔物の駆除依頼』


 書いてある依頼を見たユイが口を開いた。


「推奨人数も少ないようだし、簡単そうね」

「ああ、これぐらいならすぐに終わるだろう」


 ユイとアルフェルトは依頼の内容について見ていたのだが、システィは少し違った。

 彼女が見つめていたのは依頼の報酬であった。


「それもあるけど、これ見て。報酬に最先端の銃って書いてある」

「なるほど、システィがちょうど欲しがっていたものだな」


 そう、昨日の間に考えていたのがギルドの依頼の後にシスティの銃を探す予定であった。それも同時にできると言うことで一石二鳥なのだ。


「早速行こうよ」


 システィが跳ね上がる勢いでアルフェルトの目を見る。


「そうだな」


 そう言ってアルフェルトは受付の方へと向かう。


「依頼を受けるのよね」

「ああ、その『鉱山地帯の魔物駆除』を受けたい」


 アルフェルトがそう言うとエルセが依頼の情報が書かれてある大きな本を広げた。


「あの名門銃砲店が出した依頼ね」

「名門なの?」


 アルフェルトの後から顔を出したシスティがエルセにそう尋ねる。すると、エルセが肯いてそれを肯定する。


「ええ、エルメンライクの銃は魔道銃騎兵にも使われるほどに有名よ。でも冒険者の中では銃が嫌いな人が多いからね。人気がないの」


 エルメンライクの銃は軍に認められるほどに優れているようだ。しかし、冒険者の間では銃はそこまで人気があるわけでもなく、この依頼だけが残っていたのだろう。


「そうなんだ」

「それで、報酬の方なんだけど現金じゃなくて現物なの。それでも大丈夫?」

「現金には困っていない」

「あー あの依頼で儲かったんだっけ。じゃ手続き進めとくね」


 そう言ってエルセは手慣れた手つきで書類を取り出し、必要事項を書き込んでいく。そして、その最後にはギルドで依頼を受けたことを証明する印を押して依頼完了である。


「はい。頑張ってね」


 そう言ってエルセは手を振って見送ってくれる。


 ギルドを出てしばらくするとシスティがふと疑問に思ったことを口にした。


「私たちを担当してくれているエルセって実はすごい人だったりするのかな」

「それはわからないな」

「元冒険者だってことはわかってるけど、どんな人かはわからないわ」


 以前、大男と揉めたときにエルセがそう言ったの覚えていた。だが、どんな冒険者でどのような活躍をしたのかはまだわからない。

 ただわかることは冒険者の間ではエルセは”姉貴”と呼ばれているだけだ。

 そして、三人は王都を出て少し歩いた場所にある鉱山地帯へと足を踏み入れたのであった。

 鉱山地帯はしばらく使っていないのか朽ちてしまっている道具類がいくつかあり、人がここに来ていないと言うことはすぐにわかった。

 さらに臭いも酷く、鼻で息を吸うことはできない。


「臭いね……」

「ああ、強烈な腐敗臭がするな」


 この酷い生ゴミが腐敗したような臭いはどうやら鉱山地帯のすぐ横にある洞窟の奥から来ているようだ。


「魔物が住み着いているって書いてあったけど、相当きついわね。これは」


 ユイが鼻を押さえながらそう言っている。

 その洞窟の入り口付近にはその臭気のせいか植物が腐っており、いかにも危険な雰囲気を漂わしている。


「とりあえず、行ってみるしかないな。オレのそばから離れるなよ」


 すると、アルフェルトの周囲が青い光に包まれる。


「この光の中にいれば匂いは気にならないはずだ」

「さすがアルフェルトー」


 システィは彼を頼もしいと目で見つめる。


「空気も自在に操れるのね」


 ユイも感心しているのか小さく頷いた。

 アルフェルトの魔術で臭気に毒されることなく、洞窟を進んでいく。


「この洞窟って、人工なのかな」


 洞窟を進んでいるとシスティがそう呟いた。


「壁なんかも掘られた形跡があるわね」


 そう言って壁を手で触れているのはユイであった。彼女はこう言った洞窟での知識はこの三人の中で一番詳しい。

 以前の世界ではこうした洞窟なんかに魔王軍が潜んでいたようで、その討伐任務などで洞窟を知り尽くしてしまったようだ。


「それなら、ここは何を採っていたんだろうな」

「うーん。なんだろう」


 システィがアルフェルトに言葉を聴いて深く考え込む。

 依頼書にはここの魔物の駆除とだけ書かれていただけで、どのような場所なのかは詳しく書かれていなかった。それにどんな魔物がいるのかさえも記載されていない。

 すると、ユイが何かを見つけた。


「これ、何かしら」


 そう拾い上げた物を三人で見る。


「魔石のようだな」

「でもアルフェルトが作る魔石よりもくすんでいるよ」

「品質が悪いから捨てていったんだろう」


 ユイが拾ったのはどうやら魔石のようだ。しかし、アルフェルトが作る魔石よりも色がくすんでおり、低品質なもののようだ。


「それにしてもここって鉱山地帯の近くだよね。魔石って鉱物なのかな」

「依頼書にはここで採れる鉱物は金属系だと書いてあったわ。魔石ってことはないんじゃないかしら」


 ユイは依頼書の写しを見ながらそう言う。

 この近くで採られている鉱物は金属系のものばかりで魔石の記載はなかった。つまり、この場所は依頼主以外の誰かが作った採掘場なのだろう。

 そんなことを考えていると洞窟の奥から空気が強く振動するほどの強烈な音が轟いた。


「っ!……なに、この音」


 システィが耳を押さえながら二人に問いかけるが、アルフェルトもユイも事態をあまり把握し切れていないようだ。


「索敵魔術によれば一体だけ奥にいるようだ」

「一体、それにしてもこの音は?」


 ユイの質問にアルフェルトは「わからない」と首を横に振った。


「とりあえず、魔物のところに行って見ましょうか」


 そして、ユイを先頭に洞窟の最深部へと向かった。


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