旧王族の暗躍

 王都の裏路地にて、一人の男が壺を抱えて歩いている。


「これでこの国は滅びる。そして魔族に認められる。そうすれば俺様が英雄に  」


 そうぶつぶつと小声で独り言を呟いている。

 すると、裏路地の奥からまた一人ローブを被った男がやってくる。


「ここにいたのか、探したぞ」

「……悪いな。これを運んでいてな」


 壺を持った男はその壺を見せるように地面に置く。


「ああ、それか。ついに完成したんだな」

「おかげさまでな。そして、俺様は英雄になる」

「英雄になんぞ興味ねぇけどな。俺は魔族になりたいだけだ」


 ローブの男はそういう。そして壺を抱えて二人は先に進む。

 そして、進んだ先は商店街だ。

 ローブの男はその商店街である女性に話しかけていた。その女性は来週開かれる収穫祭に教会への作物奉納の品を管理する人のようであった。


「えっと、収穫祭に出席されるのですか?」

「ああ、量は少ないがこの壺を奉納してほしい」

「わかりました。こちらに奉納者名を記入してください」


 するとローブの男はそこに名前を記入する。


「はい。これで終わりです。では、次の方」


 そう言って女性は次の人の対応をする。

 そして、人混みから少し離れた場所で壺を抱えていた男は話を切り出す。


「本当にうまくいくんだろうな」

「任せろ。俺たち貴族はいつでもずるいことができるんだよ」


 ローブの男の言葉を聞いて大きく舌打ちする。


「ちっ、貴族ってのは気楽でいいよなぁ」

「そういうが、貴族にも貴族なりの苦悩があるんだよ」


 そう言ってローブの男は離れるように立ち去っていく。


「あのエンドロバーグがいなければこの国は俺様の物、奪われたからには奪い返すまでだ」


 男は拳を壁に叩きつける。血が滴り落ちるが、それに動じず目だけが血走る。

 真っ赤に充血した目はまるで悪魔のようであった。


「この平和な国は俺様がいただく。永遠に、な」


 そう言って、男はまた裏路地の方へ歩いて行った。


   ◇◇◇


 その頃、自室で英雄の三人は話し合っていた。その内容とはシスティの銃について話していたのだ。

 ベッドに腰掛けているシスティが強くため息を吐いている。それを見ているのはユイとエルフレットだ。

 ユイは横のテーブルで剣の手入れをして、エルフレットは窓際にもたれていた。


「はぁ、やっぱり自分の銃を作りたいよ」


 システィはそう言ってベッドに倒れかかる。

 先日起きた事件でシスティは危険な状態になったのであった。主な原因は銃の装弾数の問題だ。

 続けてシスティは不満の詳細について語る。


「さすがに七発は少なーい」


 そう、彼女の銃の装弾数は六発。回転式のため素早い連射が可能であるが、以前の世界で使っていた自動式拳銃の性能には劣る部分がある。それは装弾数と携行性だ。

 あらゆる面で小型化が可能な自動式拳銃はあらゆる任務に対応することができる。回転式のリボルバーよりも拡張性が高いからだ。


「街中で売っているのはそれぐらいだ」


 エルフレットがそう指摘する。ユイの剣を探したときに街中の武具店を歩き回ったが、どの店もその回転式リボルバーしか売っていなかった。他にあったものといえばマスケット銃といったシスティからすれば骨董品のようなものばかりであった。

 どんなに銃の扱いが長けているといえど、マスケット銃の連射性や即応性のなさは補えない。そのためシスティは仕方なくその回転式リボルバーにしたのであった。


「だから作りたいの。エルフレットの魔術でなんとかできないかな」

「複雑な道具までは錬成することはできない」


 いくらエルフレットの魔術が有能だとしても複雑な機構の拳銃までは錬成できない。それに銃の知識が全くないエルフレットにはまず作ることが難しい。


「魔術は万能に見えるけどそうではないのね」


 ユイがそう呟く。

 そろそろ警戒が解けてきたのかエルフレットに対して鋭い目を向けることは少なくなっているが、まだ関係を深める段階にまでは至っていないようだ。


「だって、この前の王宮の事件危なかったんだよ」


 システィはそうエルフレットに訴える。

 だが、エルフレットはその現場にいなかったため同情のしようがないのだ。


「じゃあ今度システィの銃を探しましょう。どんなに歩き回っても構わないわ」


 そう切り出したのはユイであった。

 自分の剣を買った時から彼女は剣を手に入れた嬉しさよりも申し訳なさの方が強かったのだ。そんな思いからそのようなことを言ったのである。


「ユイちゃん、優しい」


 うるうるとした瞳をユイに向けるシスティだが、エルフレットの方にもちらっと横目で見る。


「オレも同行するよ」

「エルフレットも優しー」


 システィの熱い視線に参ったのかエルフレットも小さく頷いたのであった。


 そうして三人は明日、ギルドの仕事ついでにシスティの銃を探そうと決めたのであった。

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