エーラハベイル王国の防衛力

 翌日、イルエがこの王都の城壁構造を説明、案内してくれた。

 城壁な単純な石を積み上げて作られており、大量の大砲が城壁の外と内側に設置されている。その大砲は特殊な機構で連射することが可能になっている。城壁内には大量の砲弾が格納され、その砲弾は魔石による爆発により加速し砲撃する仕組みになっている。

 そして、発射された大砲はすぐに魔術で砲塔内部が清掃され、即座に機械仕掛けの装填システムで次弾を装填する。

 次弾発射までの時間が約二十秒ほどとなっている。もちろんこれらはこの世界の人類の叡智を集めて作られている。魔法と技術の融合だ。砲撃以外にも着弾地点を中心に範囲魔術を引き起こす魔法術式を施した砲弾もあるとのことで、これらは魔族の迎撃に使われるのだそうだ。

 話によると実際、これで数回の魔族の攻撃を退けているのだそうだ。

 しかし、システィはこれらのシステムをもう少し改良すればさらに効率が増すと言っている。簡単な改造だけで二倍速く次弾を装填できるのだそうだ。

 あらかた城壁と砲撃システムの解説を聞き終えた三人は城壁から降りて、カフェで休憩することにした。


「城壁の情報はあれだけよ。他には城壁の強化魔法なんかがあるけど、あれは特に説明する必要もないよね」


 城壁は簡単に突破できないよう強度を高める魔術を施しているが、これらは一般的な家屋に使われているものを軍用に進化させた強力なものだ。


「その強度はどれぐらいのものだ?」

「えっと、実験記録しかないけど砲撃を五〇発は耐えられるそうよ」

「なるほど、それなら問題はなさそうだな」


 城壁の強度はかなり高い。それゆえに施す魔法術式は複雑で高度なものなのだろうとエルフレットは推測する。

 しかし、システィはその強度を聞いても疑問を持っていた。


「でも、さすがに数千単位の魔族相手には突破されるよね?」


 数千もの魔族が城壁を一点に攻撃を集中させれば、いくら強度があれど城壁は崩れるだろう。それに大砲も強力ではあるが、魔族は魔物と違ってそれなりの知能がある。防御魔法を使われてしまってはそれほど効果はない。


「そのために騎士団がいて、魔族が城壁に到達する前にある程度戦力を削っておくの。だから騎士団は非常に厳しい訓練を乗り越えてきている。魔物と戦うよりももっと難しいからね」


 そうイルエは付け加えて説明する。

 どうやらこの王都の作戦は騎士団という先行部隊を主とした戦力のようだ。あの城壁はあくまで最終防衛線と言ったところである。


「ひとつ、気になるのだけど。その騎士団はこの国に何人ほどいるのかしら」


 そこでユイが質問する。騎士団の規模と戦力が知りたいようだ。


「だいたい三千人程かな。中には強力な魔術師もいるから倍以上の戦力にはなっている」


 強力な魔術師はその圧倒的な火力で前線での支援に向いていると言える。さらに城壁の砲撃も合わせればより効果的だろう。

 守りに関してはこの王都は完璧と言っていい。

 だが、魔術師がいるといえど、三〇〇〇人では魔族の拠点を制圧するのには戦力不足だろう。全戦力を集中したとしても突破は難しい。城壁からの砲撃など高火力支援がない状態では防衛時の戦力と比べて半減以上だろう。

 防衛より攻撃の方が戦力を要するのだ。そして、防衛は後手になることが多いためどうしても持久戦を強いられる。長期戦においては防衛は得策ではない。この王都も次々に突撃してくる魔族の攻撃にいつまで耐えられるかは時間の問題となっている。

 魔族は圧倒的な土地の広さと数の多さ、さらに膨大な魔力量は日に日に増していく。この城壁もそう長くはないだろう。


「なるほど、魔族側への攻撃は厳しそうね」


 もちろんユイもこのままでは持久戦になってしまうことは理解している。


「そのために私たち精鋭が王族直属部隊としてなんでもこなす部隊が作られたの」


 いわゆる鉄砲玉、王家の諸刃の剣、そんなことをしなければこの国の平穏は保てないのだ。こうした犠牲の上に成り立っている。

 魔族に定期的に強力な一打を与えることで攻撃の集中を王都から逸らす。それが王族直属部隊の役割の一つだ。


「それで壊滅しかけたのであれば、無意味だろうな」

「……無意味?」


 エルフレットの一言にイルエは今までにないほど鋭い目で彼を睨みつける。しか

し、エルフレットはその視線に動じることなく淡々と続ける。


「無意味というのは戦略的な意味でだ。生死の価値を言っているわけではない」

「それはどういう意味?」

「確かに陽動は注目を逸らすには効果的だ。だが、それが成り立つのは相手にそれを対処する余裕があるからだ」


 そう、陽動は相手にある程度余裕があって成り立つものだ。何があっても王都を壊滅させる必要があるのであれば、その他の小さな拠点程度捨てて突撃してくる。


「だから、油断している魔族の拠点に攻撃して少しでも  」

「一つや二つの拠点ではそれは意味をなさない。勝利に繋がるとは思えない」


 エルフレットがイルエの言葉を遮るように続けた。それを聞いてシスティとユイも重く頷いて肯定する。

 イルエはその反応を見て顔が青ざめていく。


「どうしてそうなるのかな」

「私たちの本拠地が一つ、そしてその周囲にある拠点も指で数えられるほど。それに対して魔族側は無数と言っていいほどの拠点の数よね」

「ボクたちが一つ拠点を制圧したとしても魔族にはその代わりとなる拠点がいくつもあるってこと。数的優位性はそれだけでは覆せないよ」


 イルエにユイたちが解説する。

 魔族は人類に対して圧倒的に優位にある。魔族と魔物に人類は包囲されているため地形的に不利、そして拠点数や戦力などの数的にも不利である。


「私たちのしてきたことって全くの無駄だったってこと……」


 イルエは赤くなるほど強く拳を握りしめた。


「戦略的には無意味ではあるが、彼らの死は無駄ではない」


 そこでエルフレットが答える。その言葉を聞いてイルエは少し顔を上げる。


「彼らが残してくれた拠点の情報はこれから人類が勝利するためには必要なものだ。人類の強さは情報をうまく利用する知恵にある」

「エルフレット様……」

「この王都の事情は理解した。次は魔族の、それも拠点についての話をしてくれないか」


 その言葉を聞いてイルエは大きく頷いて魔族の拠点の説明を始める。


「まず魔族の拠点は城壁なんてものはなくて、堀を作って固めているだけ。それだけだけどその堀の周りには魔法でいくつも細工が施されているの。例えば探知系、感知系の術式魔法とかね。それで攻撃に対して防衛しているって感じ」


 魔族の拠点は堀を作った古典的な作りをしているようだ。それに魔法を組み合わせ

て防衛力を上げていると言ったところだ。


「だから、それらを掻い潜れば簡単に奇襲できるの。でも不意を突いたとしても魔族の力は強力でそう簡単に倒すことはできない」


 魔族は魔物を食べることで強靭な肉体と強力な魔力を保有している。到底人間の身体能力では太刀打ちできない。


「そこで私たちは魔術を利用し、術式で強化した剣と銃で立ち向かうことにした。それでやっと魔族に攻撃が通るようになる」


 イルエの言葉を聞いてシスティは小さく手を挙げてイルエに質問をする。


「魔術は魔族にとって弱点なの?」


 システィの質問を聞いてイルエは顎に指を当てて少し考えながら答える。


「弱点というか、単純に魔力には魔力で返すって感じ。だから弱点っていうほどのものでもないかな」


 魔族は魔力によってその強靭な肉体を維持している。それらを打ち破るのは同じ魔力を利用した魔術だけなのだろう。

 単純な物理的攻撃ではそう簡単に倒すことはできないということだ。


「ふむ、最後に相手の知能レベルについて聞こうか。魔族はどのような魔術を使えるんだ?」

「私は見たことないけど、高等魔術を使った魔族がいるみたい。でも多くは簡単な単純工程の魔術だけね。魔力が強いから、それなりに攻撃力はあるよ」

「知能は総じて低い、か。力があれば知恵をを使う必要がないからな」


 エルフレットは得心する。


「ま、魔法を使われたらボクたちはどうすることもできないよ」


 システィはエルフレットのように魔術に対する防衛手段がない。そんな彼女にとっては下級魔術だろうと脅威である。


「安心しろ。魔術を極めたオレがバックアップする」

「それは心強い! でもどうやって?」

「この前にも使ったが、魔石を使ったやり方であればある程度防衛できる。あとは術式を施した魔導具を使うと強力な一撃を繰り出すことができるだろうな」

「私たちはあなたのように魔力がないの。その点はどう補填するの?」

「魔石は魔力を蓄えるものだ。純度の高い魔石を使えば魔力がなくても魔導具を使えるだろう」


 エルフレットはそう言って二人の納得させる。しかし、イルエは依然として不安そうな顔を変えないままであった。


「王家直属って言っても予算はほとんど出てない。高純度の魔石を買うような余裕は私たちにはないの」

「あ、その点は大丈夫。エルフレットはね、魔石を生み出すことができるの」

「嘘!?」


 イルエは目を見開いてひどく驚いた。その様子を見てエルフレットは不審に思ったのか少し首を傾げる。


「それほど驚くほどか?」

「当たり前でしょ! 魔術師協会が不可能だと結論付けているのに本当にできるの?」


 エルフレットはイルエの言葉に軽く口角を上げた。


「不可能、か。魔力の実体化はそれほど難しい理論ではないのだがな」


 すると、イルエは机を手で叩いて立ち上がる。


「これは事件ね。エルフレットには今度魔術師協会に出席してほしいところね」

「少し大袈裟すぎるが、気が向いたら出てもいいだろう」


 エルフレットはそういうとイルエはどこかほっとした表情をする。

 彼女も魔術師であり、魔術を発展させたいと考えているからだ。魔術師協会でエルフレットの魔石生成が証明されれば魔術文化はより発展し、さらなる高みへと極めたいと心から願っているのだ。


「とりあえず、魔族の情報はこれで最後。役に立てたかな」

「ええ、私たちとしても対策するべき点を考えることができるわ」


 ユイはそうイルエに返事する。エルフレットもシスティも同じ意見のようで頷いて見せる。

 それに安心したようにイルエも胸を撫で下ろした。


 エルフレット、システィ、ユイの三人は王家直属の特殊部隊として活動を始めることにした。もちろん、魔族だけでなく魔物にも対処しなければいけないため、冒険者としての活動も今後ともに続けていく必要がある。

 そして、三人はこの世界を救うことを心から決めたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る