王家からの指名依頼
陽が上り、窓から漏れる日差しに部屋が明るく照らされる。
それに起こされたのか窓際のベッドに寝ていたシスティが起きる。
「おはよう。起きたのか?」
「おはようってあれ、エルフレットって朝早いの」
まだ眠たげな瞼を擦りながらシスティはエルフレットの方に向く。
「いや、眠りが浅いだけだ」
「よく寝ないと疲れが取れないよ?」
半分閉じた目の彼女は指を立てて忠告するように言う。
「大丈夫だ。五年間も寝ずに図書館の本を読み漁っていた時があったからな」
「そ、それは大変だ!」
エルフレットの人間離れした話を聞いてシスティは一気に目が覚めたようだ。
「……朝から騒がしいわね」
システィの大声に起こされたユイはゆっくりと体を起こした。
「ねぇユイちゃんっ、エルフレットは五年も寝ず食わずだったんだよ!」
「さすがに食べないと死んでしまう」
すかさずエルフレットは部分的に間違っているところを訂正する。
「どう言った経緯で五年も寝ないでいたのかしら」
ユイは少し考えた後、エルフレットを見てそう疑問に思ってことを聞く。どうやらユイも気になったようだ。
「少し気になったことがあってな。その時は無心で調べていたんだ」
「なるほど……それで解決したの?」
「結局本に書いてなくて自分で試してみたんだ。その結果ドラゴンを三体以上殺してしまうことになったがな」
エルフレットはどこか懐かしむようにそう呟いた。
「す、すごいね。ちなみにどんな魔法を調べていたのかな」
ちらっとシスティはエルフレットに視線を送っている。システィもエルフレットに負けず劣らず好奇心旺盛なのである。
「反粒子を光速近い速度で放つとどうなるか、と言った内容だ」
「ごめん、全然わからないわ」
ユイが降参するように手をあげた。しかしシスティはどこか感慨深そうにしていた。
「ボクの世界ではそれ、反物質粒子砲って言うんだけど」
「そうなのか、システィの世界にも考える人がいるんだな」
「でも現実的じゃないの。小型化もできないし、そもそも動かすのに膨大な電力も必要だからね」
するとシスティは、「でも……」と付け加えて話を続けた。
「一度は見てみたかったな。どんな感じだったの?」
「あの時は力加減が分からなくてな。とりあえず全力でやってみたんだが、一つの山脈が更地になった程度だ」
「更地になった程度って、それはやりすぎだよ」
エルフレットの話を聞いて二人は驚愕した。山脈が一つなくなるほどの威力など、彼女たちの世界でも聞いたことがないからだ。システィはそんな兵器が実用化されなくて良かったと、ユイは神話のような話をしているのかと思うのであった。
そんな会話をしながら、三人は部屋を出る。
階段を降りて酒場の方へ向かうとテルミーが出迎えてくれた。昨日と変わらず元気そうな顔で三人に挨拶する。
「おはようなのにゃ! すぐに朝食を作るから座って待っててくださいなのにゃ」
そう言ってテルミーは奥の厨房に足を向ける。そこでユイはテルミーを呼び止める。
「昨日から思っていたけどもしかして、この宿はあなたが一人で運営してるの?」
「そうにゃ! 迷い猫のウチはここで宿を開くことにしたのにゃ!」
あくまでそれは設定のようだ。確かに入り口近くの掲示板にそのような貼り紙があったのを三人は思い出した。
この宿は旅疲れ彷徨っていた猫が雨宿りをしていた建物だったそうだ。そして、その猫は他の旅に疲れた猫を見かけると自分の集めた食べ物をあげた。それがこの迷い猫の宿ができた物語らしい。
とはいえ、テルミーは正真正銘の人間であり、猫が人間となったわけではない。この物語は彼女自身の過去を物語調にしたものなのだろう。
「あなたも大変、なのね」
「こうしてお客様が来てくれてたことだし、ウチは幸せなのにゃ!」
テルミーは首を横に振って答える。
「そう、これからもここを使わせてもらうわ」
「嬉しいにゃ! ウチはいつでも大歓迎なのにゃ!」
そう言ってテルミーは元気よく奥の厨房へと向かった。
「あの子、一人で働いてるのね」
「少しは楽にさせてあげたいものだな」
「そうだね」
どうやら三人の目標の一つが決まったようだ。
テルミーから出された朝食を食べ終えると三人はギルドに向かったのだ。
朝の九時には開くギルドにいち早く向かうために、真っ先に向かった。
ギルドの中に入ると昨日の受付をしてくれていたエルセが三人を見かけるなり、すぐに駆け寄ってきた。
「えっと、エルフレットとユイ、システィに指名が来てるのだけど」
「指名依頼ということか?」
「うん、それも王家の人から」
エルセの慌てている様子から普段からこのような王家の指名依頼はないそうだ。
「依頼の内容は?」
「そんなの見れるわけないでしょ。これが依頼書、それを渡したかったの。頑張ってね」
エルセはそう言って奥の事務手続きの応援に向かった。どうやら王家の依頼と言うだけでここまで慌ただしくなるのかと、三人は思った。
「王家から依頼ってやばいよね」
「早く依頼を見ましょう」
エルフレットが依頼書を開け、内容を確認する。
「娘のイルフェス・エンドロバーグの護衛応援、と書かれているな」
そうして三人でその依頼書を読んでいく。
王家の娘であるイルフェスは学園の卒業したということで今日王宮に帰るそうだ。王族ということで近衛兵もいるそうで、その応援に駆けつけてほしいという内容だ。
そして、最後に補足として『どのようなことがあっても娘の命を守ってほしい』と付け加えられていた。
「どんなことがあっても、か」
「なんか意味深だよね」
「馬車を用意してるそうね。私たちもすぐに向かいましょう」
そうして、三人はギルドが用意した馬車に乗り、王家の娘のいる都市へと向かうことにした。
王家の娘イルフェスがいる学園は王都から馬車で一時間ほどで着く距離にある都市にいるようで、その都市も王都と同じように城壁で囲まれている。つまり王都と同じぐらいに重要な場所と言えるだろう。
馬車に揺られること一時間、時刻は十時を少し回ったところだ。
そうして案内された場所は学園の前である。そこにはいかにも近衛兵と思わしき人が数人立っており、その奥にシスティと同じくらいの少女が立っていた。
「あれが王家の娘か」
「そのようね」
そうして三人は近衛兵に近づく。
「何者だ」
「イルフェスの護衛だ。王家から直接指名されてきた」
エルフレットがそう言って、ギルドから受け取った依頼書を見せる。
「護衛は我ら近衛兵が責任をもって担当している。得体の知れぬ冒険者風情には荷が重すぎるだろ」
「この文面だと、あなたたちを信頼しているようには思えないのだけど」
ユイは王家の依頼書を見ながらそう鋭く近衛兵の男を指摘する。
「なっ、我らを侮辱するつもりか!」
するとユイは首を横に振ってそれを否定する。
「私たち冒険者風情が役に立てることはないわ。王宮まで一時間程度なわけで、その間一緒に同行するという形でどうでしょう」
「ふん、お前ら冒険者が王族のそばにいるというだけで幸運と思うんだな」
「とても光栄ね」
気に食わなさそうな顔をしていたが、どうにか納得してもらえたようだ。
近衛兵の男は奥で何人かと話しているが、話の内容は三人にはよく聞こえなかった。
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