トンデモ大型新人

 高難易度の依頼をものの数時間で片付けてしまった三人は、魔物が先ほどまで住み着いていた森林を出て王国への帰路に着いていた。


「エルフレットの魔術って万能なの?」


 ふと、システィがそう呟く。それに続いてユイも口を開く。


「そうね。この依頼はエルフレット一人で十分だったわね」


 それを聞いていたエルフレットは少しため息を吐き、言葉を続ける。


「自分で弱点を晒すようだが、高度な魔術を発動するには時間が掛かるからな。まぁ下級魔術程度なら無詠唱で発動することは可能だ」

「じゃ時間さえあれば、どんなことでもできるの?」


 エルフレットの言葉にシスティが質問する。


「時間さえあればな。だが、実戦になればそれも難しいだろ」


 それもそっか、とシスティは呟く。


「戦術的にいえば、私やシスティが時間を稼いでエルフレットが決定打となる魔術を使うと言ったところかしら」

「うん。その方がいいかも」


 ユイの考えにシスティは同意する。

 時間があればどんな高火力の魔術でも発動できるエルフレットからすればもちろんそれは理想である。ただ、エルフレットには一つ不安に思う点が一つあった。


「実情を知らないままに突撃するのはリスクがあるからな。その点は気をつけるべきだろうな」


 その戦術の不安点を言葉にした。


「……そうね。しばらくは情報を得る必要があるし、それに私たちの武器も調達しないといけないね」

「ああ、その通りだ」


 今の三人には元の世界にあった伝説級の武器や道具がない。それゆえ、三人の真価を発揮できないのである。

 エルフレットには魔法の発動時間を短縮できる魔杖まじょうが、ユイには魔を打ち払う聖剣が、システィは最高の銃が必要なのだ。

 元の世界の物と同等とはいかないが、それに近いものを調達するか、作る必要があるのだ。


「じゃ、しばらくはこの冒険者生活をするのか」


 システィはどこか楽しそうにそう言った。彼女にとってはこの非日常的な生活に憧れていた面もあったようだ。

 それからの帰路はお互いの世界のことで話が膨らんだ。


 陽が沈み始めた頃にギルドに到着すると、酒場の方から大男がやってきた。その顔はどこかニヤついた表情をしている。


「どうだった? 魔物の群生地の様子はよぉ?」


 大男はエルフレットに対して挑発めいた言葉を投げかける。


「少し物足りなかったぐらいだ」


 エルフレットがそう言うとその後ろにいるシスティはふん、と胸を張っている。


「ああ? それにしては手荷物がねぇじゃねーか」

「危うく消し炭にしかけたが、しっかりと持ち帰ってきた」


 エルフレットは大男の横を素通りし、受付嬢の方へ向かう。


「依頼完遂の報告だ」


 そう言うとエルフレットは空中に円を書き、そこから大量の魔物の角を床に出現させる。


「ちょ、ちょっと待っててね!」

「なんじゃこりゃ!」


 受付嬢と大男はその光景にひどく驚くことしかできなかった。

 受付嬢はその現実離れした光景に少し動揺していたものの、しっかりと魔物の角であることを確認する。


「確かに魔物の角で間違いない……それでは報酬の支払いね」


 受付嬢はその動揺とした態度を改め、奥の方から大きな箱を取り出してきた。


「よいしょっと……これが今年度最高額の報酬、一四〇万グランよ」


 ドンッ、と重々しくカウンターに置かれた箱の中には大量のグラン金貨が詰め込まれていた。

 大男はその金額を見てただぽかんと口を開けていただけだ。


「受け取ろう」


 そう言って、エルフレットはその金貨の入った箱をまた異空間に取り込んだ。


「み、見たことのない魔術……」


 そう呟きながら、見入るように受付嬢はエルフレットの手先を見つめている。


「おい! そんなの偽モンだろ!」


 そう言って、エルフレットが受付嬢から離れようとした途端、大男が怒鳴る。


「どうしてそう思う?」

「さっきここで銃弾を生み出してたじゃねーか!」

「ああ、それのことか。だが、これはしっかりと討伐して手に入れたものだ」

「証拠はあるのかよ!」


 それでも大男は信用しないようだ。言葉だけではその信憑性に欠けるからだ。


「ふむ、ならあの森林地帯に向かえばいい。魔物はいないだろう」

「ふざけやがって!」


 すると、大男は太い腕を振り上げエルフレットに殴りかかろうとする。それを止めようとユイは駆け出すが、意外にも受付嬢が前に出た。


「あ、姉貴……」

「あの角は本物よ。鑑定資格のある私が見間違えるとでも? それと姉貴というのはもうやめて」


 先ほどの穏やかな表情から一変し、鋭い目つきで大男を睨み付ける。

 大柄な男は大きく舌打ちをして振り上げた拳を下ろす。


「……覚えておけよ!」


 受付嬢の制止に観念したのか、大男は酒場の方へと向かった。


「ごめんね。馬鹿な人で」

「謝る必要はない」


 その様子を見ていたユイは受付嬢に問いかけた。


「もしかして、あなたは元冒険者なの?」


 ユイのその指摘に受付嬢は答えるのを少し悩んだが、すぐに口を開く。


「ええ、二年前まで冒険者をやってたエルセ・アントレーヌよ」


 エルセは目を伏せて、どこか悲しそうにそう言った。


「何か嫌なことを思い返してしまったようでごめんなさい」


 ユイはエルセのその表情を見て彼女に謝罪する。しかし、エルセは首を横に振った。


「いいの。昔のことだから。これからも中央ギルドをよろしくね」


 そう言ってエルセはまた受付の方へと戻っていった。その背中はどこか悲しみに満ちているようでもあった。


 その後、武器を返しギルドを後にした三人は街道を歩いていた。


「た、大金だよね?」

「ええ、そこの店の商品全て買えるぐらいの金額ね」


 システィとユイは手に入れた報酬について話していた。

 それもそのはずで、今年の最高報酬だとあの受付のエルセが言っていたからだ。

 レストランでパスタを一つ買うのに三〇〇グランほどが相場だが、手に入れた金額は一四〇万グランだ。

 道沿いにある武器屋を見て回っても大体は直剣一つで八〇〇〇グラン前後である。この金額であればどんな武器が買えるのか三人は想像がつかなかった。


「とりあえず、二人の武器を揃えるとしようか」

「うん! いつまでも貸出の武器は使えないからね」


 街道を少し歩いて目的の武器屋に入る。先ほど通り掛かった住人に教えてもらったこの武器屋は剣などを主に取り扱っている。それに他の武器屋よりも質がいいと評判のようだ。

 その店に入ってみると武器はそれなりにいい値段をしているものが多数あった。そして鋭く磨き上げられた剣先は鎧を容易く切り裂くことができそうなぐらいだ。


「ちょっと高いかしら」

「いや、好きなものを選ぶ方がいいだろう」

「うんうん。気に入ったものでいいよ」

「そう、もう少し選んでみるね」


 ユイは剣を選定し始めた。

 この武器屋は無骨なデザインで特に彫刻などは彫られていないが、どれも金属の密度が高く強度があるものが多かった。

 そうシスティとエルフレットが見渡していると、ユイは一つの武器を手に取っていた。


「これにするわ」


 ユイがそう言うとエルフレットは闇の空間から必要分の金貨を取り出し、ユイに渡す。

 選んだ剣はどうやら十四万グランと高値ではあるが、この店の相場で言えば安い部類だろう。

 その直剣を持って店主とみられる男の前にユイが向かう。


「お姉さん、なかなかいい目をしてるな」


 ユイが持ってきた剣を無精髭を生やした店主が見てそう嘆息を吐く。


「それは特にいい出来だったんだが、売れなくてな。仕方なく、安い値段にしたんだ。まぁ見切り品とは言え、品質は保証するぜ」

「そう、ではこれにするわ」

「あいよ! これからもご贔屓に、お嬢ちゃん」


 無事にユイは得意とする直剣を手に入れることができた。

 店から出ると、ユイは二人に向かって一言言う。


「本当によかったのかしら?」

「あの店の中にしては安い部類だったし、それにユイちゃんがさっきの依頼で頑張ってたんだからいいの」


 システィはそう言って、ユイに向かって親指を立てた。


「それならいいのだけど」


 まだ腑に落ちていない様子だが、ユイは大切そうにその剣を腰に携えた。


 次に買うのはシスティの銃なのだが、大通りの武器屋には彼女の気に入る物はなかった。それでも何かを買わないわけにはいかないので、七発装填することができる回転式拳銃を近くの武器屋で買うことにした。

 システィ曰く、護身用にはちょうどいいとのことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る