ギルド登録

 システィの案内で無事にギルドに到着した三人は受付に向かった。

 ギルドの中には酒場も併設されているようで、昼間なのにも関わらずいかにも柄の悪そうな人がその酒場に集まっている。

 その様子にシスティはおどおどとしているが、エルフレットが彼女の背中を軽く押すことで気を落ち着かせていた。


「受付はここか?」


 エルフレットはそう言って受付嬢に声をかける。

 受付嬢はキャラメル色の美しい髪を一つに束ねてサイドテールにしている女性であった。受付嬢は書類を棚に直しているのか、サイドテールをゆらゆらと揺らしながら何かをしている。


「はーい」


 エルフレットの言葉に気づいて受付嬢が振り返る。


「あら、見かけない顔ね。登録かしら?」

「ああ、三人分頼む」


 エルフレットの言葉を聞いて、受付嬢は手慣れた手つきで書類に必要事項を書き込んでいく。


「役職はどうする?」

「何があるのかな」


 すると、エルフレットの後ろに隠れていたシスティが顔を半分出して受付嬢に尋ねる。


「魔法を扱う万能型の魔術師、前衛を張って攻撃する剣士、そして火力支援の銃士の三種類ね」


 受付嬢はシスティにそう優しく声をかける。

 どうやらこの三つの役職が主なもののようだ。他にも回復などを担当する治癒士や物資などを担当する補給係などの役職があるが、三人ほどのパーティであればそれら細かな役職はないようだ。


「では、ボクは銃士……にします」

「私は剣士でお願い」

「オレは魔術師だ」

「はい。わかりました」


 そう言うと受付嬢は必要事項を書き込んだ書類を三人に渡す。


「ここに名前を書くと登録完了よ」


 受付嬢に言われた項目に名前を書き込む。

 三人が名前を書き終え、受付嬢に渡す。


「エルフレット、システィに、ユイね」


 そう言って名前を言葉に出して確認をとる。三人はそれに頷いて確認を取る。


「プレートを作るから少し待っててね」


 受付嬢は手前の機械でプレートを人数分作る。

 ほんの数秒で一枚、二枚と出来上がっていく。


「はい。これが冒険者プレートね。これは依頼を受ける時に必要になるから無くさないように、ね」


 そう言って受付嬢は三人にそのプレートを渡す。

 プレートにはさっき書いた名前の他に役職も彫られている。さらにその下に小さいが、縦に棒線が引かれていた。


「この線は?」


 それにいち早く気付いたエルフレットが受付嬢にそう尋ねる。


「それはランクね。依頼の選択はそのランクによって決められていて、その棒線が多いほど高難易度で報酬の良い依頼を受けることができるの」


 この世界のギルドはランク制の依頼システムを取っているようだ。そうすることで依頼の成功率を上げている。

 するとユイが受付に質問をする。


「私たちは低ランクの依頼しか受けられないのかしら?」

「基本的には受けられないけど、例外として誰も引き受けなくて余ってしまった依頼なら受けることができる。でも初心者にはお勧めしないわね」


 そう言うとユイは少し考え込んで、エルフレットとシスティを一瞥する。

 そして、何かを確信したかのように頷いて受付嬢に話す。


「では、今日の余りで高難易度の依頼はない?」

「え!? いまさっき登録を済ませたばかりだよね……」

「できないことはないわよね」


 ユイの真剣な眼差しに受付嬢は従うしかなかった。ただの受付嬢である彼女はそれを拒否することができないからだ。


「えっと、戦闘を要するものでして……王国東部にある森林地帯で多くの魔物が蔓延っているようで、それの退治をお願いしたいと言う依頼なら……」

「それを引き受けましょう」


 たどたどしく話す受付嬢に即答するユイ。

 それに驚いた受付嬢はもう一言、忠告するようにユイに言う。


「もう一度言うけど、これは戦闘を伴う依頼で、推奨人数として十人規模のパーティで挑むものとしてるの」

「十人程度であれば、私一人で十分よ。そこの武器を貸してもらえるのかしら」


 ユイは武器が無造作に並べられた部屋を指さした。


「あ、うん。自由に使っていいよ」


 さも当然のように答えるユイに受付嬢はただ言われるがままに受けるしかなかった。


「ありがとう。依頼の手続きをお願いね」

「本当に良いのね?」

「もちろんよ」


 そう言うと受付嬢は少し躊躇したものの、依頼書に印を押した。


「依頼成功の条件として、魔物の群れを討伐した証である魔物の角を持ち帰ってくること」

「その程度なら問題ない」

「……魔物の数も多いことだし、戦利品用の馬車を用意するけど  」


 受付嬢がそう言うと、エルフレットがユイの後ろから顔を出した。


「大丈夫だ。そこまでしなくてもいい」

「そ、そう、なのね」


 受付嬢は少し不安そうな顔をするが、すぐに顔を上げる。


「では、皆さんの無事を願って。が、頑張ってね」


 そう言って受付嬢は一礼した。顔は見えないが、酷く動揺しているのは確かだった。


 それからユイとシスティは武器の並べられた場所に移動する。

 その様子を後ろからエルフレットはそれを眺めながら待っている。すると、武器を選定している彼女らのところに一人の大柄な男が向かっていった。


「お嬢ちゃんたち、あの依頼を受けたんかい?」

「ええ、そうね」


 男に見向きもせず、武器を選びながらユイはそう答える。システィは表情を隠してはいるが、少し怯えているようだ。システィは少し臆病な性格なのだろうかとそうエルフレットは思った。


「ちっ、気に食わねぇな。ちっとは可愛らしくしたらどうだ? えぇ?」

「可愛らしく、ね」


 そう言うとユイは可愛らしい薔薇の刻印が施された剣を取り出した。少し埃がかぶっている剣で、見るからに誰も使っていないような代物だった。


「ははっ! そんな下手物げてものであの依頼をやるってのか?」

「可愛らしい剣なのだけど……」


 ユイはそう言って剣にかぶった埃を手で払う。


「そこのチビはどうするんだ?」


 男がそう言うとシスティは肩をびくりと震わせた。


「え、えっと——」

「システィは銃士よ」


 ユイはシスティが萎縮しているのを見て、彼女を庇う。


「へっ、あんなガラクタを撃って楽しいのか。これだから初心者はよ」


 大柄な男の言葉にシスティは拳を握って絞り出すように声を出した。


「……じゃない……です」

「あ? なんだって?」

「ガラクタじゃないです!」


 そうはっきりと強く言ったシスティは初めてで、どうやら銃に対しては熱が入るようだ。


「まぁせいぜい頑張ってこいよ。魔物を見た瞬間にビビって帰ってくるのが目に見えてるぜ。そうなれば俺たちのパーティに来いよ。男五人で歓迎してやるぜ」


 そう言って大柄な男は二人から離れる。終始、いやしい目で二人を見ていたのだから、それが目的なのだろう、とエルフレットは思案した。

 ユイたちから離れた大柄な男は二人を見守っているエルフレットに目を付けると、彼のところへとゆっくり歩いていく。


「綺麗な嬢ちゃんを守りたけりゃ必死に戦えよ? ヒョロガキが」

「そうだな。いかにお前に赤恥をかかせるかを必死に考えるとしようか」

「は?! かっこつけているのは今だけだからな! お前の前であの二人を辱めるとしようか。はは! 顔を歪めているお前が目に見えるぜ」


 そう言って男は愉悦に浸ったかのような笑い声で酒場の方へ向かった。

 酒場の方では他の男四人がいた。彼らもまた悪趣味な笑みを浮かべている。

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