エーラハベイル王国編

放たれた英雄たち

 視界が鮮明になり目の前に緑の平原が広がっている。

 無事に三人とも異世界への転移ができたようだ。


「これがこの世界の服装か」


 エルフレットが着用していた黒いローブとは異なり、淡くくすんだ黄色のような色をした服装に変わっている。

 ユイの騎士然とした軍服やシスティの奇妙な服装も同じようにくすんだ黄色の服に変わっていた。その背中まで伸ばした綺麗なブロンドの長髪と相まって美しい容姿となっている。街中で見かけたら二度見をするほどの美人だ。

 さらにシスティは肩口に切りそろえられた晴れ渡った空のようなスカイブルーの美しい髪とその低めの身長からは元気な印象を受ける。


「これがこの世界の服装か、古い感じもするけど」

「こうしてお洒落ができるなんて……」


 システィは少し不満そうだが、ユイはどうやら少し嬉しそうだ。


「さて、とりあえず人間領の方角へ向かおうか」

「ちょっと待って」


 エルフレットが歩き出そうとすると、ユイが彼を呼び止める。その表情は彼を敵視しているようなそう言ったもので、その目は鋭く彼を捉えている。


「どうかしたか?」

「あなたは魔族なの?」


 ユイはそうエルフレットに質問する。ユイの世界では魔を纏うものは魔族に限られていた。そのため、ユイは転送されてからずっとエルフレットのことを警戒していた。


「まずは理由を聞こうか」


 魔族、つまり敵として認識されたのに対してエルフレットは冷静にその理由について聞く。


「先ほどから魔力などと話している。魔法を扱えるのは魔族のみのはずよ」

「そのことか。オレは魔法を扱えるが人間だ。オレのいた世界は人間も魔法を扱うことができる世界だったからな」


 すると、システィも少し大袈裟な手振り身振りをしてユイの警戒を解こうとする。


「そ、そうだよ。私の世界は科学が発達してて、ね?」

「女神様は三つの異なる世界から召喚したと言っていただろ? それぞれ概念の違う世界から来たんだ」


 エルフレットがそう言うとユイはゆっくりと目を閉じて少し考え込む。


「……ごめんなさい。少し取り乱してしまったようね」

「別に問題はない。異なる世界のことを理解するのはそう容易いことではない」

「うんうん」


 システィとエルフレットはそう言ってユイの事情に配慮する。


「とりあえず、人間領に行きましょうか。このままでは戦えませんし」


 ユイがそう言うと先ほど勢力図で見た通りに進んでいく。

 すると、システィが何かに気付いたかのように口を開いた。


「あ、そういえば自己紹介まだだったね。ボクはエレントバイン銃砲店の娘にして対テロ特殊狙撃班所属、だったシスティ・エレントバイン。これからよろしくね」


 ふん、と胸を張って元気のいい自己紹介をするシスティだが、その肩書きにあまり理解できていないユイとエルフレットはただ首を傾げるだけだった。


「えっと、私はベヘイラ王国特選剣士のユイ・アフィレーナよ。よろしく」


 そう言って軽く一礼をしてみせるユイ。それに対して驚きを隠せない様子のシスティはどこか憧れのような目でユイを見つめていた。


「オレは肩書きなんてものはないが、周りからは竜殺しの魔術師と呼ばれていたエルフレット・クレストレーベスだ」


 エルフレットは少し恥ずかしそうに頬をかきながらそう言うと、システィが目を丸くした。


「お〜なんかかっこいい!」


 真っ先に反応を示したのはシスティだった。ユイはまだ警戒が残っているのか、特に表情を変えなかった。


「二人ともお伽話に出てきそうな人でボクなんか役に立てるか、わからないよ」


 システィは続けて笑顔で言う。しかし、その声は弱々しくも聞こえた。


「オレの世界では魔術が全てだ。それ以外に関しては無知に等しい」

「ええ、そうね。私もシスティが言っている科学やエルフレットのような魔術の知識もないし。みんなで力を合わせないとね」


 弱音を吐いているシスティを慰めるようにユイがそう言う。


「……ありがと、お役に立てれるよう頑張るね」


 エルフレットとユイの言葉を意外と思ったのか、目を見開いていた。そして、すぐに笑顔に戻り、二人に感謝するシスティであった。


 しばらく歩いていくと大きな城壁が見えてきた。どうやら人間領の王国のようだ。こうしてみると人間領もかなりの大きさであることは確かだ。

 近づいていくと城門は開いており、その両端に二人の門番がいた。

 その門番は三人を見るなり声をかける。


「止まれ、見かけない顔だな」

「なんでしょうか?」


 システィは少しあたふたしているが、ユイは凛々しく門番の前に立つ。


「ふむ、向こうの村から来たのか?」


 門番がそう言うと、ユイは軽く頷いて見せる。


「またあの村の住民か。一応検査をする」


 そう言うと門番の一人が気怠そうに小さな装置を取り出して、三人の手首にかざす。

 すると、その装置は緑色に光り始める。


「三人とも人間で間違いないようだな。よし、通れ」


 門番はそう言うと自分の持ち場についた。


「ありがとう」


 ユイはそう言って、城門をくぐる。それを追うようにエルフレットとシスティは続く。

 門番が見えなくなるところまで来て、システィが一言言う。


「う、嘘吐いたよね」

「いいえ、吐いてないけど」

「まぁ肯定はしていないからな」

「でもでも、頷いたよね?」


 システィはユイの前に立って尋ねる。


「向こうが勘違いしただけよ」

「勘違いしたあの門番が悪い。無事に通れたことだし、気にすることではないだろう」

「……そっか、そう言うことにしておくね」


 システィはそう言って前を向き直す。


「それにしてもどこだろうね。ギルドって」

「とりあえず、大通りに出ましょう。そしたら地図もあるだろうし」


 ユイの提案で三人は大通りに向かうことにした。

 大通りまでの道を歩いていると、この王都は石造りの建物が多いようだ。そして、レストランなども多く点在しており料理が盛んなのだろう。その様子から水道設備が整っていることも伺える。

 王都内は意外にも活気に満ち溢れており、女神が見せてくれた勢力図からして想像できないほど平和である。あの状況ではもっと閑散としていると思っていたが、それは思い違いだったようだ。王都の人口は約三万人ほど住んでいるらしく、昼間のこの時間帯は人の行き来が激しい。

 そうして大通りに辿り着く。そこにはこの王都を上から俯瞰して写した地図が表示されていた。


「えっと、ギルドはここね」


 システィが軽く背伸びをして地図を覗き込む。

 それからシスティを先頭に三人はギルドに向かった。

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