いざ、新世界へ

 そんなこんなで女神によって天界に召喚された三人の英雄は第四世界のことについての説明を受けることになった。


「改めて言います。ここに呼んだのは第四世界を救っていただくためです」


 こほんと、わざとらしく咳払いをした女神はそう言って、説明する。もちろんそれはここに転生する直前に知らされていた。


「多少強引ではありましたが、無事に三人を召喚することができました」

「ボ、ボクなんか任務の途中で転送されたんですけど……」


 女神の言葉に緑の物体がゆらゆらと動きながら文句を言う。もちろんそれは第二世界において最高峰の技術を駆使して作られた擬態服である。それを纏っているのは銃砲店の娘にして最高の射撃手でもあるシスティだ。


「その物体は何かしら?」

「物体とは失礼な! これはれっきとしたギリースーツだよ!」


 聞き慣れない言葉を言われて第一世界最高の女剣士ユイは困惑した表情を浮かべる。それと同時に第三世界最高の魔術師エルフレットも不思議そうにその奇妙な服を見つめる。


「奇妙な服であることは確かだが、特に魔力などは込められていないようだな」

「「まりょく……?」」


 エルフレットの言葉にシスティは困惑の目を、ユイは警戒の目を向ける。


「……すまない。話を続けてくれ」


 と言って、エルフレットはその気まずい視線から逸らすように女神に話題を移す。


「えっと、話を戻します」


 女神は小さく手を叩き注目させる。三人も女神の話を聞く態勢をとる。


「これから転送する場所は第四世界です。この世界はあなたたちの世界とそう大差ない大きさですが、人類の数が圧倒的に異なります」


 女神は魔法で第四世界の勢力図を浮かび上がらせる。

 それらの魔法に対してエルフレットは平然としていたが、システィとユイは興味深そうな表情をしていた。

 そして、それらの勢力図を指差して女神は続ける。


「この中心にある赤い領域は魔物と呼ばれる化物の領域です。そして、その周りを囲むように勢力を伸ばしている黄色い領域が魔族です」


 そんな説明をしていると、システィが小さく手をあげた。


「魔物と魔族って何?」


 第二世界にはこのような魔族や魔物と言った勢力は存在しなかった。魔力という概念すらない第二世界ではそう言った勢力が出ないのだ。


「魔物は魔を纏った高い基礎能力を持つ怪物といった存在です。知能はそこまで高くはなく組織的な行動をしない生物です。それに対して魔族はそれなりに知能を持っており、さらに魔を纏っているため身体能力も高い。そして、魔物と違って社会的な生活をしています。そのため、魔族の領域は魔物の勢力を囲むように勢力を伸ばしています」


 魔族はその魔力を維持するために魔物を喰らう習性がある。魔族は魔物を狩ることで魔を纏い続けることができ、そして強力な魔法もまた扱うことができるのだ。


「どちらも怪物ではあるが、社会的な生活を取るかどうかと言ったところか」


 エルフレットは納得するように頷いた。もちろん彼の世界にも魔族や魔物は存在していたが、ドラゴンがそれらを蹂躙してしまっており、ほとんど絶滅してしまっていた。

 それに対してユイは魔族の王である魔王が存在していた第一世界で生活していた。当然ながら魔族や魔物の類は理解している。


「はい。そんな感じですね。そして、少し拡大してこの青い領域が人間の領域になります」


 その領域を見て三人は言葉を失った。

 その人間が生活している青い領域は魔族と魔物の領域に挟まれている部分に位置している。到底脱出ができるようなものではない。

 ただ、一つ救いがあるとすれば海があるところだ。海に出れば海魔に出会うことはあるだろうが、どこの領域にも染まっていない島がある。


「海が唯一の救いかしら」

「少し離れているが、孤島があるな。逃げ場がないよりかはいいだろう」


 ユイとエルフレットがそう分析している。その解説にシスティもうんうん、と頷いている。

 それを見ていた女神はその島について説明する。


「その島は自然豊かな場所ですが、どこの種族もまだ未開拓のままです」

「なるほど……」


 エルフレットは緩く腕を組み、ユイは小さくため息を吐いた。

 未知の島を開拓するのはそう容易いことではない。それに自由に動けるのが今ここにいる三人だけであるとなれば当然の反応だろう。


「でも、手立てはありますよ。あなたたちがこの人間の国を導いてくれればいいだけですから」

「口で言うは易しってこのことね」


 ユイはそう悲観的な感想を述べる。


「この勢力図だけでもかなりの差がある。無理にでもこの勢力を伸ばせばどうなるかわからない。いくら集まったとしてもここの三人では限界が来るな」


 ユイはエルフレットの言った言葉に同意するように頷いた。


「でもでも、ボクが自律型の機銃を作れば問題ないよね?」


 そんな中、システィがそのようなことを言う。


「その自律型の機銃とはどのようなものだ?」


 エルフレットがそう言うと、システィは胸を張ってまるで自慢するかのように口を開いた。


「名前通り全自動で動く銃のことだよ。その場に兵士がいなくても勝手に標的を探して迎撃することができるの!」

「ふむ、知能のない魔物相手であれば使える手かもしれないな」


 そう言ってエルフレットは軽く頷いてみせる。その様子を見てシスティは満足そうな顔をした。しかしユイは少し疑問に思っていた。


「そんな夢のようなものを作れるのかしら」

「ああ、探査系魔術を応用すれば——」「もちろんだよ、モーターとかあれば——」


 そう同時に言うとエルフレットとシスティは互いに目を合わせた。二人の考えに小さな齟齬そごがあったことが判明したからだ。


「どのような仕組みで動かすつもりだ?」


 真っ先に口を開いたのはエルフレットだった。


「え、えっと……コンピュータを使ってですけど」


 急に小さくなった緑の物体はエルフレットに怯えているようだった。

 そんな会話をしていると女神が再度手を叩いた。


「話を中断してごめんなさい。あまり時間がないから続けますよ」

「ああ、そうしてくれ」


 エルフレットはそう言って女神の方を見る。それに続いて二人も話に耳を傾ける。


「これから転送するのはこの平原です。エーラハベイル王国王都の近くの平原です。周囲に魔物がいないことも確認済みです」


 女神がそう指差した場所は魔物領と人間領の間にある平原で、人間領寄りの場所である。


「それからあなたたちの武器や道具は没収していただきます。三人とも伝説級のものですし、まずこの第四世界に存在してはいけないものです」

「まぁ当然でしょう」


 ユイはそう言って腰に携えてある聖剣を女神に渡した。それに倣ってエルフレットは魔杖まじょうを、システィは大型ライフルを床においた。


「これらは没収しますが、第四世界で同じようなものを作ることは自由ですので」

「オレはそれがなくとも大丈夫だ」

「聖剣がなくとも戦えるわ」

「ボクも作れるなら、大丈夫かな」


 女神は反対されると思っていたが、それは杞憂だったようだ。


「それでは転送いたします。その際に服装もこの世界の一般的なものになります」


 そう言って女神は魔法陣を描き始める。

 三人の足元に描き出されたその青白い魔法陣は徐々に光を強めていく。


「これからの行動についてです。転送先の人間領で冒険者登録をしてください。それで依頼を受けること、武器の貸し出しなどができるはずです。それからは自由に動いてくれて大丈夫です。では、無事に第四世界の人類を救ってくれることを心より願っています」


 女神のその言葉を最後に三人の視界が真っ白になった。

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