三つの世界からこんにちは!

結坂有

プロローグ〜三つの世界から〜

蓋然的強行処置

 この世界には創造神によって四つの世界が創造された。

 一つ目は剣の世界、二つ目は銃の世界、三つ目は魔法の世界、そして、最後はそれらが混在している世界。

 

 剣の世界ではとある女剣士が魔王を倒し、銃の世界では銃砲店の娘が強大な組織を壊滅させ、また魔法の世界では魔法の理を解明したある青年がそれぞれ活躍していた。

 しかし、四つ目の世界ではそれらの英雄と呼ばれる人が生まれなかった。それだけでなく魔物も多く発生し、世界が滅亡する一途を辿っている。

 それはこの世界に住む人たちの選択の結果であって、この世界の人類が滅亡したとて彼女は特に何も感じはしない。ただ、この四つ目の世界が何者かによってそのような運命を辿っているのだとしたら、それは世界に秩序をもたらす女神として許されないことだ。

 そして、彼女が独断で調査したところ、女神である自分が関わったことのない操作があったことがわかった。

 それに危機感を感じた女神は他の三つの世界から英雄と呼ばれる人たちを召喚することを決意した。女神として人間世界に干渉することは基本的に許されていないが、滅亡を阻止するためであれば例外として、女神は行動する。あくまで神として秩序を守るために。


「仕方ありませんね……」


 女神がそうため息混じりに魔法陣を描き出す。

 この魔法陣は神の種族でのみ使用できる特殊な魔法陣だ。一般的な魔法陣は魔力を使うが、これは神の力である神聖力を使って構築されている。


「でも、いきなり召喚しては不自然ですよね」


 女神はそう言って首を傾げる。

 すると、もう片方の手でさらに一つ魔法陣を作り出す。


「少し様子を伺って召喚いたしましょう」


 女神が作ったもう一つの魔法陣にはそれぞれの世界が映し出されている。


「まずは剣の世界から」


 そうして、女神は魔法陣を覗き込む。


 剣の世界ではとある女剣士が魔王を倒したと情報がある。

 それほどの英雄であればあの世界を救えるかもしれないと、女神はその女剣士を探す。

 すると、一人の少女が王の前に膝をついていた。


『剣士ユイ・アフィレーナよ。魔王の討伐は人類にとって偉大な快挙であった』


 王はそのようなことを言っている。どうやら魔王の討伐に対する賛辞を贈っているのだろう。

 女神はその王に対して少し細工をすることにした。


『いえ、私は使命を全うしただけです』


 ユイはそう言う。


『……ときに、剣士ユイ・アフィレーナよ』


 唐突に王が話題を変えたことにより周囲は少しざわつく。これは女神が王に細工を施したからだ。


『は、なんでしょうか』


 ユイも少しばかり不思議に思ったのか王の顔を覗く。


『次なる使命だ。第四世界を救うのだ』

『だ、第四世界……ですか』


 動揺しているのはユイだけではなく、周囲の王室騎士も動揺していた。


『そうだ。こちらに来なさい』


 そう言って、王はユイを手招きするように合図する。

 予想外な王の行動にユイは不審に思うが、王の命令には従わなくてはいけない。少し警戒した様子でユイは王の近くに立つ。


『これから天界へ一度転送する。眩しいだろうから目を閉じるとよい』


 そう言って王はユイの頭に手をかざす。

 すると、ユイの体は発光し光子となって消えていく。もちろんその光景を見た王室騎士たちは騒然とする。大事な儀式であったのだが、この光景には驚きを隠せなかったようだ。


「少し強引でしたが、次にいきましょう」


 そう言って、女神は次の世界を覗く。


 二つ目の世界は銃の世界だ。この世界は数年前から強大な国際犯罪組織が蔓延っていた。だが、最近その脅威を一人の銃砲店の娘が壊滅に近い状態にさせたのだ。

 今は各地に広がった組織の残党を掃討しているようだ。


「……いましたね。この私の目を一瞬ですが欺けるとは、まさしく逸材ですね」


 森を探していると、自作のギリースーツ〈擬態するための服〉を着用した一人の少女が狙撃の準備をしていた。彼女は銃砲店の娘であり、また国際犯罪組織を一人で致命的打撃を与えた英雄、システィ・エレントバインだ。

 ここでもまた女神が強引ながら干渉することにした。


『司令官、いつでも支援できます』


 システィが無線でそう呼びかける。

 その無線の中に女神が干渉することにした。


『狙撃中断だ。それよりも重大な任務がある』

『中断……なぜでしょうか』


 システィはその命令に一瞬不審に思ったが、いつもの司令官の声と口調なのですぐに警戒を解いた。


『第四世界を救え、それだけだ』

『そ、それはどう言う……きゃっ!!』


 最後に可愛らしい声を上げ、システィは光子となって転送される。


「ご、強引過ぎました……」


 女神は肩をすくめるが、すぐにそれを正した。


「あれはああするしかなかったです。仕方ないことです!」


 女神はそう自分に言い聞かせる。いや、言い聞かせることしかできなかったのだ。


「次で最後ですね」


 そう言って女神は三つ目の世界に目を向ける。


 三つ目の世界は魔術が発達した世界だ。ここにはドラゴンと呼ばれる魔法を扱うとても知能が高い生物がいる。

 それらは時折、人間の国を複数で攻撃し壊滅させるのだ。

 それらのドラゴンは高等魔術師を何人集めても阻止できず、ただやられるがままであった。しかし、一人の魔術師がその攻撃を単独で阻止し、ドラゴンを討伐したのだ。

 まるで災害のようなドラゴンをいとも簡単に撃破した魔術師の名はエルフレット・クレストレーベスと言う。


「いつもここにいるはずですが……あ、いました」


 彼は国際魔術図書館にいる。もちろんそこが彼の家でもあるからだ。

 そうして、彼を見ていると女神と目が合った。


「……っ!」


 女神はその反応に驚く。


『誰か見ているのか?』


 一瞬、偶然かと思ったが、エルフレットのその一言によって否定された。続けて彼は口を開く。


『異界からの魔術、どのようなものかは知らんが何のようだ』


 その言葉に観念したかのように、女神はゆっくりと目を閉じた。

 まさか天界からの視点に気付くとは思ってもみなかったのだ。そんな彼であればあの世界を救えるのかもしれない。そう思った女神は直接エルフレットに話しかけることにした。


「急にごめんなさい。あなたには第四の世界を救って欲しいのです」


 その女神の言葉にエルフレットは少し考えた。


『……第四の世界、か。ちょうどこの世界にも飽きてきたところだ。いいだろう」


 エルフレットは読んでいる本を閉じて、立ち上がった。

 その予想外な返事に女神は一瞬戸惑うが、すぐに魔法陣を起動して彼を転送しようとする。


「眩しいから目を閉じててね」

『ああ』


 そう言って彼はゆっくりと目を閉じる。


「今回はうまくいけた、のでしょうか……」


 女神はそう少し考えるが、考えたところで答えはでない。

 そうして、女神は三人の勇者をなんとか召喚することができたのであった。

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