第16話 英雄の墓


 洞窟の中は大して広くもない空間があり、奥には上へと続く階段があった。


「少し暗いな…… ランタンに火を灯すか」


「それならば、『昼光ルーメン』」


 私が魔法を唱えると、辺りを照らす暖色の光球が現れる。

 明るくなった洞窟内を見渡してみると実に簡素な作りをしていて上への階段以外は特に何も無いようだった。


「助かるわ、マリーちゃん。 上に行くしかないようね」


 マキナさんが先頭で先へと進んで行く。

 このパーティはフォックスネイルのフトロスさんの様な盾役、所謂タンクが居ない。 強いてあげるならマキナさんがタンクだ。

 1番防御力の無さそうな着物姿だけれど、先陣を切って敵に突っ込み、敵の攻撃は全て躱す避けタンクだ。

 姐御肌でカッコいい女性で、パーティメンバーからは姐さんや姐御って呼ばれている。

 私もこれからマキナ姐さんって呼ぼうかしら。


 上の階へ着くと、やはり一階と同じ造りで更に上へと登る階段しか見当たらない。


 同じような造りのフロアをどんどんと上がっていく。 道中にアンデットはもちろんのこと魔物やネズミの1匹すら出てこなかった。


「ん? 風が吹いて来てるな」


 5個目の階段を登っている途中でカインさんが口を開く。

 外も垂れ込める暗雲のせいで暗い為、陽の光は入って来ないが、この季節にしては肌寒い風が吹き込んできている。


 階段を登り切るとそこは整地された屋上のような広場だった。

 岩山をくり抜いて造った洞窟だったのか、約30メートル四方のこの広場の外側は断崖絶壁になっている。


「あれが墓か…… だがこれでもかってぐらい怪しい石像があるな」


 カインが見つめる方向── 広場の中心には英雄の墓と思われる立派なモニュメントが据えられている。

 しかしその両脇には今にも動き出しそうな巨大な石像が置かれている。


「まぁ、行くしかねぇか」


 覚悟を決めたのかカインが英雄の墓へ向かって歩き出すとそれについて私達も歩いて行く。


 やはりと言うべきか、期待を裏切らずに2体の石像はガタガタと動きはじめる。

 

「やぁっぱりねぇー、俺は動くと思ってたよ、うん」


「アタシだって動くと思っていたわよ! 当たり前でしょ!」


「入場許可ガアル場合ハ証ノ提示ヲ」


「許可? 証ってなんだ? これか!? これなのか!?」


 カインさんがアタフタしながら英雄の墓のある島への渡航許可証を取り出して大きく振っている。

 たぶん違うと思うなぁ……


「入場許可ノ確認ガ取レマセン、侵入者ノ排除ニ移行シマス」


 初めこそ出来の悪い絡繰カラクリ人形の様な動きだったけれど、今では滑らかな動きで2体の石像……ゴーレムと言うのだろうか、が迫ってくる。


「ちっ、やっぱ違うのか!? そもそも誰に許可取ればいいんだよ!」


「はぁ、絶対にその許可証じゃないって分かってたわ」


「俺も!」


「アタシもよ!」


「ゴホッ、そぉれはないよねぇ」


「私も流石にそれは……」


「お嬢様に同意します」


「ちょっ!? お前らこんな時に冗談言ってんじゃねえ! 来るぞ!」


 マキナ姐さんが呆れた様にツッコむとパーティメンバーが皆んなで同意していく。

 なので私も乗っかって同意してみたらルーまでも乗っかってきた。

 ルーは普段は後ろに控えてあまり出しゃばらないタイプだけど、こういうお茶目な所もあったりする。

 

 それはそうと、ゴーレム2体が迫って来ている。

 どちらも同じ見た目で体高が4メートル近くあり横幅も広い。 巨大ゴブリンよりも更に大きい。


 その巨体でズシンズシン! っとやって来ては大きな拳を叩きつけてくる。

 狙いはマキナ姐さんで、姐さんは危なげなく拳を回避するけれどズドンと勢いよく叩きつけられた拳により破壊された地面の岩片が辺りに飛び散る。

 この威力では、たとえフトロスさんの様なタンクが居ても攻撃を受けたらアウトかもしれない。


「姐さん! ぶった斬ってくれ!」


「いやよ! 私の刀が刃こぼれしちゃうじゃない!」


 ゴーレム……岩石なのか金属なのか見た目ではよく分からないけれど、とにかく硬そうで重そうなその姿は刃物など一切通らなそうに思えてくる。


「んじゃあ、マクバス! 魔法でなんとかしてくれ!」


 2体のゴーレムはそれぞれマキナ姐さんとカインさんをターゲットにしているようで、しつこく2人を追い回している。


「そぉれじゃあ〜、硬いゴーレムの倒し方を見せてあげましょうかねぇ〜ゴホッ」


 そう言うとマクバスさんは深くタバコを吸うと、次の瞬間大量の煙を口から吐き出し始めた。

 モクモクと辺りに充満し始めた煙は薄い紫色をしていて急激に広がり辺りの視界を奪っていく。


紫煙魔法パープルヘイズ、ゴホッゴホッ! まぁ、相手は無生物だしねぇ〜今回はただの煙だから吸っても害はなぁいよ」


 いつの間にか少し離れた場所に移動していたマクバスは続けて魔法の矢マジックアローを連続して撃ち始めると、カインさんを追っていたゴーレムに見事に着弾する。


「ゴホッゴホッ! おお! やはり硬いねぇ〜、しかし傷一つ付かないってのは些かどうかと思うけどねぇ? ズルじゃあないかい?」


 魔法の矢マジックアローをまともに受けてもまるで効いていないゴーレムだが、ターゲットをカインさんからマクバスさんへと変更したらしく、無機質な単眼でマクバスさんの方を見ると巨体に似合わないスピードでマクバスさんへと向かっていく。


「おいおい、こっちにくるなぁよ。 痛い目見るかもよぉ〜 ゴホッゴホッ! 『マナよ、世界に揺蕩う根源の力よ、いま集いて我が敵を撃ち破れ……爆ぜろ! フレイムエクスプロージョン!」


 逃げるマクバスさんとゴーレムの間に爆発が発生する。


「やったか?」


 一瞬ゴーレムを倒せたかとカインさんが喜色を浮かべるが、すぐに渋い顔に戻る。


 何故なら爆発後の煙が晴れて来て見えたのは、やはり何のダメージも受けていなそうなゴーレムがマクバスに向かって走っていたからだ。


 すると逃げていたマクバスさんが立ち込める紫煙の中で突如立ち止まる。

 

 そこへ、追いついたとばかりにゴーレムが走り寄ると紫煙の中へと消えていってしまう。


「ほぅら、痛い目にあったじゃないか? ん? 硬くてコッチの攻撃が通らないなら、自ら壊れてくれたらいいんじゃあなぁいかい。 この煙は特別製でねぇ、人間ぐらいなら足場に使える煙なんだぁよ。 君ほどおっきいとまぁ無理だろうがねぇ、ゴホッ」


 マクバスさんが煙を解除したから徐々に消えて行く紫煙、マクバスさんが居た辺りは断崖絶壁の更にその先であった。



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