第15話 英雄の墓
薄い水色の髪をした少女は私達に出ていけと言うと、そのまま歩き去っていく。
ちょうど入れ違いにカイン達が船着き場までやって来たみたい。
「おおい、ここに居たのかお前ら。 許可を取ってきた、そろそろ出発すんぞ」
そう言ってカインは船着き場の係員に許可証を見せる。
どうやら英雄の墓がある島へ渡るには、この霊園を管理する組合の許可が必要らしく、カイン達はその申請に行っていたらしい。
「あ、あの…… すいませんがあの場所、かなり危ないので送って行ったら一旦戻ってもよろしいですか? 後で迎えに行きますので……」
「ああ、それなら問題ねぇよ。 ほら」
係員からすると英雄の墓のある島はかなり危険らしく長居をしたくないらしい。 それを聞いたカインが懐から何か取り出して見せる。
「小型魔導船舶免許だ。 俺が操縦していくからアンタはここで待ってればいい」
「ははっ、リーダーってば資格マニアだったねそういえば。 そんな免許いつの間に取ったのさ?」
「ほら、役に立っただろ? 他にも珍しいとこでコカトリスの雛の雌雄判別員とかも持ってるぞ」
レンが頭の後ろで手を組みながらあまり興味無さそうに聞いている。
他のパーティメンバーはさっさと船に乗り込んでいる。
コカトリスの雛の雌雄判別とか、使う事があるのだろうか?
「ほら、さっさと乗れ。 出発すんぞ」
☆★☆★☆★☆★☆★
借りた船は魔石を使った動力で人力で漕いだりしなくても進んでくれる優れものだ。
やっぱり帝国は王国よりも技術が進んでいるのが分かる。 王国では魔導技術はようやく研究が始まったばかりだったはずだ。
私が居ない4年でどこまで発達したかはわからないけれど。
ヴィィィィーンと独特な甲高い駆動音をあげながら人力では決して出せない様なスピードで水上を走って行く。
暫く進んで行くと、段々と辺りを灰色の霧の様なものが覆い始めてくる。
「さっきまで雲ひとつなかったはずよね? 見て? 太陽が翳っているわ」
マキナさんに言われ空を見ると霊園では燦々と輝いていた太陽が雲に遮られぼんやりとした輪郭だけを残している。
それも後数分で輪郭すらも分からなくなるだろう、それ程までに厚い雲がどんどんと垂れ込んでいく。
「なるほど、これが日中でもアンデットが徘徊できる理由か…… おっ? 見えて来たぜ」
船を運転するカインの指差す方向に島影が見えてくる。
近づくにつれ波は荒れ始め、霧はより濃く立ち込める。
海鳥達がギャーギャーと騒がしく鳴きながら上空を飛んでいる。
正しく、呪いの島という感じだ。
ゆっくりと接岸するとカインが手頃な岩にロープで係留していく。
「さぁ、行くぞ!」
皆んなが上陸を始めると、すぐに一体のスケルトンがカタカタと不気味な音を立てて近づいてくる。
すると、そのがらんどうな眼窩に矢が突き刺さる。
通常スケルトンには刺突系の攻撃は効きづらいが、眼窩を撃ち抜かれた事でバランスを崩す、そこにすかさずレンがナイフで首を斬り払うとスケルトンの頭蓋骨は落ちて動かなくなる。
私が後ろを振り向くとリンがショートボウを持って船から降りてくる所だった。
足場の悪い船から1発で頭を狙うあたり、かなり腕が良いのだろう。
しかも双子だからか連携もバッチリだった。 この2人がパーティでの警戒、斥候役なのだろう。
全員が上陸すると、待っていたかのようにワラワラとスケルトンやゾンビ、ガストなどが集まってくる。
「おーおー、熱烈な歓迎だねぇ…… そんじゃあ、とりあえず…… 手当たり次第ぶっ殺せ!」
カインの合図とともに、パーティメンバーは素早く動き出しアンデットの群をどんどんと斃していく。
カインは槍を薙ぎ払うように一度に数体のアンデットを切り裂いていく。
リンとレンは協力して確実に一体ずつ仕留めていく。
中でも目を惹くのはマキナだ、特に構えるでもなくふらりとアンデットの集団に近づくと、息つく間もない連撃であっという間に斃していく。
私とルーは出番が無いぐらい殲滅のスピードが速い。
ふと横を見るとマクバスがタバコをふかしている。
「マクバスさんは参戦しないんですか?」
「ん〜、そうだぁね。 こんな見通しの悪い場所で魔法使ったら皆んなが危ないからぁね」
たしかにこれだけ入り乱れて戦っていたら味方に誤爆しかねない。
「ったく、コイツらヨエーくせに数が多いな! なぁチビッコ! ターンアンデット使ってくれ!」
チビッコ? 私の事だろうか?
「すいません、私ターンアンデット使えないんです!」
「はぁ? 本当に神聖魔法使えるのかよ?」
「使えますよ! それに魔物退治ならターンアンデットじゃなくても…… アーアー」
──驚くばかりの神の恩寵、なんと美しい響きだろうか
──私の様な者にまで救いの手を差し伸べてくれる
──道を踏み外し彷徨っていた私を主は救い上げて下さり
──今まで見えなかった神の恩寵をいまは見い出すことができる
私は最後尾から一歩踏み出すと歌を歌い始める。
「なっ!? 何、急に歌い出してんだ!? あ!?」
「何これ? スゴイわ! 歌を聴いただけでアンデットが浄化されていく」
私が歌いながら歩を進めると次々とアンデットは斃れていく。
霧の影響か歌は思ったより遠くには届かないみたいだけれど。
「やるじゃねぇかチビッコ! おっし、このまま先に進むぞ!」
一曲歌い終わる頃にはアンデットはもう湧かなくなっていた。
たまに1、2体が現れるぐらいで順調に進んで行くと、洞窟への入り口が見えてくる。
「たぁしか、英雄の墓はこの洞窟の奥だと聴いたよぉ。 なんでも墓を守るガーディアンがいるから観光客もここ迄しか入れないようだぁよ」
「そのガーディアンってのは倒しちまって構わないのか?」
「さぁ、どぉだろうね〜。 でも呪いを解く為だからガーディアンも許してくれるかもねぇ。 それにしてもこの場所は……」
今までの悪意を煮詰めたような濁った空気から、一転してこの洞窟の内部からは神聖な気が感じられる。
かなり強力な結界が張られているみたいだ。
「神聖結界が張られてますね。 しかもかなり強力なやつです」
「なぁリーダー、こんな結界が張られている場所に呪いなんてかかってんのか? あの爺さん怪しくねーか?」
「マクバス、これにどんな効果あるか分かるか?」
「ん〜そぉだねぇ、効果までは分からないけど、でもその水晶は少なくとも呪物じゃないねぇ」
呪具や呪物に詳しいのかカインはマクバスに意見を求める。
「何か魔法はかかっている様ですが、その水晶からは不浄な気配はありません」
私も水晶を見てみるが特に怪しいところはない。
ただ、呪いを解くような
あのおじいさんが何を企てているのか気になる。 本当に呪いを解くつもりならそれで良い……
ただ、どうして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます