第13話
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鍵野井は、宿舎を出た。そうして、車をとめている兜川邸へと向かった。
兜川は自分の会社に出勤していた。が、鍵野井の連絡を受けてすぐに戻って来た。
中庭で二人は、会話を始めた。
「やはり私の予想通り、井戸の中から聞こえて来る声は、隣の瞑想道場の連中でした。地底湖には水がほとんどありませんでしたから声がよく響くのです」
「そうかね。それで一安心だよ。私はひょっとして亡霊の仕業じゃあないかと心配していたものだが」
「亡霊ではないです。そして地底湖をくまなく点検しましたが、これといって気になるものはありませんでした」
「では瞑想道場から、うちの家の地下まで、通路ができていたのかね?」
「できています。地底湖に水があったときは、その縁までしか来ることができなかったのですが、今は地底湖の底まで降りることができます。ライトを照らすと、天井から鍾乳石が無数にぶらさがっていて、すごく幻想的なのです。精神がハイになりますね。何か叫びたい気持ちになります」
「ということは、瞑想道場が続くかぎり、人間の声が絶えないということだね」
「そうですね。法律的に、規制できるかどうか難しいところです。地上であれば間違いなく問題になりますが、地の底まで権利が及ぶかどうかです」
「まあ一晩中というわけでもないし、井戸の中だけのことだ。部屋にいれば気にならない。とにかく謎が解けて私はほっとしている。先生には大変世話になった。どうかね。これから私のおごりでビールでも飲みにいかないかね? お礼もしたいし」
「車の運転がありますから、酒は飲めません」
「では焼き肉はどう? 中華料理もある」
「それなら問題ないですね」
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