第6話


 鍵野井はすぐに仕事に取り掛かった。のんびりはできないのだ。神社のこともあるが、瞑想のみで一週間はとてもすごせない。うまくいけば今日一日で謎は解決する。

 しかし、鍾乳洞に入るということは、地の底に降りていくわけだから、へまをすれば二度と地上に出られないおそれがあるのだ。

 鍵野井は宿舎で自分の荷物を入念に点検した。

 そこへ、白装束を着た参加者たちが、一人二人と帰って来た。

 新参者の鍵野井は、自分から声を掛けた。

「私は今日から瞑想を始めることになりました鍵──」と言いかけてやめた。本名を言うのはちょっとまずい。そう言えば、先ほどの女将は鍵野井の名前を聞かなかった。なぜなのか。その点でも、怪しいものがある。

 二人の男は、笑顔で鍵野井を見た。

 四十代の男が、「ここでの暮らしはエキサイテングなものがあるよ」と言った。

 もう一人の二十代の男もうなずいた。

 先日、コンビニで見かけた白装束の人たちである。瞑想するだけなのに何がエキサイテングなのか。

 しかし夜、井戸の中から聞こえて来た笑い声は、尋常ではなかったし、何かパーティーのようなことをしているのだろうか。

「夜は何時まで洞窟に入っていいのですか?」

「夜通し自由だよ。そのことはあの女将さんが説明しなかったかね?」

「いえ、説明してくれました。ではその中で飲食はできますか? それは説明がなかったです」

「できるよ。ただし鍾乳洞の中は常に清潔にしないといけない。ゴミは絶対残してはダメ。ご飯粒一つね」

「分かりました」

 彼らは鍾乳洞の中で飲み食いをしているのだ。だからコンビニでビールや酎ハイを買っていたのだ。ここはかなり自由な瞑想道場らしい。もっとも、他の瞑想道場を鍵野井は知らないのだが。

 鍵野井はさらに聞いた。

「ここには地底湖があるのですよね」

「よく知っているね。じつは、そこがわしらの遊び場、いや、瞑想の場なのだよ」

「へえー、では水が無いわけですか?」

「無い。だが湿っている。たえずどこかから水が流れ込んでいる。しかしアルミマットを敷くと問題ない。このホールの中にいると気分がハイになってね、飲む酒がとてもうまいのだ。だが酔っぱらうと、足元が滑って痛い目にあうけどね」

「良かったら私もそこに連れていっていただけないでしょうか?」

「やけに上品な言葉遣いだな」四十代の男は、鍵野井の顔を改めて見て、「いいよ、連れて行くよ。今日の夜そこへ行くから。それまでに食事をして、この宿舎にいればいい。そして飲みたいものを持っていけばいい」

「何時ですか?」

「だいたいいつも九時ごろだ」

「分かりました。その時刻にここにいます」



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