第2話 旅立ち
【月の手帳 旅立ち】
出発の朝。
日の出とともに旅立つ予定だったけれど、寝坊した……。
仕方ないの、昨日ワクワクドキドキで結局眠れなくて。
睡魔が訪れたのは明け方だったから。
睡眠時間で言えば2時間くらい。
きっと酷い顔をしていたのだろう。
お父様に今日はやめた方がいいと言われた。
でも、旅立つ日をいつにするにしろ、同じことだと思う。
日にちを変更しても、きっとまた前の夜は眠れなくて、今みたいに目の下に酷いくまを作って。
顔色は最悪だけれど、精神的にはやる気十分元気満タンだから。
「いける!いけると思います!!」
握りこぶしを作って、ポーズを決めて見せる。
お父様の深いため息が聞こえてきたけれど。
お母様に視線をやるとあまり心配してなさそう。
いつものふんわり笑顔で行ってらっしゃいって言ってくれた。
お父様もお母様も忙しいだろうに、娘の我儘の為にお仕事の時間をずらしてこうしてお見送りをしてくれる。
二人に心配をかけないように。
元気に、不安なんて微塵もないと笑顔で……。
(本当はちょっと怖いの、でも、ここで踏み出せないと憧れの冒険は絶対できないから)
お父様からのプレゼントのマントを羽織って。
最後の荷物点検。
昨日も何度も確認したけれど、念には念を。
このマントはアイテムボックスにもなる。
どんな作りになっているのか不思議なんだけれど、マントに手を入れたら欲しいものが取れる。
勿論、マントの中に入れたものに限りだから、どこからかアイテムを引っ張ってきている訳じゃない。
一種の魔法アイテムらしいのだけれど、なかなかお目にかかれないお品で。
これを手に入れてきたお父様の商才ってやっぱりすごいし。
こんな一級品、特級品かも……それを娘にプレゼントって渡すお父様もすごい。
商品として売れば、まだ商売のお取引をしたことない私でも一財産出来るとわかるお品。
そのマントのおかげで私は手ぶらで旅に出られるわけなんだけれど。
「目的地の座標は間違えてない?」
「うん、パ……お父様。
お父様に教えてもらったとおり、ほら」
ワープの為の魔法石を見せる。
座標を登録すれば、その座標が示すマスター魔法石までひとっ飛び。
「一応、保険に色々入れておいたから無理せず、いいね?」
お父様はまた深いため息をついて。
保険って何だろう?聞いてないけれどお父様とお母様のしてくれる事だからきっと大丈夫という信用がある。
「じゃぁ、カマル気を付けてね。
どのくらいの期間になるかは、カマル次第だけれど、いい冒険になることを祈っています」
「お母様も身体に気を付けてください!弟か妹か産まれるまでまだ期間があるけれど、それまでには絶対に帰って来ますから」
魔法石を握りしめる。
少しの魔力を込めて、起動させる。
「パパ、ママ、行ってきます!!」
少しの間のお別れ。
それが寂しくて、直そうと思っているパパママ呼びが出てしまった。
瞳が潤んでいるのか、魔法石が起動したからか。
パパとママの姿は滲んで見えた。
月の手帳 白米三合 @hakumai3go
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