月の手帳

白米三合

第1話 前日譚

【月の手帳 前日譚】



ずっと憧れていた。

パパ……お父様のお仕事上の冒険譚。


お父様の本業は商人で。

でも、呼ばれればパーティーを組んで冒険もする。

勿論、商売道具や必要な材料の為に一人で冒険することもある。


そんなお父様が帰って来る度に、今回はどんな事があったのかとお話をねだって。

寝物語にいつも聞いていた。

ママ……お母様もおばあ様やおじい様に寝物語をねだっていたというから、血筋なのかもしれない。

お母様は、おばあ様とおじい様の恋物語を聞きたがる子だったらしいけれど。


私は、自分が見た事のない世界を沢山想像できる冒険譚に憧れた。

お父様みたいに自分も冒険がしたくて、いつか冒険に出られるように商人としてのいろはを教わった。

お父様はとてもしぶいお顔をされていたので、本当は私を商人にはしたくなかったのだろう。


それでも、冒険生活をするための基本や護身術、お手軽に出来るキャンプ料理。

一通り教えてくれたのは、お母様が【やりたい事をやらせてあげて欲しい】という教育論だからなのかもしれない。



明日、私は初めての冒険に旅立つ。

年齢的には成人してないけれど、身体は立派に成長したし。

これでも強いし、きっと何かあっても大丈夫!

……大丈夫だよね、きっと大丈夫だよ、多分。


何度も何度もとりあえず必要だと言われるものを確認して。

早く寝ないとなのに、こうして手帳に書き示しているのは。


「緊張なのか……それとも」



とりあえず様子見だと区切られた期間内に、何が待っているのだろう。


明日、私の旅たちの日。


商人カマル=ハンとしての最初の一歩。


大商人になりたいわけじゃない、ただ憧れをこの目で見たい。

お父様は大商人なんだけれど、私はお父様の子供だと隠して旅をするつもり。


え?名前でわかるかも?

同じ名前の子なんてきっと沢山いるから大丈夫。

カマルの名前はちょっとした流行の名前だし、ハンの名前も珍しくはないから。



「いい加減眠らなきゃ。

このベッドともしばらくお別れですね」



目を閉じて、夢を見る。

明日には現実になるかもしれない、冒険の数々の夢を。



おやすみなさい……。

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