眼鏡の君はかっこいい ~Fairies 短編~

西澤杏奈

本当はいつもかっこいいけどね

 今日は天気のいい日だ。土日だから学校も休み。特にトラブルもなく、キャサリンは朝から上機嫌気分で過ごしていた。他の班員たちもそれぞれの趣味や好きなことをやっていて、キャサリンはアリシアと先ほどクッキーを作り終えたところだった。


「わあ、とてもいい香りだね!」


「うまくいってよかった!じゃあキャサリン、みんなにクッキー配ろう!」


「うん!」


 キャサリンはクッキーの乗った皿を持って、仲間に配りに行く。もちろん最初にあげる人は……。


 ノックして目の前の扉を開けたのは、篠崎翔だった。


「クッキー作ったの! よかったら食べ……」


 そこでキャサリンは止まる。翔の顔に見慣れないものがのっていることに気がついたのだ。


「あれ、翔って眼鏡かけてたっけ」


 そう、彼は今、黒いフチ眼鏡をかけていたのだ。その奥の茶色い自分の目を瞬かせて、キャサリンを見つめる。


「もしかして初めて見るのか」


 キャサリンはうん、と頷く。


「俺、あんまり視力よくないからパソコン使うときとか、本読むときとか眼鏡かけるんだよ」


「へぇ……知らなかった」


「父さんも眼鏡かけていたから多分遺伝だと思う」


「なるほど。なんだか眼鏡かけているとかっこよくみえるね!」


 まあ、本当はいつもかっこいいんですけど。


 翔はびっくりしたのか、少しの間かたまった。それから眼鏡を外して、キャサリンの空色の目を見る。


「キャサリンもかけてみるか?」


「えっ」


 彼女は少し戸惑ったが、興味なかったわけではなかったので了承する。


 翔はクッキーの皿を受け取り、代わりに眼鏡を手渡す。少女は眼鏡をかけてみたが、途端に視界が歪み、目が痛くなってすぐに外した。


「んぅ……痛い……」


「視力がいい証拠だ」


 目を擦るキャサリンを見て、翔はふふっと笑う。


「なんだかかわいいね」


「えっ?!」


 キャサリンの顔は途端に赤くなるが、翔は自分の言ったことを自覚していなかったのか平然としていた。代わりに彼はクッキーを口にする。


「美味しい。バニラ味?」


「え、あっ、うん!そうなの!」


「もう一枚もらっておく。ありがとう」


 翔はお礼を言うが、キャサリンはしばらく自身の熱を冷ますことができなかった。

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