しあわせのプリン

まなつ

(お題:プリン、法則、願いの糸)

「プリン、狩ってきてくれるって、約束したのに」

 ぽろぽろと涙を流す娘に、申し訳なさでいっぱいになる。

「ごめんな。プリン、狩るの難しいんだ。父さん、あんまり狩が上手じゃなくって」

 ぼろぼろの姿で娘に謝る俺。

「今年中には、かならず一匹狩ってくるから。な、約束」

「約束、守れないなら、しないで」

 ついに娘に愛想をつかされてしまった。


 プリンはひよこのような見た目をしているが、獰猛な鳥だ。矢が当たっただけでは死なず、とどめを刺そうと近づくと、鋭いくちばしで攻撃してくる。ひるんだら負けだ。立ち上がる猶予を与えてしまうと、手負いのまま素早く逃げてしまう。

 俺は矢の腕はそこそこだが、接近戦に弱い。プリンにとどめを刺そうとした時点でいつも逃げられてしまう。娘の友達の父親はプリンを狩るのがうまいそうだ。なんでも石をぶん投げてプリンの頭を狙い、一撃で昏倒させるとか。俺も矢を射るために腕の筋肉はある方だが、単純な腕力とは違う。いっそ誰かに手伝ってもらおうかとも思ったが、娘が望んでいるのはそういうことではないだろう。俺ひとりで、プリンを仕留めなくてはならない。


 今日も俺は、仕事帰りにプリンの狩場へやってきた。今年中と約束したからには、時間を惜しんでいる暇はない。決意を込めて弓の準備をはじめる。とんと、肩を叩かれた。

「こんばんは」

「お隣さん、こんばんは」

「そちらもプリンを狩ってこいと言われたクチですか」

「ええ、娘との約束で」

「うちも娘がうるさくってねぇ。プリンは栄養が豊富でお肌にいいなんて言って。年頃だからもう、大変で」

 お隣の娘さんは高校生だ。女子高生の間でプリンは美容にいいと流行っているとは聞いたが、これはうちも、将来を覚悟しなくてはならないな。

「お互い振り回されますねぇ」

「まあ、わがままを言ってくれるうちがハナですわ」

「あはは、そうかもしれませんね」

「では、ご武運を」

「ええ、そちらも」

 お隣さんはブーメランを使うらしい。みな、思い思いの武器でプリンを狩る。俺はお隣さんとは別方向を目指すことにする。ご近所さんとは争ったりしたくない。今日は狩れる気がする。秘策として、矢に丈夫な糸を付けた。プリンに矢が刺さったら、これでぐるぐる巻きにしてやるつもりだ。

 俺は何度も狩りに来るにつれ、次第にプリンの行動に法則があることに気づいた。まず、やつらは基本的に群れで行動する。群れを狙うと、群れの仲間が狙われたものを助けようと邪魔するので、狩りにくい。それから、小さいやつは意外と獰猛だ。捕まえやすいからと小さいのを狙うと痛い目を見る。大きくておっとりとしたやつは、群れからはぐれやすい。だから、そういうやつが単独でいるところを狙うのだ。いた。大きなプリン。周囲に仲間はいない。

 俺は願いの糸に祈りを込めて、弓を引いた――


「パパ! すごい!」

 娘はぼろぼろの俺の手にあるプリンを見て大喜びした。

「プリン! 狩ってきてくれたんだ!」

「約束したからな」

 プリンの鋭いくちばしにつつかれながらも、俺は奴をぐるぐる巻きにして逃がさず、その場で絞めてやった。作戦勝ちだ。

「ママ! ママ! プリンだよ! 栄養つけてね」

 てっきり自分が食べたいのだと思っていたが、娘は妻にプリンをすすめる。妻は不思議そうに、「あなたが食べればいいのよ」と娘にすすめるが、娘は頑として譲らない。妻は最近体調が悪いと寝込んでいた。娘なりに心配をしていたのだろうと、俺は胸が熱くなる。

「おかえりなさい。お疲れ様。この子がわがままを言って、ごめんなさいね。大変だったでしょう」

「いや、娘のわがままくらい、かわいいもんさ」

 俺が笑うと、妻がやつれた顔で笑う。

「赤ちゃん、これで無事に生まれてくるね!」

 娘が弾んだ声で言うので、俺は驚いた。妻の顔を見ると、彼女も驚いている。俺に隠していたわけではないらしい。

 週末、二人で駆け込んだ病院で、妻の妊娠が発覚した。

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しあわせのプリン まなつ @ma72

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