お洒落な眼鏡

エモリモエ

it's party time?

顧客の太田様は最近懐古趣味ノスタルジックに凝っている。

「なんか面白いモン見つけたって?」

骨董収集だけでなく、口調まで落語の聴きすぎでなのはご愛嬌。


私はニッコリ。今日も今日とて営業スマイル。

「先日お持ちした眼鏡をお気に召していただきましたので、新しく入手した珍しい眼鏡もご覧にいれたくて参りました」


私がそれを取り出すと、太田様は「ほう」と目を輝かせる。

「レンズが入ってねェな?」

「はい。おそらくファッション目的に使われた伊達眼鏡ではないかと。よろしければお手に取ってご覧ください」


昔は一般的だったという眼鏡だが今ではめったに見られない。

眼鏡とは主に屈折異常を矯正するための道具をいう。近視や遠視といった症状が人々を煩わせていた時代の遺産だ。

iPS細胞の発見を機に医療の世界は異次元の進化を遂げた。

眼科医療においては人工水晶体の普及と毛様体筋の筋組織再生技術のめざましい発展が屈折異常手術を安全で簡易にしたといえる。

ちなみに水晶体とはカメラでいうところのレンズを指し、毛様体筋とは水晶体の厚みを調整する眼内筋肉である。要はレンズと調節部分に手をいれることで、人類は近視、遠視、乱視や老眼までも克服したのだ。

無論、外科的手術に反対するナチュラリストや手術適用前の子供はコンタクトレンズを使用する。

コンタクトレンズもかつては固形の物を使っていたそうだ。今のものは点眼すると瞳の上でレンズを形成し、専用の点眼薬で溶解して涙液とともに流れる。軽度の近視程度なら大人になっても手術を面倒くさがって点眼式コンタクトレンズを使用している人もいる。

しかし眼鏡をしている人となると皆無だ。


「こいつァ確かに珍しい」

「フレームは今では生産されていない石油由来のプラスチック製で、それだけでも希少です」

「ふむ」

「フレームに付いている鼻も素材は同じプラスチック。鼻に付いている髭はポリエステルで、こちらも石油由来のものとなっております」

「20世紀後半から21世紀初頭ってトコか」

「さすがでございます、太田様」


「お洒落だねェ。まるっこい鼻とボーボーの髭がなんとも言えねェ」

「お眼鏡に叶いましたでしょうか」

「よし、もらおう。オイラこういうのにのョ」

と、駄洒落が出るほど上機嫌な太田様。さっそく眼鏡をかけてみる。

私は手鏡を掲げて、ニッコリ。

「大変お似合いでございます」

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