第4話 ガラス窓の私

 家に帰った後もどうしようかという不安は消えない。

授業後は私は数少ない友達と帰ることが多いが、今日だけは一人で帰ることにした。なんとなくだが、早く帰りたかったただそれだけだ。


「あのー、三者面談前に出さないといけない書類があるんだけど…」

私は気まずくなるのが嫌なので、母親に自分から話を切り出すことにした。父親に話すことも考えたが、どうせ同じ答えだ。


「ああ、進路希望の書類ね。大学進学で出しておきなさい。

 大学はまたこれから考えることね。」


 だと思った。この答えが何度高校当初から繰り返されていることか、私はもう、どうすればいいのかを考えることをやめていた。考えることをやめた今の方が楽だからだ。


「わかった。お父さんに聞かれても、大学って答えておいてね」

そういって、私は自分の部屋へと向かった。



私には一人だけどんなことでも話すことができる友人がいる。

困ったことがあったら、必ず電話をかけるようにしている。

今日がその時だ。


「もしもし、ちょっと時間いい?」

「どしたの??」いつにもまして私の話を楽しそうに聞こうとしているようだった。


私は今までのことの顛末を話した。

「それは、あんたの人生なんだから、自分で決めるべきよ。親が何を言おうと、何が正しいとかないんだからね。みんな大人になるんだからね。」そう言われても、大人って何だろう、この答えはなかなか出るものではない。

「それと、困ったら楽しく生きなよ。やりたいことやってる自分ほど、楽しいことはないんだから。」


本当に先生より先生らしいことを言うんだなと、毎回写真家の彼女から感じる。彼女自身、高校に進学せず、世界各地の写真を撮影し、実際にそれで生きている。立派な人生だし、きっと自慢できるだろう。


 さっきの話ではないが、私は大人になりたいともなりたくないとも思わない。わからないのだ。みんな体だけが大きくなって、周りと同じようにスーツを着て仕事に行く。それらの仕事のおかげで私たちが生きてこれたのは感謝しかない。もちろん産んでくれた両親にもだ。


 ただ、何かおかしい、そう思い悩みながら三者面談の時期を迎えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大人ごっこ @0716716

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ