【KAC20248】わたしをみて。
孤兎葉野 あや
わたしをみて。
「アカリ、一つ聞きたいことがあるのですが・・・」
「うん? どうしたの、ソフィア。」
部屋でお茶を飲みながら、互いに好きな本を読んでいると、隣から澄んだ声が響いてくる。
「ミソノから借りてきた『シルバースプリット』の3巻なのですが、ここの言葉がよく分からず・・・」
「ああ、なるほどね。『私を色眼鏡で見ないで』か。」
異世界生まれのソフィアには、馴染みのない言葉だろうから仕方ない。私が向こうに召喚されていた間の記憶を辿っても、眼鏡そのものをほとんど見なかった気がするし・・・
「ソフィア、眼鏡は分かるよね? 向こうでは少しだけ見た気がするけど。」
「はい。あちらではごく一部の人が特別に作るようなものが、ここではお店でたくさん売られていたことに驚きました。」
「うんうん、この国ではそれだけ眼鏡が身近な存在なんだけど、中には色付きのものもあるんだ。
有名なのは黒い色で、日の光が眩しすぎる時に、和らげる効果を持っているね。」
「な、なるほど・・・この言葉は、そうしたものを身に付けないでほしい、ということなのでしょうか?」
「いや、これは比喩なんだよね。まずは・・・そんな風に色の付いた眼鏡を付けていたら、見える景色はどうなるかな?」
「その眼鏡の色に影響される、という考えで合っているでしょうか。」
「うん、そういうこと。そこでさっきの言葉の使い方だけど・・・私が初めてソフィアに会った頃、すごく真面目な人だなって思ってたんだ。」
「そ、それは・・・そうだったかもしれません。自分の立場もあって、振る舞いには気を付けるようにしていましたから。」
「でも、こっちの世界のこととか、食べ物や遊びとか色々話してるうちに、楽しいことも好きなんだなって分かったんだよ。」
「はい・・・! アカリには本当にたくさんのことを教えてもらいましたね。」
「それでね・・・もしもの話だけど、その頃の私が、ソフィアが真面目なだけの人だと思い込んで、雑談を全くしなかったとしたら?」
「そ、そんなの淋しすぎます・・・!」
「うん。そういう思い込みで、人とか物について決め付けてしまうようなことを、『色眼鏡で見る』って言うんだよ。
本の中で話してた人も、そんな状況だったりしないかな。」
「ありがとうございます、アカリ・・・! おかげで、よく分かりました。」
ソフィアが前後の頁を読み返し、うなずきながら本を閉じる。
そうして、隣から今度はじっと見つめるような視線が向いてきた。
「・・・アカリは、好きなこと以外は少し適当なところがありますが、遊び以外にも知識は豊富ですし、やると決めたらちゃんとやります。
それに・・・いざとなれば無理をしてでも私を守ろうとしてくれます。それが少しだけ、私には不安でもあるのですが・・・」
その両手が私の頬を包むように触れる。真っ直ぐな瞳がこちらを映す。
「私はちゃんと、アカリのことを見られていますか?」
「うん、もちろん!」
真剣な声に、私も何一つ嘘のない笑顔で答える。
「ソフィアのことも、ちゃんと見てるつもりだからね。新しいものを知ることが好きで、海に憧れていて・・・」
「あ、改めて聞かされると、少し恥ずかしくなってきました。」
目の前で赤くなってきた頬を、私も両手で包んだ。
「これからも、ずっとアカリのことを見ていますから・・・その、私のことも見ていてくださいね。」
「うん、こちらこそよろしくね。」
すぐ傍にある顔を寄せ、深く重ねて誓い合う。他に映るものなんてないくらい、互いに見つめ合いながら。
【KAC20248】わたしをみて。 孤兎葉野 あや @mizumori_aya
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