赤ん坊の泣き声

こうだい「お父さん、ここどこ?!」


ある山道を黒色の自動車が走っている。その車の後部席にいる小学6年生の大森 宏大(おおもり こうだい)が運転席にいる父に向かって不安そうな声をあげた


父「すまん、道を間違えてしまったみたいだ」


2人はドライブをしていたが、知らぬ間に別の道を走っていたのだろう


こうだい「ねえ、帰れるの?今のところ木しか見えないよ」


父「ああ、まぁお父さんがなんとかするから任せろ」


変に自信を持って言う父を見て、こうだいは心配そうにため息をつく


こうだい「ここ森の中だよね?本当に大丈夫なの?」


父「ナビがあるから大丈夫だよ」


そう言って父は笑う。こうだいはナビを覗く


こうだい「お父さん、このナビ動いてる?」


父「え?」


こうだいの言葉を聞いて父はナビを確認する。ナビはなぜか周りが真っ暗で自分たちの場所を示す印が全く動いていない


父「あれ、壊れてしまったか?」


こうだい「なんでこんな時に!」


父「どうしよう…困ったな〜」


父はそう言って頭をかく。こうだいはある方法をひらめいた


こうだい「ねぇ、スマホのマップ使ったら?」


父「あぁ!その手があったな!お前は天才だな〜!」


そう言って父はスマホを取り出した。そして電源ボタンを押した。しかし___


父「あれ、電源がつかない」


こうだい「えぇ?!」


父「困ったな〜…」


またそう言って頭をかく。

ナビもスマホも使えないとなると、戻り方がわからない


父「ここ歩いている人いないかな〜…?」


こうだい「いるわけないでしょ、どうするの?」


父「うーん…とりあえず走ってみるか。走ってればいずれ出られるだろ」


こうだい(それ大丈夫なの…?)


こうだいは不安だが、何を言っても父はなにかやらかすだろう。そのため、何も言わないことにした。




あれから30分が経った。こうだいが乗っている車は未だに迷子から抜け出せていない


こうだい「ねぇ、ほんとに帰れるの?」


父「きっと帰れるよ」


こうだい「そういう割にはこの森から出られてないじゃん!」


父「そうだけど、なんとかして出るから安心しろ」


こうだい「安心できないよ!!」


こうだいは流石にイライラしてきた。その時、前方に誰かが立っているのが見えた。少年だ。少年の頭には2本のツノが生えている


こうだい「ねえ、あの男の子に道聞いてみようよ!」


父「あぁそうだな!」


すると父は少年のところへと車を進める。そして少年の前で車を止めると窓を開けた


父「ちょっと君」


少年「なに?」


父「俺、迷ってしまってね…この森から出られる道を教えてほしいんだ」


すると少年は、すぐそばのわき道を見た


少年「あそこを通ればすぐ出られるよ」


父「ほんとうか!ありがとう!」


父は少年に礼を言うと、そのわき道へと車を進めた。その車を見送った少年は、わずかに笑みを浮かべていた




こうだい「あの子がいてよかった!」


父「そうだな!これで帰れるぞー!」


わき道を通りながら2人は笑顔になる。


こうだい「帰ったらお母さんに今日買ったケーキ渡そー!」


父「そうだな!きっと母さん喜ぶよ」


そうやってしばらくワイワイと会話をした。



…しかし、ある異変に気づき、車内が静かになった


父「あれ、おかしいな」


こうだい「全然森抜けないね」


10分は走っているが、森から抜ける気配がないのだ。


父「あの子、間違った道教えてたのか?」


こうだい「お父さんが間違えたんじゃないの?」


父「ええ?でも一本道だったぞ?」


父はそう言って首を傾げる。するとこうだいは呆れたような顔になって、腕を組んだ


こうだい「実は他の道があったとかないの?」


父「その説はありそうだな…」


こうだい「もー、結局迷子じゃん!」


こうだいは父のスマホを手に取り、電源を入れようとする。しかし電源が入らない


こうだい「そうだ、使えないんだった…」


こうだいはスマホを投げるように父のバッグに入れる。


父「こうだい、お父さんがなんとかするから安心してくれ」


こうだい「安心できないよ!」


こうだいは苛立ちのあまり叫んだ。


父「そうだよなぁ…ごめんなこうだい」


申し訳なさそうに謝る父の声を聞き、こうだいも申し訳ない気持ちになった


こうだい「…怒ってごめん。」


こうだいは小さく言うと深呼吸をする。


オギャァ…オギャァ…


こうだい「え…?」


かすかに聞こえた赤ん坊の泣き声にこうだいは戸惑う


こうだい(聞き間違い…?)


そう思い、こうだいは耳を澄ます


オギャァ…オギャァ…


こうだい(やっぱり聞こえるよね?!)


こうだい「お父さん、車止めて!」


父「え?なんで」


こうだい「赤ちゃんの泣き声がするんだよ!」


父「泣き声??」


父は車を止めると耳を澄ます。しかし、しばらくして首を傾げた


父「こうだい、赤ちゃんの泣き声なんて聞こえないぞ?」


こうだい「でもさっきは聞こえたんだよ!」


父「聞き間違いなんじゃないか?」


こうだい「2回も聞こえたんだよ!絶対聞き間違いなんかじゃないよ!」


父「そうか?」


こうだいと父はもう一度耳を澄ます。しかし何も聞こえない


こうだい「なんで…」


父「うーん、聞こえないな」


こうだい「本当に聞こえたんだよ!」


父「大丈夫、それは信じてるよ。こうだいはたまたま聞こえたんだろうね」


そう言って父は車を発進しようとしたとき___


オギャァ…オギャァ…


こうだい「また聞こえた!!お父さんは聞こえた?」


父「あぁ、聞こえたよ」


オギャァ…オギャァ…オギャァ…


赤ん坊の泣き声はやまずに聞こえる


父「なんで泣き止まないんだ?」


こうだい「確かに、お母さんとかいれば少しでもおさまりそうだよね」


父「もしかして…虐待か?!」


こうだい「えっ虐待?!」


父「あぁ。親が赤ちゃんを置き去りした可能性がある」


こうだい「じゃあ赤ちゃんこのままじゃ死んじゃうじゃん!!」


父「赤ちゃんを探しに行こう」


父は車のエンジンを止めると車から降り、歩き出した


こうだい「お父さん待って!」


こうだいも急いで車から降りると父と一緒に赤ん坊を探しに歩き出した



探し始めて数十分が経った。


こうだい「どこにいるんだろう」


ずっと赤ん坊の泣き声が聞こえるが、全然その赤ん坊が見つからない


父「さっきから泣き声が遠い気がするんだよな」


こうだい「え?」


こうだいは泣き続ける赤ん坊の声を聞く。確かに最初に聞こえたときより遠く感じる


こうだい「反対側だったのかな?」


父「あり得るね。一回戻るか」


こうだい「うん」


2人は来た道を戻ろうとする。すると近くで赤ん坊の泣き声が聞こえた


こうだい「あれ、やっぱ近いよ」


父「なんでだ?」


こうだい「きっとハイハイできる年なんだよ」


父「でも速くないか?さっき遠かったのにもうここ付近に来たってことだよな?」


ハイハイで数秒の間に何メートルも動けるだろうか。


こうだい「じゃあ転がって落ちてきたとか?」


父「なぜそう思ったんだ?」


こうだい「だって、ここきっと山でしょ?坂いっぱいあるよ」


この森を通っていたとき、落ちたら死んでもおかしくなさそうな急な坂をいくつか見た。赤ん坊なら少し急な坂でも転がってしまうだろう


父「確かにそうかもな」


こうだい「坂の下を中心に探してみようよ」


父「そうだな!ナイスアイデアだ!」


こうだいは父に褒められたのを嬉しく思いながら再び赤ん坊探しを始めた


こうだい「赤ちゃーん?どこー?」


落ち葉や枝をかき分けながら赤ん坊を探す


こうだい(どこにいるんだろう…)


探し始めてから1時間は経っているだろう


こうだい(こんなに見つからないもんなんだな)


最近、森の中で男性が3人行方不明になったというニュースを見た。


こうだい(大人が見つからないなら赤ちゃんなんてもっと見つからないよね)


「何探してるの?」


こうだい「わぁっ!」


突然後ろから声をかけられ、驚きのあまり声を上げた。振り向くと、この脇道のことを教えてくれた少年がいた


こうだい「なんだ、君か!」


少年「なにかを探しているようだけど、何を探してるの?」


こうだい「えっと、赤ちゃんの泣き声が聞こえたから、虐待かもってその赤ちゃんを探してる」


少年「ふーん」


こうだい「ねえ、君も一緒に探してくれない?」


少年「一緒に…まぁいいよ」


こうだい「やった!」


少年「どんな感じに探しているの?」


こうだい「坂の下を中心に探しているんだ」


少年「わかった」


すると少年は森の奥の方へ進み、地面の落ち葉を払い始めた。それを見てこうだいも探し出した


10分後…


こうだい「見つかりました?」


こうだいは少年に声をかける


少年「いや、見つからない」


こうだい「ですよね〜…。えっと…」


こうだいは少年の名前を呼ぼうとしたが、彼の名前がわからない


こうだい「名前、教えてほしい」


少年「ワザワイ。」


こうだい「ワザワイくん?」


するとワザワイは頷いた


こうだい「ワザワイくんはずっとこの森にいるの?」


するとワザワイは首を横にふる


ワザワイ「2週間くらい前に来た」


こうだい「そうなの?!てっきり昔からいるのかと思った!」


こうだいは、ワザワイは昔から迷った人の道案内のために脇道付近に立っていると思っていた。


こうだい「なんでこの道を知ってたの?」


ワザワイ「通ったことがあるからだよ。」


こうだい「へ〜。じゃあなんであそこに立ってたの?」


ワザワイ「それは君たちみたいに迷ってくる人がいるから」


こうだい「僕達だけじゃなかったんだ」


他にも迷ってくる人がいることに驚く。するとワザワイは少し口の端を上げた


ワザワイ「この道を教えたのは君たちで5回目だよ」


こうだい「そんなにいるんだ…」


ワザワイ「ほんとびっくりだよ」


そんな会話をしながらこうだいとワザワイは地面を見渡す。その時、こうだいの父が2人のもとに来た


父「こうだい、見つかったか?」


こうだい「あ、お父さん。見つからない」


父「そっか…この子は?」


父はワザワイの存在に気づく。ワザワイは父の声に反応し、振り向く


父「あっ、この道教えてくれた子じゃん!」


こうだい「ワザワイくんだよ。赤ちゃん探すの手伝ってくれているんだ」


父「そうなんだ。ワザワイくん、ありがとな」


ワザワイは何も言わず、森の奥に目をやる


父「ワザワイくん、この道を教えてくれたのは嬉しかったんだけど、なかなか森から出ないんだ。」


ワザワイ「…そりゃあそうだろうね」


こうだい「え?」


父「それは…どういうことだい?」


するとふっとワザワイは笑い、二人を見る。

ワザワイの顔は確かに笑みを浮かべているが、目は笑っていない


ワザワイ「気づかなかったかな?君たち、ずっと同じところを走ってたんだよ」


こうだい「同じところを走っていた??」


ワザワイ「車自体は進んでるけど、場所は変わっていなかったんだよ。ループしていた、のほうが正しいかな」


父「だから森を抜けられなかったってことか」


ワザワイは弾むようにこうだいと父の間を通り、振り向く


ワザワイ「ここ、いつの間にか迷い込む森として有名なんだよ。不思議だよね。迷い込んでもしばらく気づかないなんて」


するとこうだいと父は迷っていることに気づいたときのことを思い出す。確かに2人ともこの森に入っていたことに気づかず、通っている途中で知らない森に入っていたことに気がついた。


ワザワイ「それを利用する人もいるんだよ」


その言葉が訳わからず、こうだいと父は頭の中に「?」を浮かべる。そんな親子に構わず、ワザワイは2人の後ろを見た


ワザワイ「ちなみに、お二人が探していた赤ん坊は後ろにいるからね」


こうだい「えっ?!」


2人は同時に後ろを向く。そこには小さな赤ん坊…ではなく、大きな怪物がいた


オギャァオギャァ


大きな怪物から赤ん坊の泣き声が聞こえる


父「なんだよこれ…」


ワザワイ「おなか空いているのかな。ごはんはあるから安心してね」


恐怖で顔をこわばらせる親子をよそにワザワイは怪物に話しかける。すると怪物はガシッとこうだいと父を掴んだ


こうだい「うわぁぁ!」


父「離せ!」


2人は怪物の手から抜け出そうとするが、びくともしない


ワザワイ「無駄だよ。この道から抜け出せなくなった時点でもうこいつには捕まっているんだから。」


父「お、おい!俺らはどうなるんだよ!」


ワザワイ「どうなるって、食べられるに決まってるじゃん」


こうだい「嫌だよ!食べられたくない!ワザワイくん、なんで助けてくれないの!!」


ワザワイ「助けられないから。それが理由」


するとワザワイは手のひらを怪物に向ける


ワザワイ「一緒に話せてたのしかったよ。じゃあね」


すると怪物は大きく口を開ける


こうだい&父「うわぁぁぁぁ!」


2人が叫んだ瞬間、怪物は口にこうだいたちを放り込んだ。

するとワザワイの左目に刻まれている十字架が光り、怪物から出た黒いモヤがワザワイへ吸収された。

叫び声は聞こえなくなる。すると怪物はワザワイの方に手を伸ばした


ワザワイ「待て待て、また連れてくるから我慢してくれ」


ワザワイは慌てて怪物を止める。するとその怪物が光り、消滅した。それを見てワザワイは振り向く


ワザワイ「やっぱり君か」


ワザワイの視線の先には手のひらを向けたキヨラの姿があった


キヨラ「最近あった男性の行方不明事件、お前のせいだろ!」


キヨラは手を下げて、ワザワイに怒る。するとワザワイはヘラっと笑った


ワザワイ「なんだ、君には気づかれてたんだ。さすがだね」


キヨラ「お前、そんなことやって心痛くならないのか?」


ワザワイ「ならないよ。人間じゃないもん」


そう言うとワザワイはスッ___と消えてしまった

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少年と都市伝説のナゾ 夜明け @yu_ri0615

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