葉月の、大きな丸い眼鏡を外して御眼鏡に適ったお話。

大創 淳

【KAC20248】……めがね。


 ――だからこそ必要なの。


 脱皮することが今この時、地より湧きたる蝉のように。



 七年間の地中から、最も輝ける時を迎えるため地上へ。七日間という短い時間に人生の集大成をここにという心意気。そして次の世代へ語り継ぐために……


 僕は大好き、葉月はづきが。


 それは僕と同じ名前の月。誕生月だから……色々な意味も踏まえて。


 それから一人称は僕だけど、見ての通り、列記とした女の子だから。



 今はまだ十三歳の僕。全裸の僕をマジマジと見る怜央れお君。固唾を呑む音も、ハッキリ聞こえるの……見てほしいけど、これから彼のモデルになるのだから、決めていたことだから前から……すると、響く彼の声。静寂の中に於いて……


「眼鏡、取ってもいい? それからお下げ、解いても……」


 とっても近い怜央君の顔。眼鏡の蔓にそっと手がかかる。でもそれは、やっぱり、


「あっ、ちょっと待って。外しちゃうと……そばかすが目立っちゃうの。せめてお下げだけなら解いても……」と言ったのだけど、怜央君は外しちゃったの、僕から眼鏡を、


「取り上げちゃうよ、そばかすも愛らしいし、とっても可愛いから」



 ――見られちゃった、素顔の僕。


 全裸よりも恥ずかしから……「大丈夫、すぐ慣れるから」なんて怜央君は言うし。


 だったら、


「僕だけ裸じゃ不公平だ。眼鏡も取っちゃうから。怜央君も裸になって、僕の前で」


 と、言い放っちゃった。男の子に脱げだなんて、同い年の同じ学年の、同じクラスの男の子の裸……それも僕と同じように全部。でもでもでも、僕も描くから、彼を。


 顔は、女の子の僕より綺麗……


 肌も美肌と呼べるほどで。でも、それとはギャップもありそうな筋肉。アスリートのような……逞しき身体。堂々と体操服に奥にあった裸の身体が、僕の目の当たりとなった。


 思えば身も心も解放される時って、この瞬間なのかな? そしてアトリエで絵を描く時なのかも? ……だったら、それが一番の、ありのままの姿。


 怜央君はしかと見た。


 眼鏡を外した僕のオープンフェイス。ユーチューブのロボットアニメで見たの、今日も含めて近頃。そのロボットはフェイスをオープン……つまりは外装を外すことで、パワーアップするそうだ。この理屈を当て嵌めるのなら、全裸が一番に最高の状態……ということになる。言葉で説明するのは難しいことだけど、難しいからこそ、令子れいこ先生は身をもって教えてくれたのだと思うの。何も知らない人から見たら……理解できないことかもしれないけど、僕は実践し、身をもって少しでも理解できたのだと思う。


 しかしながら令子先生の思想は、その何千も何億倍もするだろう。僕の青春をすべて費やしたとしても、一生涯に及んだとしても、永遠のテーマになるのかもしれない。


 だからこそ楽しいの。


 それは誰にも譲れないこと。そこで僕は思うの、怜央君と一緒なら楽しさも二倍どころか二乗になる。恥ずかしくても眼鏡を外すことにした。コンプレックスだったそばかすもチャームポイントとなれるのなら、それにお下げも……束ねている髪も解くことにした。


 ここだけの話、怜央君には気付かれたけど、


 眼鏡はダテ……目が悪いわけではなかった。引っ込み思案になってから、掛けるようになったの。それにお下げもセットで。だから、怜央君しか知らないの、僕の素顔。


 僕もまた描く。まだまだ遠いと思うけど、怜央君の包み隠さない姿。


 思春期ゆえの恥ずかしさも、僕も同じだし、今この時だから描けることだから、僕はその部分も大歓迎で、キャンバスに収めたいと思うの。


 大きな丸い眼鏡も、もう脱皮の時期。


 素顔でも平気。今はナチュラル。そして……少し丸みを帯びた身体も、それ自身が僕そのもの。引っ込み思案から放たれた自然体。眼鏡を外したことで御眼鏡に適った。


 胸を張れたこと。


 裸の自分に胸を張れたことに……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

葉月の、大きな丸い眼鏡を外して御眼鏡に適ったお話。 大創 淳 @jun-0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ