宝石の行方



連日熱気の留まる事を知らないキトリニタス百貨店は、日ごとに店舗は増え続け、多くの”招待客”が足を運んでいる。

多種多様な種族が娯楽に、外商に、様々な目的に目を輝かせながら絢爛豪華な百貨店の扉をくぐっていく。


本日も、開店のファンファーレが鳴り響く。


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時間は午後16時。在庫確認をしつつ軽い締め作業も並行していたワタシはふと時計を見上げ、凝った首をゴキゴキと鳴らす。

百貨店自体の客足もまばらになり始めるこの時間、この店”Fundo do rio"に訪れる客はそうそう居ないようで、店内に流れる緩やかなBGMがよく聞こえる。


「ふう…今日もこんなもンですかね・・」

ぐっと体を反らし、天井を仰ぐ。

「あら。本日はもう閉店かしら。」

仰いだその先には、美麗な女性の顔が目の前一杯に広がっており心臓が飛び跳ねる。

「おお!?ミランジュ様!これはこれは・・失礼致しました!少し気が抜けていましたネ。全く気づきませんでした!」

反った体を元に戻し、にこやかに話しかける。これ、マデラセンセイにも偶にされるんだがとても心臓に悪いなとふと思う。

「御機嫌よう。今日も精が出るわね。経営は順調?」

ヒールを鳴らし店内を見回るこの御方は、先日この店の"お得意様"となったセリアーヌ=ミランジュ様。気品ある佇まいで、体から発せられる宝石の輝きはどのような人の視線も常に釘付けにしていく、北方大国の名ある貴族令嬢。

そんな輝きを抑え込むかのように分厚いローブに身を包み、今日も彼女は人目を避けて来店する。

何故人目を避けるのか。…そこに触れるのは些か気が早いな。

「ええ!勿論ですとも!やはり興味深いお客サマがこんなにも居ると、商売し甲斐がありますねェ~!売上も好調で!」

「魔術とは本当に様々ね。私も家の経営には関わらせて貰っているけれど、この百貨店は歩くだけで勉強になる。私の知らない事に満ち満ちていて面白いわ。」

フードを脱ぎ、絹糸のような輝く御髪と光を一気に集め反射する角宝石が顕になる。いつも上へ伸びる角宝石は耳横から横へと伸びており、形状が変わっている様子。

「おや…?角の宝石は形状が変わるのですか?」

「ええ。宝石が伸びる前にしていた髪の結び方によって変わるわ。いつもの伸ばし方だとフードが被りにくくって…。」

髪をさらりと前へ流し、こちらへ宝石を向ける。L字型に伸びた宝石に媚びるように、店内の光達が吸収されては反射していく。相変わらず、普通にその辺で出回っている様な宝石とは輝き方が全く違う。生成された傍から"完成"されている様な美しさに、思わず目を惹かれてしまうのは当然の性という物である。


「宜しければどの形状にでも対応できるローブなどありましたら探しておきましょうか!

どんな種族にも優しい時代になりましたからねェ。探せばいくらでもありますよ!」

魔術革命に伴って、魔術が”商品”になったこの時代。

逆に無いものを探す方が難しいのではないかと思うほどの発展ぶりには常々驚かされる。

角を傷つけず隠せるローブと言えば・・・と少し考えて思いつくのは獣人用に耳が象られた物なんかを思い浮かべたが、ミランジュ様が着用しているのを想像すると何とも高貴な雰囲気が消え失せてしまうなと思わず吹き出しそうになってしまう。

「あら。じゃあ頼もうかしら。なるべく早く手配して下さると助かるわ。」

そう言いながらミランジュ様はカウンター裏へ回り、何やら机から紙を取り出してすらすらと文字を書いている。

「はい。このぐらいで足りるかしら。」

渡してきたのは手書きの小切手。書いてあった値段は・・

0の数が異様に、いや確実におかしい数が記載されていた。

「・・?!ローブ如きにこんな大金かかりませんよ!?」

「手間賃も含んでいるからこんなものでしょう?少し作業机借りるわね。」

涼しい顔をした彼女は、手をひらりと振って奥の作業机の方へ消えていった。

先日した”契約”時の時だってそうだ。かなり冗談を含んだこちらからの情報料に対して何の疑問も言ってこず、翌朝口座の中身を見たときは思わず二度見してしまった。

貰った小切手を失くさないよう折り畳み名刺入れに入れておく。たかだか商品一つ取り寄せるのに

手狭になりつつあったサバイバル用品棚が3つも増設出来そうなんだから、とんでもない”お得意様”を味方につけたもんだ。

と、思わず口角が上がってしまう。


締め作業を終わらせ作業机の方へ戻ると、真剣な顔をして顧客リストを広げ何かを書き留めているミランジュ様と、隣の椅子に腰掛け不機嫌そうに銃の手入れをしているマデラフロタンテの姿があった。

「其処のお姫様。如何してもそこで其れらを見なければならないのか?

私はそろそろ酷い業務妨害を受けていると百貨店側に通報しても良いかと考えているが。」

とマデラが隣で作業机が使いたいのかぐちぐちと文句を吐き続けている。

「もう閉店の時間よ。煩いお魚さんだこと。半分開けているじゃない。

もう少しで写し終えるから待っていなさい。」

彼からの悪態に全く怯まず倍の悪態で会話のキャッチボールをしているミランジュ様は顧客リストから何かを書き写している様子。

「相変わらずお二人は仲が宜しいこと・・ミランジュ様は顧客リストで何を?」

マデラの大きすぎる舌打ちを聞きつつ作業机の前にある椅子に腰を降ろし、ミランジュ様が書き写した紙の1枚を見てみる。

「ふむ・・・ああ。この前お教えした”ミラトゥース製”の銃火器をお持ちであろうお得意様の

リストですか・・こうまとめて見ると寒気がするような面々ですね・・」

並ぶ面々は、どれもワタシなんかでは頭を上げることすらも許されるかわからない、名がある重鎮貴族ばかり。大体は北国の方々だが、ちらほらと帝国で城を構える貴族方もリストに含まれていた。

「そう。大体目星を付けていた面々だわ。計画は立て易い。」

写し終えたのかペンの蓋を閉め、紙をまとめている。計画とは何だろうか。とふと考えるが、此方には関係のない事かと放念する。

「用はお済になられました?宜しければ百貨店出口までお見送りを・・」

「必要ないわ。それより、貴方達この後ご予定は?」

そう言いながらローブの前を開け、まとめたメモを自身の谷間へと挟んでいく。便利ですね・・と

抜けた思考がミランジュ様の言葉でハッとする。

「?今夜ですか。ワタシは今のところ何も・・」

「私は忙しい。武器の手入れが・・」

それを聞いた彼女は突然ローブを脱ぎ、文句が口から出る1秒前のマデラに勢いよく投げつける。さながらコートスタンドのように頭にローブが被さり、固まる彼を見て我慢できず口から息が漏れ出てしまう。

「丁度良かった。店を予約してあるの、付いて来なさい。」

「え・・・」

ローブの下より出てきたのは普段より一層高級感のある群青色のシックなドレス。

夜空の星々のようにドレス全体に散りばめられているスパンコールが、彼女の肌の宝石から反射される光を拾って煌めいている。

彼女のプラチナブロンドの髪がふわりと靡き、底知れぬ意思を感じさせる薄荷色の瞳がワタシ達に向けられた。


「仕事の依頼よ。お話宜しいかしら?」




何も目的等は伝えられず、「百貨店を出たら私に関してのことは決して口から出さず、ここに来なさい。」

と言われ渡されたメモに従い、百貨店からずいぶん離れた場所のレストランらしき店に辿り着く。

城下町の騒がしい表の道とは違い、喧騒が遠くから微かに聞こえる程度の入り組んだ暗い路地に位置しており、店の明かりが随分眩しく思える。

「誰が行くなど言ったのか。お姫様の傍若無人ぶりには呆れる。」と百貨店を出るまであれ程渋っていたマデラも、ミランジュ様が先に行くと離れてから何も話さなくなり大人しくついてきていた。いつもと変わらない様子ではあるが、百貨店を出てからの”異様な視線”を彼も感じたのだろうか。ここまで歩いて来てやっとその視線を感じなくなったが、確実に何かに尾行されていたのは間違い無いだろう。

メモには『店に入ったら迎えてくれるウェイターに”3”と指を立てて見せなさい。一言も口は開かないこと。』

と書いてあり、意図が全くわからないままマデラと目を合わせ重い木の扉を開けて入店する。


「いらっしゃいませ。御来店頂き誠にありがとうございます。」

入るや否や出迎えて来たのは、深緑色の長い髪を1つに束ねた、マデラとそう背丈の変わらないウェイトレス。鋭い目つきと、ちらりと覗く尖った歯。所々の肌には何とも鳥肌を誘うあの特徴的な質感が浮かんでいる。…鰐か。

店内はレストランと言い難い空間が広がっていた。薄暗い正方形の部屋に、古びたエレベーターの様な扉のみが見える。他に家具や飲食が出来るようなスペースも無く、外観からは想像できない異質さが漂っている。

思わず口を開きそうになるが、ミランジュ様のメモの通り指を三本立ててウェイターに見せる。

立てた指を見た瞬間、鋭い目の瞳孔が少し大きくなり、口角がぐいっと上がる。


「……御来店お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

怪しい笑みを浮かべた鰐のウェイトレスは一礼し、古びたエレベーターらしき扉に設置されたボタンを押す。すると何とも歪で大きな駆動音が鳴り響きながら古いエレベーターは扉を開ける。


警戒はそのまま、エレベーター内へ案内され、鰐のウェイターは依然にこやかな表情のままこちらを見つめている。

エレベーターの扉が重苦しく閉まり、密室状態になる。いつでも腰に携える銃は抜けるよう気を張り巡らせながら

エレベーター内を見回すと、かなり古い年代を感じさせる内装で、階層のボタンが・・・

10・・50・・・100!?100階までのボタンが壁に設置されていた。店の外観的にそこまで階層があるようには・・・

「それでは、ご予約されている客室までご案内致します。少し揺れますが安全面は問題ございませんのでご安心下さいませ。」

そう言いながらお辞儀をした鰐のウェイターは”33階”のボタンを押す。同時にエレベーターが揺れ動き、体にぐんと重力がかかる。

上へ向かっているのか下へ向かっているのか全く判断がつかないまま少しすると33階に到着したようで

鈴が鳴ったような金属音が鳴り響き、それと同時に重苦しくエレベーターの扉が開いた。


「御足労頂き有難う。待っていたわよ。」

扉の向こうには異国の宮殿を想像させるような内装の個室が広がっており、大理石のテーブルの向こうでミランジュ様が手を振って立っていた。

「・・・・・」

先程まで居た空間とは打って変わり、落ち着いたシーンを演出する暖かい色味の照明や穏やかな音楽が流れており、

部屋奥からは食事の良い匂いがふわりと香ってくる。

「ふふ。ごめんなさい。もう喋っても問題ないわよ。」

柔らかく微笑んだミランジュ様を見て、マデラと顔を見合わせる。

「何もかも突っ込みどころ満載なンですけど・・・!」


運ばれてくるとても普段では口にしないよう高級フレンチ料理らをワインと一緒に堪能しつつ、

道中の話をミランジュ様に伝えていく。マデラは相当腹が空いていたのか来たそばから料理を平らげてはワインを飲み続けている。

「やはり・・・目を付けられていたのね。まあ想定内だわ。・・ローダス。”犬”は捲けたかしら?」

ミランジュ様はワインを口に含みつつ後ろに控えている鰐のウェイターに視線を向ける。

「勿論。私の”認識阻害”を見破れる者は、まだミランジュ家にはおりません。」

ニタリと口の端を上げ、一礼する彼だが一体何者だろうか。雰囲気等見るからに只者では無いように思える。

「ほう。認識阻害とな。店に入った途端空気が一変したのはその仕組みか。相当の手練れだとお見受けする。」

マデラが珍しく口を開き、椅子をぎしりと鳴らして凭れ掛かる。魔術検定2級ぐらいが妥当といったところか。

「お褒めに預かり感謝致します。

御紹介が遅くなり申し訳ございません。私はローダス・デトラドィ。

セリアーヌ=ミランジュ様の”元”専属バトラーでございます。以後お見知りおきを。」

胸に手を置き、首を傾げつつ視線を合わせ挨拶するローダス。…"元"執事か。

「諸事情で私が解雇させたのだけれど、その後も私の計画を手伝ってくれてるの。とても優秀よ。表世界にはもう出れないけれど。」

さらりと紹介されただけでは全貌は掴み取れないが…ミランジュ様同様、執事を辞めさせられても傍に居るのにはのっぴきならない事情がある様子…。

「成程!今後とも宜しくお願いしましょうかネ。…それで、そろそろメインディッシュも来る頃合いですし、本題をお聞かせ願いますか?」

酒も少し入り警戒も解けた私の心は、今目の前の状況の事を知りたくて堪らなくなっていた。

このお嬢様、思っていた数倍闇深い。

まァ…金で繋がっているだけの関係だ。今は何を聞いてもさして問題では無いだろう。

「ええ、そうね。今から話す事と、依頼内容は決してこの部屋以外では口に出しては駄目。

それだけは約束出来るかしら?」

口に人差し指を置き、ふわりと微笑むミランジュ様はに少し鳥肌が立つ。

彼女の美しさに恐怖を感じたのはこれが初めてだっただろう。


「先ず、私はかねてより貴方達の店で調べさせて貰っている"ミラトゥルー製"の銃火器についてだけれど。…あれは、私の家が資材提供して作られている物なの。」


顎で手を組みながら話すミランジュ様は、どこかいつもと違う悲しげな瞳を浮かべてながら言葉を続ける。


「私の家は"最高品質の銃火器類の素材"を各国重鎮貴族へ提供する事が主な財源。それ以外も商売は手広くしているけれど、大部分は資材提供ね。」


彼女の家程の財力とすれば、納得のいく内容ではある。だが戦争が殆ど無くなった今の時代において衰退の一途を辿る事無く"戦争銃器"の資材が必要とされているのには…まだ質問をするには早いか。


「今、戦争は殆ど無くなったのにどこに需要が?と思ったと思うわ。…私はそれを知りたいの。

それがキトリニタス百貨店へ足を運ぶ1つの理由。私は当主である父から完全に素材提供先の事や作られた武器の流通等の情報をシャットアウトされてるの。…次期当主となる私に酷い仕打ちよね。」


ミランジュ様はグラスに残ったワインを勢いよく飲み干す。かなりの量を呑んでいるはずだが、依然顔色等は変わっていない。


「少し事情があって、行動の自由度が上がったのが最近。この百貨店になら何処かしらに武器の流通なんかを掴んでいる店があるんじゃないかと思ったの。…そこで目をつけたのが貴方達『Fundo do rio』という訳。」


「成程…大体の背景は把握しましタ。其処で"この場所"…という事ですネ?」


「ええ。私は常に百貨店以外では監視をされている。道中感じたと言っていた視線の正体はそれよ。この店はローダスが経営している"貴族御用達"のレストラン。彼の魔術によって私達は"普通"に。"ただの雑談"をして1階で食事を取っていると監視員達に誤認させているの。面倒だけれど、百貨店には閉店時間があるから仕方無いわ。」


魔術の多様さには常々驚かされて続けるているが、店全体に効果を付与することも可能なのかと感心する。


「ちなみに・・・この階は”地下”なのですか?」


「ええ。ご明察の通りここは地下33階。口頭で階数を伝えると地上の何の変哲もないレストランへ。口を開かず指で数字を示すと地下に広がる完全予約制の”トリックルームレストラン”に案内されるわ。

100階まであるのは驚いたでしょう?ふふ。実は使われているのは48階までなの。」


口に手を当てクスクスと笑うミランジュ様の言葉に首をがくりと下げてローダスは落ち込む。


「お嬢様は相変わらず手厳しい…ここ33階セリアーヌ様専用の部屋以外は適宜利用者を変えて

使い回しておりますので、実際は200組程お得意様はいらっしゃいますよ。」


胸ポケットから小さいメモを取り出し、ミランジュ様に見えるように屈んでメモを見せている。

おお~と感嘆の声を漏らしているミランジュ様がとても柔らかい笑みを浮かべる。


「凄いじゃない。流石ローダスね。この調子で頑張りなさい。」

「ングッ・・・有難きお言葉。今後とも精進致します。」


今一瞬聞呻き声が聞こえた気が・・?


「ごめんなさい。話が逸れてしまったわね。仕事の話に移らせて頂くわ。」


にこやかな表情が一瞬で普段の凛々しい顔つきに変わる。一礼してローダスも後ろに下がり、張り詰めた空気が流れ始める。


「まず、本当にこのリストに名がある人物達に当社の資材が使われた銃が行き渡っているのかを確認したい。

…貴方達の店の顧客リストに記載されていた購入履歴には、どれも一般的な猟銃しかなかった。

どういった情報を持っての人選なのか。説明して下さるかしら。」


嘘はつけない。と本能的に察知する。

ミランジュ様の瞳から目が離せないのは勿論だが、それよりも彼女の後ろから発せられる"獰猛な獣"の気配に酔いが一気に引いていくのを感じる。


「…嘘なんて付きませんヨ!…ミランジュ様、申し訳ございませんが。ローダス様を下げて頂いても?どうも酒が少々喉を通らなくなってしまってね…?」


そう言うとニタリとローダスが口角を上げて口を開く。鋭い牙をわざと見せ付けている様だ。


「おやぁ。私め如きがお客様の気分を害してしまい、大変申し訳ございません。生憎私は"観賞魚"を食べる程グルメではありませんよ?」


首を傾げながら我々を見下ろすローダスに、ミランジュ様が彼を睨む。

「…ロー。言葉を慎みなさい。私の客人よ。下がりなさい。」

「…仰せのままに。」

深深と一礼し奥の部屋に音も無く消えていくローダスを確認し、大きく溜息をついた。


「…不躾なお願いを聞いて下さり有難うございます!…それで、人選についてですが…。

…正直、勘ですネ!」


「は…?」

空気が固まる。横で酒を飲み続けていたマデラが思わず「ふっ。」と乾いた笑いを吐く。


「ここで間違えて頂きたくない事が、"根拠のある勘"という事デス!!

ワタシは、外商なんかで様々な階級の方々との付き合いがあったりするのですが…その中で2.3度程『北国で最近復刻した今話題の銃がある』というのを何度か耳にしました!詳しく聞くと、資材源は明かされていないみたいですが"魔術回路が組みやすい素材が使われている"との事…。」


ミランジュ様は口を開かずじっと此方を見つめながら話を聞いている。


「そこで、ココ数年の北国の方でのお得意様だったり、ご縁があったお客様と言えばこの辺だったな~と思った御方達をリストアップした訳です!私は直接"売った"事はございません。

まあ、そんな所で。大変申し上げにくいですが私はその製品を売ったことも、見たこともございません!本当に耳にした程度なので。」


「・・・そう。で、私は貴方の”勘”に大金を払った世間知らずの馬鹿な貴族って事かしら?」


腕を組み、冷たい声で言い放つ。

ここで感情任せに激昂しない、年下を感じさせない立ち居振る舞いに彼女の覚悟の硬さを真に確認する。


「ええ。ミランジュ様はワタシの勘に大金を払った『聡明な』御方だ!

ワタシは、とても運がイイのです!貴方が思っている以上に。ね?」

「運・・・はあ・・・・・何だか拍子抜けしちゃったわ。」

ワタシの言葉を聞いたミランジュ様は、先程まであれ程張り詰めていた顔を溜息と一緒に緩ませた。

じわじわと頬が紅潮していき、耳まで赤くなるころには力の抜けた体がふらふらと揺れだし始める。

「み、ミランジュ様・・?」

「銃の流通を・・・知っているってことは・・お父様のからの刺客かと少し、疑ったじゃない・・。

はああ・・何よ、運って・・ふふ・・ふふふ・・・」

俯いてぶつぶつと呟き始めた彼女は、勢いよくワインをグラスに注ごうとしているが、全く狙いが定まっておらず

コレクターたちがこぞって手に入れたがる高級ワインを今にもを床にぶちまけようとしている。

思わず駆け寄り、ワインボトルを手から剥がして体を支えて座らせる。

接した肌から、宝石越しだというのに反射的に手を退けてしまう程の熱が伝わってきていた。

熱を上手く体から放出出来ていないのか・・?仕組みはわからないが、急いで備えてあった冷たいおしぼりを額に乗せる。


「ミランジュ様!?酔いが回ってらっしゃるのですね!?ちょっとセンセイ!少しは手伝って下さいよ!」

「・・・チッ。お嬢様にしてはこんな度数の高いもの良くあれだけ飲んだものだ。先程のウェイターを呼べばいい。」

「ワタシあの御方に余り関わりたく無いのですが・・まあ仕方ないカ。ローダス殿!ミランジュ様が・・」

そう呼ぼうとした瞬間ミランジュ様の人差し指がワタシの口へ置かれ塞がれる。

「私は平気・・。ローダスを呼ぶと・・面倒だから。」

ミランジュ様はゆっくり深呼吸をして、姿勢を正す。お酒にあまり耐性が無いのだろう。今思い返せば私たちのペースに合わせて

呑んでらっしゃった。弱い部分を気取られないように彼女も必死なんだろう。

「貴方の勘を・・信じてみるわ。その実力があるからこそ、マデラは貴方に仕えているのだとわかるもの。

・・・といっても、私は貴方達に頼る他無いの。情けないわよね・・」

弱々しく微笑む彼女に、何だか昔の自分が一瞬重なってしまう。身分も状況も彼女の方が遥かに深刻だが、

抗いようのない濁流に負けじと向かっていくような彼女は、自分を取り巻く世界に喧嘩を売ったあの頃のワタシだ。

「情けなくなんかありませんよ。人に頼ること、人脈の多い少ないを自分の才能の無さと結びつけてはいけません。

人脈も、それを繋げる事、見つけ出すことも素晴らしき才能です!アナタはワタシ達を見つけ出した。それが如何に良き判断だったかをこれから示させていただきますヨ!

さあ、仕事の内容をお聞かせ願おうじゃないデスカ!」

そう言って手を差し伸ばすと、ミランジュ様は顔を左右に振り自身の頬を軽く両の掌で叩いてから、ワタシの手をぐっと握る。

熱い眼差しが向けられ、彼女はさらに握る手に力を込めた。伝わる高温は、酔いから来るものではなく

彼女自身の決意の熱量だと感じ取れる。

「有難う、ガリンペイロ。報酬は貴方が望むままにお渡しするわ。

なんせ、私が頼みたいのは・・・

『貴族邸にある”ミラトゥルー製銃器”の窃盗』だから。」

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キトリニタス百貨店 ペイセリ おさでん @odenoden0819

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