ふたりとひだまり

美澄 そら

お題【めがね】




 同棲をして気付いたことがある。

 靴は右側の踵を潰してしまうとこ。

 歯磨き中はコップをずっと持っているとこ。

 よく寝る瞬間まで本を読みたがるとこ。

 家の中では、ずっと眼鏡ってとこ。


 南向きの大きな窓のある部屋に憧れていたから、部屋数は少し我慢した。

 ふたりで同じベッドで寝ることに抵抗がある訳じゃないけど、寝相悪いのが恥ずかしい。

 彼は気にしないよ、と言ってくれたけれど、慣れるのが先か、寝床を変えるのが先か。悩む私に、彼は慣れるよ、と楽観的に返してくれた。

 寝室は極力物を置かないようにして、大きなラグを敷いた。

 土日のどちらかは何もしないお休みに決めて、ふたりでそのラグの上でごろごろする日にしている。

 大きな窓を選んだのは、そこから射し込む光をめいいっぱい浴びるためだ。猫みたいにひなたぼっこをする。

 最高のお休みの日。

 今日も日焼け止めを塗りたくって、ごろごろの日のスタートだった。

 彼は先日買った文庫本を読みながら、自分の肘枕でひなたぼっこを楽しんでいる。

 今はファンタジーを読んでいると言っていた気がする。

 タイトルは聞いてもピンとこなかったため忘れてしまったけれど。

 私はお気に入りのクッションを枕にして、スマホで溜まっていた動画を片っ端から楽しむ。一応彼の読書の邪魔をしないように、音漏れ防止機能の付いたコードレスのイヤホンを使っている。

 スマホを翳すようにして動画を見ていたら、いつの間に寝落ちしていたのか、スマホが顔面にぶつかって目が醒めた。

 ただでさえ低い鼻が、なんて押さえていると、隣から心地良い寝息が聞こえてきた。

 あ、眼鏡付けたまま寝てる。

 私と違って、本は大切に胸に乗せているので、顔面キャッチすることはなさそうだけど。

 


 同棲をして気付いたことがある。

 カレーの玉ねぎは飴色になるまで炒めないと嫌だってとこ。

 コーヒーはインスタントじゃなくてドリップが好きなとこ。

 魚の骨を取るのが下手なとこ。

 読む本には絶対カバーをかけるとこ。

 そして、面白い本を読むと、眼鏡を付けたまま寝ちゃうとこ。


 きっとこれからも見つけていくと思う。

 その中には嫌なとこもあると思う。


 眼鏡をそっと外すと、掛けてみた。

 沈みかけたとろとろの夕陽が眩しい。


 

  

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