めがねなんてさっさと買っておけばよかった

スネタリウス

第1話

 四年という月日が、これ程までに自分の心をぼやけさせるとは思いもしなかった。

 

 『あんたの事が好き! だからあたしと付き合って!』

 

 『……ちゅ、中学に入ったら、な! い、今はちょっと練習が大変だから!』

 

 『ホント!? 約束だからね! 絶対、来年になったら恋人になってよね!』

 

 『お、おう! 勿論だ! 来年、入学式の日に付き合おう!』

 

 俺がそう言った直後に、泣きながら笑顔を浮かべた幼馴染みの顔すら、もうはっきりとは思い出せない程に。

 

 「はぁ、また同じ事ばっかり考えてるな……」

 

 深いため息と共に吐き出された言葉に力はなく、ただウンザリとした気持ちと、ほんの少しの痛みが混じり合うばかりであった。

 

 そしてそんな物思いに耽っていたせいで、廊下の先からこちらを睨むように見つめていた人影に、気づくのが遅れてしまうという失態までおかしてしまう。

 

 「…………ふんっ」

 

 「あっ……」

 

 金色に煌めく長い髪と豊かな二つの膨らみ、更には短いスカートの裾までもを見せ付けるかのように翻らせて、その人影は俺に背中を向けた。

 

 細く長い足は、廊下をしっかりと踏み締めるように進み出すと、一歩一歩着実に俺から遠ざかっていき、遂には教室の中へと吸い込まれていった。

 

 俺は、そんな彼女の後ろ姿を見送る事しかできなかった。

 

 深い後悔と、同じぐらい重たい困惑を溜め息に込めながら。

 今日もまた、何も言えなかった自らの情けなさに歯噛みしながら。

 

 青春が色を失ったのはいつの頃からか。

 

 放課後に一人、電車のドアに寄り掛かりながらそんな事を思う。

 

 野球と遊びに明け暮れた小学生時代は、赤く燃え盛っていたと思う。

 

 挑戦と挫折を味わった中学時代は、赤と青が混じり合い混沌とした紫に染まっていただろうか。

 

 それなら今の俺の日常は何色なんだろう。

 

 「後悔と困惑の入り交じった灰色、かな……」

 

 そう口にした瞬間、窓に映った凡庸な顔は真っ赤に染まり、慌てて周囲を見回す始末。

 

 幸運なことに近くに人影はなく、痛々しい呟きを耳にした不幸な被害者は存在しなかった。

 

 手のひらを力強く扇がせて、大いに熱を孕んだ間抜け面を冷やしにかかる。

 

 止めどなく流れ続ける冷や汗にシャツが透けてしまうが、羞恥色に染まる己の顔のみっともなさを思えば、その程度は些事ですらなかった。

 

 そうして目的地に到着するまでの間、新たな後悔を背負い込む羽目になったのだ。

 

 「この度は当店のご利用、誠に有り難う御座いましたぁーっ。またのご来店を心よりお待ちしておりまぁーっす!」

 

 目的地での用事は直ぐに終わった。

 

 と言うか、注文していた品物を受け取るだけで、商品の確認すらしなかったのだから、滞在時間は一分程度だろうか。

 

 「うっす……」

 

 頻りに試着を進めてくる店員を躱し、引換券を押し付けるように渡した俺は、人当たりの良い明るい声を背に店を後にした。

 

 ほんの少しの気まずさから後ろを振り返ると、愛想の欠片も無い俺の対応など気にした様子もなく、ニコニコと屈託の無い笑顔を浮かべた店員と目が合ってしまう。

 

 フリフリ

 

 「~~っ!」

 

 声もなく、ただ小さく手を振っていた店員の仕草に、まるで四年前の記憶がフラッシュバックしたかのように俺の胸は強い痛みを訴えた。

 

 そして反射的に駆け出した俺は、家に帰りつくまで顔を上げる事すらままならず、ただひたすら俯き続ける事しかできなかった。

 

 「もうあの店には二度と行かない」

 

 熱いシャワーを浴びてベッドに飛び込んだ俺は、誰にともなくそんな決意を口にした。

 

 あの店員の表情や仕草や話し方なんかは、四年前の幼馴染みを思い起こさせる。

 

 決して口には出さないが、彼女の短い黒髪も、起伏の少ない体つきも、無邪気を称えた表情も、弾けるような明るい声も、俺の胸元に位置するつむじですらも。

 

 その全てが、四年前の日々を強く思い出させるのだ。

 

 そしてそれこそが、今との差異をより際立たせてしまう原因にもなっているのだ。

 

 「俺はどうすればいいんだ……いや、そもそもどうしたいんだよ俺は……」

 

 それが一番肝心だと分かっているのに、一向に答えを出せないまま、今日まで無為に時を浪費してしまっていた。

 

 そうして今夜も、益体の無い思考ばかりを弄んでいる内に、睡魔に導かれるまま眠りにつくのだった。

 

 「はぁ、憂鬱だ」

 

 ここ最近の目覚めは最悪な事この上ない。

 

 睡眠時間が無駄に延びているばかりで、その実、心身ともに充分な休息を得ているとは言い難いのだ。

 

 頭はぼんやりしているし、心は相変わらず小さな痛みを訴え続ける。

 

 俺は眠気覚ましに顔を洗うと、今日から長い付き合いになるであろう相棒を手に取った。

 

 「似合わね……いや、見慣れねえなぁ」

 

 目の回りを黒く縁取ったそれは、俺の顔を幾らか賢しげに装ってくれてはいるが、締まりの無い表情までは取り繕ってはくれないようだ。

 

 今にも吹き出しそうに弛んだ顔が、鏡にくっきりと映っていた。

 

 我が事ながら終始ニマニマしながら朝の支度を整えると、鞄を背負い靴を履き学校へと向かう。

 

 「行ってきまぁーす」

 

 「はぁーい、いってらっしゃい。ってあんた、それ買ったばかりなんだから、ふざけて壊すんじゃないわよ」

 

 「言われなくても分かってるよ、ガキじゃないんだから」

 

 「なに生意気言ってんのよ。高校生にもなって彼女の一人もできないお子様の癖に」

 

 「~~っ! うっせえババア!」

 

 「プププッ、ブチギレちゃってホントに子供なんだから……」

 

 からかいを多分に含んだ母親の言葉を家に置き去りにすべく、俺は全力ダッシュで駅へと向かう。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……朝からクッソ!」

 

 部活の引退後も最低限のトレーニングは続けていたお陰か、全力ダッシュは二本前の電車へ乗車する権利を授けてくれた。

 

 一足早く学校に着いた所で、特段意味など無いのだけれど。

 

 そんな事を考えながら窓の外に視線を向けつつ息を整えていると、周囲の景色がいつもと違って見えている事に気がつく。

 

 (えっ、あんな所にゲーセンなんてあったんだ。は? カラオケまであるんだけど! みんな知ってんのかな。後で値段も調べて教えてやるか)

 

 昨日までは見るともなく流し見していただけの通学路には、新たな気づきが沢山あった。

 

 俺は、いつの間にか母への怒りも忘れて、食い入るように見慣れた筈の風景を眺め続けた。

 

 そうしていると瞬く間に時間は過ぎ去り、電車は学校の最寄り駅に到着してしまった。

 

 少しばかり名残惜しげに電車を降りると、いつもと違ってそれなりの人波に揉まれながら改札を通過する事となる。

 

 しかし、本来なら苛立つ程に鬱陶しい筈の人混みも、通学路の新たな発見に触発されてか、どこか非日常感を増幅させるばかりで、嫌悪感などは微塵もありはしなかった。

 

 知らず知らずの内に、俺の心は高揚していたのだ。

 

 いつも通りの通学路を、初めて登校する新入生のようにキョロキョロしながら歩く。

 

 特に目新しいものは見当たらないが、何かあるかもしれないと思うだけで、ただ歩いているだけの事が新鮮な遊びへと変わっていくかのようだ。

 

 そうして校舎前に聳え立つ、心臓破りの坂と揶揄される長い上り坂を上がりきると、開かれた校門の奥に巨大な校舎が見えてきた。

 

 「流石にこいつには感動しないな」

 

 何て言いながらも、俺は校門の前で暫し立ち止まり、じっくりとその外観を見物してしまったのだが。

 

 しかし、そんな俺の存在は、当然登校する生徒たちにとっては邪魔者以外の何物でもなく。

 

 「ちょっと、道の真ん中で立ち止まらないでくれる?」

 

 両サイドに避けて登校するという選択肢を選ばない、剛の者からの叱責を甘んじて受け入れるより他にない状況へと陥ってしまった。

 

 「あ、あぁすいません。直ぐに退きま――――っ!」

 

 「――――っ!?」

 

 運命の悪戯なんて口にしたら、どの面下げて言ってんだよと笑われてしまうだろうが。

 

 今この時。

 この瞬間だけは。

 それを信じずにはいられなかった。

 

 「な、なんっ、なんでっ……なんでアンタがこの時間にいるのよっ」

 

 この場での遭遇は彼女にとっても予想外だったのだろう。

 詰るように言い放った彼女の言葉に、しかし往時のような力強さはない。

 だけど今の俺には、そんな変化に気づく余地も取り合う余裕すらも無くなっていた。

 

 変わってない。何一つ、変わってなかったんだ!

 

 そんな言葉ばかりが、俺の頭を埋め尽くしていたから。

 

 肩にすら届かないぐらいに短かった黒髪が、今や背中にまで届く程に長い金髪になっていても。

 日に焼けた浅黒い肌が、日差しなど一度も浴びたことがないかのように白く透き通っていても。

 男子と見分けがつかなかった平坦な体つきが、蠱惑的なまでに豊かに実っていても。

 

 彼女が抱く感情をそのまま象ったかのような表情が、困惑混じりに放たれた言葉の響きが、気まずい時にだけ擦り合わされる指先が、地面を叩く爪先が、頼り無さげに揺れる肩が、その仕草の一つ一つが。

 

 彼女の内面が、人となりが、人間性が、性格が、あの頃から何一つ変わっていない事を如実に示していた。

 

 「俺の目が曇っていただけだったのか……」

 

 「な、なに!? 今何て言ったのよ!?」

 

 突然の再会を果たしたあの日からずっと、俺が感じた戸惑いも、悲しさも、恐怖もなにもかも、俺の曇った目が彼女をまともに映していなかったが故の事だったんだ。

 

 俺は沸き上がる後悔と、それを押し潰して余りある激情に突き動かされるままに、ありのままの感情を詰め込んで言葉にした。

 

 「何で今更だって怒るだろうけど、これまでの態度は何だったんだってムカつくだろうけど、今頃どういうつもりだって、勝手な奴だって、もう嫌いになっているかも知れないけど、それでも言わせてくれ!」

 

 「ちょ、ちょっと、ホントにいきなり何を言うつもり!?」

 

 「俺はお前の事が好きだ!」

 

 「~~っ!?」

 

 「あの日からずっと、ずっと、大好きだったんだ!」

 

 「~~っ!」

 

 「とっくに高校生になっちまったけど、それでもっ、それでもあの日の約束がまだ有効なら、俺と付き合ってくれ!」

 

 「~~っ!!」

 

 例え今日振られてしまっても、俺はきっと何度も想いを伝えるだろうけど。

 

 そんな確信を抱きながらも言葉にはせず、俺は彼女からの返事を待った。

 

 鮮明に彩られた四角い世界が、彼女の耳から首もとまでもが真っ赤に染まる様を事細かに伝えてくれる。

 

 彼女は紅に染まった顔をプルプルと痙攣させながら、今にも零れ落ちそうな程大粒の滴を瞳に宿しつつ、俺を睨み付けるようにじっとりと見上げていた。

 

 そんな彼女の様子に、不覚にも俺は安堵してしまう。

 

 「やっぱり、何も変わってない」

 

 気が強い癖に泣き虫な所も、睨む時にだけ唇を無意味に動かしてしまう所も、俺を殴る時にだけ無意味に右手を真っ直ぐ挙げる所も――――!?

 

 「アンタッ、ここを何処だと思ってんのよッ!!」

 

 過日の記憶と現在を照らし合わせていた俺の視界は、真ん丸な拳の形を鮮明に映したのを最後に粉々に砕け散ってしまった。

 

 多くの生徒たちがガン見しながら通りすぎていく中、俺は信じられない程にぼやけた青空と、走り去っていく靴音をBGMに、深いため息を吐いたのだった。

 

 「いらっしゃいませぇーって、あれ? 本日はどの様なご用件でしょうか? もしかして何か不具合でも御座いましたでしょうか?」

 

 いつもは明るく無邪気なその声も、俺の姿を見るなり気遣わしげに音域を下げる。

 

 「いや、えっと、修理をお願いしたくて」

 

 「えっ、修理ですか? 昨日の今日で……」

 

 珍しくも困惑を露にした店員さんは、俺の手からケースを受け取ると、その中身の惨状に思わず口に手を当てた。

 

 「えっと、一応修理はお受けできますが、この状態ですと、新しい商品を購入されるのと大して変わらない額の修理費を頂く事になりますが……」

 

 「うっ、そう、ですか……」

 

 間違いなく母にしばかれるな。

 

 一日に二度も顔面を殴打されるなんて、俺ってそこまで悪い事したか!?

 

 「そ、その一応修理の方が安いんですよね?」

 

 「え、ええ。本当に微々たる差になるとは思いますが、一応は修理の方がお安くなるかと……」

 

 「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 正直どっちでもいい。金を出すのは俺じゃないから。大切なのは、どちらの方が親の機嫌をこれ以上損ねずに済むのかだ。振り被られる拳を一つで済ませられるのかだ。

 

 僅かでも安い修理を選ぶべきか、大差ないなら新品を買うべきなのか。

 

 「その、宜しければ、一度彼女さんと商品を見られては如何でしょうか。こちらの品よりもお似合いになる商品があるかも知れませんし、彼女さん好みの一品を身に付けるというのも、彼氏冥利に尽きるのではないかと……」

 

 「~~っ! それ良いわね採用! ほらいつまでも悩んでないでさっさと見に行くわよ! アタシがアンタに似合う最高のメガネを選んであげるわ」

 

 「ちょ、ちょっと待てって。今そんなに手持ちが――」

 

 「わ、私が壊しちゃったんだし、私が支払うに決まってるでしょっ」

 

 「いやいや、俺の眼鏡なんだから俺がっ、ていうか親が払うから……別に新品買ってもいいか」

 

 「アンタ、絶対殴られるわよ……」

 

 「それはもう、アレを壊した時点で確定事項になってるから」

 

 「あ、あぁそうね、ごめんなさい」

 

 「いや、良いよ。あれは場所を選ばなかった俺が悪いんだし、それに……」

 

 「~~っ! ぅん……」

 

 そう言って差し伸べた手を、彼女はしっかりと握り返してくれた。

 

 そうして俺たちは肩を寄せ合いながら、あーでもないこーでもないと言い合いつつ、次から次へと様々な眼鏡を手にとっては、鏡の前で付け替えていった。

 

 店を出る頃には、空には星空が所狭しと広がっており、僅かばかりの肌寒さを互いに伝え合った。

 

 俺は繋いだ手を一度離すと、戸惑うように見上げてくる彼女の視線には目もくれず、その小さな手を再度握り締めた。

 

 「~~っ! …………バカ」

 

 互い違いに絡み合った指先から伝わる確かな熱を頼りに、俺達はゆっくりと一歩一歩踏み締めるように家路に就く。

 

 「アンタ、メガネ掛けないと困るくらい視力悪くなっちゃんたんだね……」

 

 「ん。まあ、色々あってな」

 

 「それじゃあ、メガネが出来るまで困っちゃうね」

 

 「ん? いや、眼鏡は今日掛け始めた所だから、別に暫く無いくらいどうってこと――」

 

 「困るわよね!」

 

 「そうですね! 困っちゃうね!」

 

 「だったら…………」

 

 「え? なんだって?」

 

 「~~っ! だったら明日からアンタの家まで迎えに行ってあげるっつってんの!」

 

 「え、マジで……?」

 

 「あ、あくまでアンタのメガネが出来上がる迄の間だけだから! か、勘違いしないでよね!」

 

 「お、おう。サンキュー、な……」

 

 その言い方だと勘違いしかしようがないだろうと思うも、俺は賢明にも口にはせずに飲み干した。

 

 そうして会話が途切れ互いに沈黙すると、二人の足音のみが夜空に溶けていく。

 

 不思議と居心地の良さすら感じる静寂を楽しんでいると、何となくだけど、眼鏡の引き取り予定日をもっと後に遅らせれば良かったな、なんてらしくもない考えが脳裏を過る。


 すると、まるでそんな俺の下心を見透かしたかのようなタイミングで、耳まで真っ赤にした彼女が口を開いた。


 「で、でも、アンタがどうしてもって言うなら、メガネが出来た後も迎えに行ってやらないこともないわ……」

 

 最後は消え入るかのようなか細い声だった。

 

 それでも、真っ直ぐな想いをしっかりと伝えられた俺は、全身の血液が顔に集まっていくのを感じた。

 

 と同時に、こちらもちゃんと言葉にして伝えなければと覚悟を決めた。

 

 「お、おう……。そんじゃあ先に言っとくわ。頼む。毎日迎えに来てくれ」

 

 「~~っ! わ、分かったわ。アンタがそこまで言うなら――――」

 

 「いやゴメン間違えた」

 

 「え?」

 

 「迎えに来るか来ないかはどうでも良いんだ。ただ俺は、お前と一緒に登校したいんだ。それが叶うなら、俺が迎えに行ったっていいし、どこかで待ち合わせしたっていい。何だっていいんだ。お前とまた一緒に学校に通えるなら」

 

 「……ぅん、そうだね……」

 

 そう言ったきり、俺達の間で特に会話は交わされなかった。

 

 ただ、強く絡み合った指先が熱を孕み、僅かな湿り気を帯びていくのを感じながら、久方振りの幸せを互いに享受していたのだった。

 

 もっと早くに眼鏡を買っていれば、こんなにも時間を無駄にしなくて済んだのに、なんて後悔が脳裏を過るが、失った時間を取り戻すように急速に距離を縮めていく互いの心の熱量を知ってしまえば、これはこれで良かったのかもなんて思いもする。

 

 結局は、これからの日々次第なのだろう。

 

 眼鏡を買うも買わないも。

 眼鏡を掛けるも掛けないも。

 

 見た目に惑わされず、その人の心と向き合うも向き合わないも。

 

 全ては自分の決断次第なのだと。

 

 そんな教訓を肝に銘じながらも、俺は明日から始まるバラ色の高校生活への期待に、人知れず鼻息を荒くするのだった。

 

 取り敢えず、家に帰り着いたら真っ先に母に報告しよう。

 

 俺に彼女が出来たと知ったなら。それが四年前に泣き喚きながら引き裂かれた相手だと知ったなら。

 

 きっと、おろしたての眼鏡の無惨な末路になんか気にも留めないだろうと期待して。

 

 翌朝、俺の企みの結果がどうなったかを知るのは、約束通りに迎えにきてくれた彼女の呆れた顔だけとなるのだった。

 

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