第37話 凛菜と珠洲

凛菜は珠洲を抱きしめながら、歩きにくそうにファミレスの外に出た。


凛菜だって、珠洲が舞音と紅美花にやったことは、かなり酷いことだっていうことは理解はしている。人の感情を操作することは言うまでもなく悪いことだし、悪評を流すこともよくない。


それは当然わかってる。でも、傷心の凛菜のためにやってくれたことを糾弾する気にはなれなかった。


高校に入学してから凛菜は大半の時間を珠洲のそばで過ごしたけれど、あれだけ感情的になっている珠洲を見たのは初めてだった。それだけ凛菜のために必死になってくれたのだ。


「ありがとね……」

だから、口から出た言葉はお説教ではなく、感謝の言葉だった。


珠洲に甘いのはわかっているけれど、大事な味方には甘くなってしまう。凛菜はそっと頭を撫でると、珠洲は「ごめん……」と小さな声で謝った。


「わたしが謝られる理由は何もないよ。謝るとしたら、舞音たちに謝ろう。わたしも一緒に謝るから」

「凛菜は被害者でしょ?」

「いや、舞音は別に加害者じゃないでしょ。わたしと舞音なら、どっちかというと、はじめに勘違いしたわたしが悪いと思うし……」

凛菜が苦笑いをした。


「どっちにしても、凛菜は悪く無いのに、謝る必要はないでしょ。わたしが謝ってくるから」

「ううん、一緒に行こうよ。珠洲はわたしの為にいろいろ動いてくれたんだから」

「結局全然ダメだったけどね」


「気持ちが嬉しいよ。……でも、今回みたいに誰かに迷惑かけちゃうような感じじゃなくて、愚痴とか聞いてくれたほうが嬉しいかも」

「……わかった。ごめん」

「良いって。何回も謝らないで」


笑っている凛菜を見て、珠洲が恐る恐る尋ねた。


「ねえ、クリスマス空けておいてもらっても良い?」

「良いけど、珠洲は彼氏さんと一緒じゃなくて良いの?」

「問題ない。凛菜と一緒にいたい。彼氏いるのが不都合だったらすぐに別れてくる」


「いや、そこまではしなくて良いけどさ」

凛菜が苦笑いした。


「彼氏よりも凛菜の方がわたしにはずっと大事。大事な友達」

珠洲はソッと凛菜の手を握った。


「照れるねー。わたしも珠洲のこと大事だから、クリスマス一緒にいられるの嬉しいなぁ」

「24日も、25日も一緒にいよう。冬休みはいっぱい遊ぼう」


珠洲が彼氏よりも全力で自分のことを優先してくれているのがなんだか嬉しくて凛菜は思わず笑ってしまう。


「珠洲が良ければ、わたしは当然オッケー」

「じゃ、決まり。明日紅美花と舞音に謝って、面倒ごと全部終わらせて、楽しいクリスマスにしよ」


珠洲の言葉に凛菜は大きく頷いた。彼氏とは別れちゃったけれど、大好きな珠洲がいたら、寂しいクリスマスにならなくて済むから、むしろラッキーかも、なんて思う凛菜なのだった。

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