第35話 決戦 4
とりあえず、4人でファミレスにやってくる。4人用のテーブルで向かい合ってずっと睨み合ってる紅美花と珠洲はとっても険悪ムードだった。あたしと凛菜は気まずかったから、それぞれ困ったように目配せをしていた。
「でも、4人でファミレスとかめっちゃ久しぶりじゃない?」
凛菜が無理やりはしゃぐから、あたしも頷いた。
「ねー。ほんと、久しぶりな気がする!」
うんうん、と凛菜が頷いてから、あたしたちは無理に笑ったけれど、笑い声は少しずつ小さくなっていき、また静かになる。
さすがに殺気立っている2人の横で盛り上がるのは難しかった。ピリピリムードそのままに、苛立った声で紅美花が珠洲に尋ねる。
「それで、どういうつもりなのかしら? わたしの好感度操作して、何企んでたわけ?」
「企むとか、そういうんじゃない。舞音のことが許せなかったの。凛菜が彼氏と別れるきっかけを作ったことが。しかも、昨日学校に行ったらその舞音は紅美花と付き合い出してたんだから。意味がわからない」
珠洲の言葉を聞いて、凛菜が驚いたように慌てて横を向いて、珠洲の方を見た。
「えぇっ!? 待って、珠洲は2人が付き合ってたの知ってたわけ?」
「あんだけ教室でイチャついてたんだから見たらわかるよ」
「いや……。洞察力すごいね……」
あたしも困惑している凛菜と同じ気持ちだった。珠洲って普段おとなしいけど好感度のメガネいらないくらい周りの感情の機微を読み取るのが上手いんだよね……。あたしも落ち込んでる時にはその洞察力に何度も助けられたことがある。
「でも、わたしが斉藤に振られたのと何の関係が……?」
凛菜が尋ねると、珠洲が答えた。
「凄い落ち込んでたから、気になった。舞音を見てすっごい殺気立ってたし……」
多分その殺気立ってた様子が好感度5の時だったんだろうな。
珠洲の言葉を聞いてから、凛菜は一瞬あたしの方を見て、右手を顔の前に出して、謝るジェスチャーをした。
「確かに舞音に対して苛立った時期もあったよ。わたしの彼氏取ったと思ったから。昨日の朝にメガネのこと知ったから、いよいよ舞音のせいかと思ったけれど、放課後会った時にはなんか思ってたのと違う感じのリアクションされて、わけわかんなくなっちゃった」
凛菜が派手目の茶色の髪を揺らしてお手上げって感じのジェスチャーをしたから、あたしは思わず笑ってしまった。
「いや、ちゃんと考えないとダメじゃん。あたしが良いか悪いかちゃんと決めようよ……」
「だって、わかんないじゃん。舞音のこと悪者かと思ったけれど、冷静に考えて舞音が悪いことするわけないし」
「そうだよ、あたしは純粋無垢に生きてるって言うのに!」
凛菜に向けてため息をついた。あたしと凛菜は好感度5だった時があったことが嘘みたいに、すっかり元通り打ち解けあっていたけれど、まだ珠洲と紅美花は睨み合っていた。紅美花が珠洲を睨んだまま、重たそうに口を開いた。
「とりあえず、あんたの口から説明しなさいよ。あと、そのメガネ、早く外して。ずっとかけてて脅迫のつもり?」
紅美花が苛立った声で珠洲を睨む。
「別にわたしの勝手でしょ」
「勝手じゃないわよ。こっちは散々迷惑かけられてんのよ」
紅美花が苛立った声で立ち上がったかと思うと、サッと手を伸ばして珠洲のかけていたメガネを取り上げてしまった。
「あ、ちょっと——」
珠洲が言葉を言い終わるのを待たずに、躊躇なくメガネを折ってしまった。
パキッと乾いた音共に、中から機械的な部品が机に落ちた。線も出ている。一瞬何が起きたかわからなかったわたしたちはぼんやりと紅美花の手元を見守っていた。
「な、何してるの!?」
みんな同じことを思っていたと思うけれど、だれも口にしなかったから、あたしが紅美花に尋ねた。
「何って、こんな鬱陶しいメガネはこの世界に存在してはいけないから壊しただけよ」
紅美花はサラッと言い切ってから、珠洲の方に視線を向ける。
「いくら?」
「は?」
珠洲が苛立った声で聞き返す。
「これ、いくらで買ったのかって聞いてるのよ」
「2万だけど……」
「2万!?」とあたしは思わず裏返った声を出した。あたしが買った時よりもかなり値上がりしてる。あのお店の店長のお姉さん、このメガネが本物だとわかったから足元見出したな、と苦笑いをする。
まあ、実際に人の感情を支配できる優れものだし、本当は2万でも安いのかもしれないけれど。それでも、紅美花みたいな例外を除いては、高校生に出せる金額としては安いお金では無い。珠洲は泣きそうな顔で紅美花のことを見上げていた。
「2万だっけ? はい、弁償するわ」
雑に財布から抜き取った紅美花はろくにお札も数えずに渡したから、1万円札を3枚も手渡していた。
「1万多い」
珠洲が返そうとしたけれど、紅美花は返却されようとしているお金に触れようとしない。
「いらない。手切れ金よ」
「ちょ、ちょっと紅美花」
あたしも凛菜も困惑していた。事実上の絶好宣言をしてしまった。
「手切れ金なんてなくていいから。わたしも紅美花たちと喋りたくないし」
そう言って、珠洲は紅美花に押し付けるみたいに1万円札を返していた。
あたしもまとめて嫌われてしまっているらしい。拗ねたように俯く珠洲に、凛菜が不安そうに話しかける。
「ねえ、珠洲。本当にどうしちゃったの? 珠洲が舞音と紅美花にそんなに敵意を向ける必要なんてないと思うけど……」
珠洲はポツリと呟いた。
「ムカつくじゃん。紅美花たちだけなんかうまく恋人同士で幸せそうにしてるの。凛菜あんなに彼氏できて嬉しそうにしてて、わたしまですっごく嬉しかった。それなのに、舞音のせいでこんなことになっちゃって……」
俯いた珠洲の瞳から、机上にポツリと涙が溢れた。
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