第28話 危険すぎるメガネ 2
放課後、あたしは紅美花の指示通り、真沢さんと2人で廊下を歩いて帰ろうとしていた。
「ねえ、やっぱり紅美花のこと心配なんだけど……」
紅美花は放課後になるとすぐに、あたしから逃げるようにしてどこかに行ってしまった。歩きながらも、今紅美花がどうなっているのかということが気になってしまっていて、気が気でない。
好感度が高すぎることの恐ろしさは、先週しっかりと公園で身をもって経験して理解をしている。悪意のない状況で、偶然起きた好感度がいじれてしまったトラブルでさえも、かなり大変なことになった。
それなのに、今紅美花は悪意のある人に数値をいじられてしまっている可能性が高い。少なくとも、あたしと紅美花が一緒にいることに対して、よく思っていない人のところにメガネが渡っているのだ。
どうしよう……。
紅美花はとびきりの美少女だし、もし紅美花のことを一方的に好きに思っているストーカーみたいな人が紅美花の好感度をいじってしまっていたら……。好きでもない人とキスでもさせられていたら……。
ムリムリムリムリムリムリムリ!
あたしの紅美花が酷いことされてる可能性があるなんて、絶対ムリ! 耐えられない!
「ごめん、あたしやっぱり紅美花のこと探――」
走り出そうとした時に、真沢さんがぎゅっとあたしの手首を掴んだ。あたしの体が前のめりになって、肩が外れそうになってしまって、ちょっと痛かった。
「
「そ、そうだけど……」
あたしが真沢さんの瞳を見つめると、真沢さんは気まずそうに目を逸らす。
「気持ちはわかりますけど、青梅さんから鈴川さんのそばにちゃんといてあげるように言われたんです。私はその責任を果たさなければなりません」
「でも……」
あたしの脳内にたくさん嫌な想像がよぎってしまう。今も紅美花がストーカーから酷い目に遭わされてるんじゃないだろうか。もしかして、制服とか脱がされてないよね……。
考えすぎならいいけれど、あのメガネは悪意全開で使えば、それができてしまうのだ。得体の知れない人物に紅美花が酷い目に遭わされていることを想像すると、体の底から不快感が湧き上がってくる。
「ごめん、真沢さん、ちょっとヤバいかも……」
「どうしましたか?」
「手、離して……」
「青梅さんのことは信じてあげて――」
「それもだけど、それよりも今は……」
あ、無理だった……。
おえっっ
不快な感情を多分に含んだ液体がパシャリと廊下にこぼれた。口いっぱいに嫌な酸味が広がる。
慌てて真沢さんに手首を持たれていない方の手で口元を押さえたけど、間に合わなかったみたいだ。廊下にあたしの胃液がポタポタと落ちてしまった。真沢さん以外周りにいないことが幸いだった。
「鈴川さん……」
「ご、ごめん。すぐ拭くから……。真沢さんにはついてないよね?」
「私は大丈夫ですけど……」
そう言って、カバンからティッシュを取り出そうとしたけれど、それより先に真沢さんが自分のティッシュで拭き取り出した。
「え? ちょっと、汚いから良いよ」
あたしが慌てて止めようとしたけれど、真沢さんは首を横に振った。
「別に汚くはないですよ。でも、一応雑巾を借りて水拭きもしておいた方がいいですね」
「あ、じゃあ、すぐに雑巾取ってくるね」
「いえ、私がやりますから大丈夫ですよ」
「そういうわけには……」
「大丈夫ですから!」
真沢さんが随分と強い口調で言うから、驚いてしまった。なんだか、仲良くなる前の厳しかった頃の真沢さんみたいだ。まるで自分の仕事を邪魔されて怒っているみたい。もちろんそんなわけないんだけど。
「ちょっと雑巾を絞ってきますから、ここで待っていてください!」
うん、と小さく頷いたら、真沢さんが続けた。
「私がいない間、鈴川さんには当然ここで待っておいてもらう必要がありますが、もし鈴川さんが私が不在の間にどこかに行ってしまっても、私は止めることはできませんね」
「え?」
真沢さんが不思議なことを言い出したから、思わず聞き返してしまった。
「私がいない間に鈴川さんが勝手に青梅さんを探しに行っても、気付けないので、どうしようもないですね。青梅さんに、ちゃんと鈴川さんを見ておくように言われたから、いなくなったら困るんですけどね」
真沢さんがわざとらしく言ってから、微笑んだ。
「それって……」
「さ、雑巾を絞ってきますね。私は何もみてませんからね」
真沢さんがあたしに背を向けて去っていってしまった。
「ありがと……」
真沢さんがあたしが紅美花の元へと向かっても良い状況を作ってくれた。ありがたく、紅美花の元へと走っていったのだった。
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