第12話 彼氏ができそう 2

そんなわけで、授業が終わったら約束通り紅美花にメガネを返してもらってから、校舎裏に向かった。紅美花には先に帰っておいて良いとは伝えたのだけれど、終わり次第すぐに結果を教えて欲しいからということで教室で待機しておくらしい。


別に結果なんてメッセージアプリで送るのに、と伝えたけれど、一刻も早く教えて欲しいらしい。紅美花はせっかちだね。


ぼんやりと歩きながら、まだ見ぬあたしのことを好きな人物について思いを馳せる。


きっと告白するのって緊張するだろうし、告白するくらい好きなのだったら、そこまで興味のない男子相手でも基本的にはオッケーしてあげたいな。あたしみたいにモテない子は、告白してもらえるだけでありがたいわけだし。まあ、本当はちゃんと好きな子と付き合わないといけないのはわかっているんだけどね。


ところで、あたしの好きな子ってどんな子なんだろう。


あたしがずっと一緒にいたくて、キスとかもしたくなっちゃう人ってことなんだろうけど、それって一体どんな人なのだろうか。じっくり考えたことなんてほとんどなかった気がする。


まず、フッと顔が浮かんだのが、紅美花だったから、あたしは慌てて首を横に振る。


「く、紅美花のわけないじゃん!」


いっつも一緒にいるから、パッと顔が浮かんだんだろうな。


あたしが好きな子は、背が高くて、お上品で、いつも一緒にいてくれて、あたしを大切にしてくれて、中身のない話も楽しくできて、いつも笑い合えて、でもちゃんと良くないことは良くないって言ってくれて、良い匂いがして、髪の毛がふんわりしてて、鼻が高くて、怒っている時でも可愛くて愛らしくて、あたしのことを思ってくれていて……。


「ってこの条件じゃ、紅美花になっちゃうじゃん!」


やめたやめた。こんなこと考えてたら、そのうち紅美花と付き合っちゃいそう。


でも、もしあたしが男子だったら、絶対に紅美花に告白してたと思う。そのくらい、紅美花は魅力的な子だし、あたしは大好きだった。


とりあえず、紅美花のことは一旦忘れて、早足で校舎裏に向かうと、先に男子が待っていた。


「お待たせ〜」と呑気に手を振ったけれど、男子は緊張した面持ちで、気まずそうに「おう」と手を軽く挙げた。待っていた子とは去年同じクラスで一時期仲良くしていた斉藤くんだった。


そういえば、去年の後期は先生に頼み込まれて紅美花が学年行事の委員になっていた時期があったから、その辺りの時期は斉藤くんとも2人で一緒に帰ってたんだっけ。特別な感情は無いけれど、男子の中では一番仲良くしていた子だった。


「手紙、名前くらい書いたら良いのに」

「鈴川の靴箱に入れてたんだから、他の人に見られた時に名前があったらいろいろめんどくさそうだろ」


確かに。愛の告白だったら冷やかされたりしたら困るだろうしな。納得だ。あたしは軽く頷いておく。


「で、何の用?」

一応確認しておく。勝手に愛の告白だと思っているけれど、違っていたらめちゃくちゃ恥ずかしいから聞いておかなければ。


「そんなの大体わかるだろ?」

「何? 喧嘩でもするの?」

「んなわけねえだろ……。いくらなんでも女子と喧嘩なんてしないって」


斉藤くんが苦笑いをしていた。そして次の瞬間には真面目な表情で緊張した声色を出す。


「俺、鈴川のことが好きなんだよな……」

「随分といきなり……」


今年に入ってからは、この間の文化祭の時に凛菜と一緒に雑談していたくらいしか接点ないんだけど……。


「なんか、改めてっていうか、去年から好きだったんだけど、やっぱり思いが捨てきれないっていうかさ」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ」

あたしが微笑むと、彼も笑ってくれた。


正直今まで斉藤くんに恋心なんて抱いてなかったけれど、実際に好きの気持ちを持ってくれているのなら、ちょっとくらい心が動いてしまう。あたしのことを恋愛的な意味で好きな子なんて、身の回りにいないのだから。


彼が本気であたしを好きならば、こちらからもちょっとずつ彼のことを知ってあげれば良いのだ。後は大事なのは頭上の数値である。あたしはゆっくりと彼の頭上を見た。彼の表情が終始本気だったから、微笑みながら見たのに、表示されていた数値は思っていたのと違うものだった。


「85って……」

あたしは思わずため息をついてしまった。いや、彼なりに勇気を振り絞って告白してきてくれたのだから、ため息をついたら失礼なのはわかっているけれど、紅美花が96なんだから、85なんてただの仲の良い友達の範囲である。


もちろん、友達として仲良くしてくれるのは嬉しいけれど、きっと異性として好きな感情と、友達として好きな感情を間違ってしまっているのだと思う。


「その感情多分勘違いだと思う……」

「勘違いってどういうことだよ?」

「多分あたしのこと好きじゃ無いのに、好きだと勘違いしてるんだと思うから、また別の恋しなよ。斉藤くんならきっと良い人見つかると思う! ……だから、ごめんね!」

あたしはさっさと去ろうと思って背中を向けたけれど、彼がグッと肩を掴んでくる。


「ちょっと待てって! 久しぶりに会ったから勘違いだと思ってるってことだよな? だとしたら、そんなことはないからな。俺は彼女と別れてまで鈴川に告白したんだから、本気だよ!」


あたしなんかの為にそこまでしてくれるのは本当に申し訳ないけれど、頭上の数値は正直なのだ。あたし自身、彼にそこまで興味がないわけだから、どちらも興味が無い同士付き合っても、きっとうまく行かないだろうし。


「ごめんね。あたしもあんまり恋愛対象としては見れないかなって思って……。斉藤くんとは良い友達でいられたらいいな、的な……」

「あたしも、って、俺は本気なんだけど」

「まあ、いずれにしても、付き合うのは難しいかもっていうか……。気持ちは嬉しんだけど……。だから、ごめん!」


告白された経験の少ない者のさがだろうか。うまく振ることもできず、逃げるようにしてその場を後にしてしまった。


本当にごめんね、斉藤くん。けれど、これでお互い良かったんだと思うよ!


そうやって心の中で謝りながら、紅美花の元へと急いで向かうのだった。

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