第10話 委員長とのデート 6
「……というわけで、真沢さん、あたしのこと狂信的に大好きだったみたい」
真沢さんとのデートが終わって家に帰ったら、真っ先に紅美花に電話をして今日起きたことを全て伝えておいた。
「狂信的にって……、呆れるわね。しかも、それで話しかけ方がわからないから細かいことグチグチと注意するって、舞音も良い迷惑よね。可哀想だわ」
「まあ、ちょっと困っちゃったけれど、これだけ好きでいてもらえて悪い気はしなかったよ。あたしにこれだけ愛情注いでくれる人ってあんまりいないし」
あたしがそう言うと、なぜか紅美花は不機嫌そうな声を出す。
「ふうん。あんた人の好意に疎いもんね」
「なになに〜、真沢さん以外にあたしのことが大好きな人物に心当たりがあるわけ〜。もしかして、あたしに恋心を抱いている男子の存在とか!?」
あたしがイタズラっぽく言うと、紅美花の声色が変わる。
「あんた、わざとやってんの……?」
紅美花が苛立った声を出している。
そういえば、紅美花も好感度の数値95ってことは、あたしのこと超絶大事な友達と思ってくれてるんだから、愛情を注いでくれる人はいない、なんて言ったら、良い気はしないよね。紅美花だって、友達としてはこれでもかというほど愛情を注いでくれているわけだし。
あたしは恋人レベルで好きでいてくれる人がほとんどいないっていう話をしていたんだけど、それが紅美花にはうまく伝わってくれてなかったみたいだ。
「ち、違うよ。紅美花はちゃんと友達として好きでいてくれていることはわかってるから……」
そう言っても、紅美花は「そうですかそうですかー」と適当にあしらってくる。
全然機嫌を戻してくれそうにない。マズイな、好感度下がっちゃってるかも……。
「ねえ、紅美花。ビデオ通話にして良い?」
「え? どうしてよ?」
「紅美花の顔見たいから」
「え? わ、わたしの顔っていつも通りよ!」
紅美花の声が上擦っている。
「いいから。今の紅美花の顔が見たいの」
「が、学校に行ったら毎日見られるでしょ?」
「それじゃあ意味ないもん。今すぐ見たいんだから」
「わ、わかったわよ」
紅美花がビデオ通話のボタンを押してくれたから、紅美花の顔が一瞬アップになった。スマホの横にある鏡を見ながら、慌てて前髪を整えているみたい。なんだか無防備な紅美花って感じで可愛らしかった。
そうして、あたしたちはお互いに顔を見合わせて会話をする。
「今すっぴんだから、変な顔になってるわよ?」
そう言う紅美花の顔は、たしかに学校にいるときよりも薄く感じられたけれど、いつも通りの美人さんだった。紅美花は元の顔がメリハリがあって綺麗なのに、さらに化粧映えもするから羨ましいんだよね。
「この間のお泊まり会の時だって寝起きはすっぴんだったじゃん」
「そういうあんたの前での気合を入れてる時のすっぴんじゃなくて、ほんとに無防備なすっぴんなのよ……」
「別に紅美花は元が可愛いから問題ないでしょ」
「そ、そんな、可愛いって……。わたし別に可愛くなんてないからぁ」
紅美花がヘヘッと恥ずかしそうに笑っていた。普段強気な表情をしていることの多い紅美花が珍しく緩んだ表情をしていた。
とはいえ、そんな紅美花の表情の変化よりも今は数値が気になった。あたしはジッと紅美花の頭上の方を見てみた。
「……うーん、だめだな。やっぱり画面越しじゃ数値わかんないや」
あたしがため息をついたのとほとんど同意に、紅美花が「え……?」と呟いた。
「ねえ、あんたさ、まさかと思うけど、わたしの好感度の数値見るためにビデオ通話にしたんじゃないでしょうね……?」
「好感度見るためだよ?」
「あんたねぇ……」
紅美花が怒ってるっぽい? でも、好感度が見えないから、ちょっとよくわからないかも。
「あんた、人の期待をぶち壊すんじゃないわよぉ!」
紅美花が机を叩いたから、その拍子に紅美花のスマホが揺れて、送られてきている映像も大きくブレた。
「え? ごめん。紅美花何か期待してたの……?」
わかんないや。何かして欲しかったのかな。
「してないわよぉ! 舞音になんて、何も期待しないわよぉ!!!」
もうっ、と怒りながら、マイネームペンで紙に何かを書いている。
「何書いてるのさ?」
画面の死角になっているから、書いているものまではわからなかった。謎の紙を、紅美花は頭の上に置いた。
「45……?」
紅美花が頭の上の辺りに両手で持った紙には数字が書いてある。
「好感度、見たいんでしょ?」
紅美花が頬を膨らませながら、画面越しにあたしを睨んだ。
「えー、低くない……?」
「低いわよ! これがわたしの今の気分よ!」
フンっと鼻を鳴らして、紙を丸めて捨ててしまった。
「ご、ごめんね、紅美花。なんで怒ってるかわからないけれど、許してぇ」
「わからないのに謝らないでよ!」
もうっ、と呆れたように紅美花はため息をついていたのだった。
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