第6話 委員長とのデート 2
「じゃあ、言ってた通り、あたしは今日は真沢さんと帰るからね」
紅美花に伝えると、少し寂しそうな顔をしながら、ため息混じりの不機嫌そうな声を出された。
「良いわよ。わたし、一人で帰るから」
「紅美花もたまには彼氏さんと帰ってあげなよ」
「ああ、彼氏ね。はいはーい、帰るわよ」
随分と適当な感じで言いながら、紅美花は教室から出ていった。多分彼氏のところに向かったのだろうけれど、あたしはいつも一緒にいるにも関わらず、紅美花の彼氏のクラスどころか、名前すら知らなかったから、確実なことは言えなかった。聞いても適当に話題を変えられて、はぐらかされてしまうのだ。
不機嫌そうに見えたから、去って行く後ろ姿から数値を確認しておくと、好感度は82にまで下がっていた。
「紅美花、怒ってるのかなぁ。でも、たまには彼氏さんとの時間も大事にしてあげた方がいい気もするけど……」
下がってしまった紅美花の好感度が心配ではあったけれど、約束をすっぽかすわけにもいかないから、とりあえず真沢さんの元へと向かった。
「真沢さーん、帰ろー」
近づくと、真沢さんはわたしのことを上から下まで真剣な顔でジッと見てきた。
「ど、どうしたの……?」
167という相変わらず高い好感度の数値を出しながら、怖い顔をしているから、感情の判断に困る。
「いえ、変な格好だったら注意しようかとは思ったのですが、一応校則違反はしていないようですので」
「放課後ならちょっとくらいは自由な格好しても良いんじゃないかな?」
「ダメに決まってます! 学生として、どこにいても品行方正な振る舞いはしなければなりませんよ!」
真沢さんが怖い顔で怒るけれど、やっぱり数値は高いままだから、本当に怒っているのかよくわからなかった。心からの満面の笑みを浮かべながら怒られているみたいな、奇妙な感覚である。好感度がわかってしまっているせいで、思わずクスッと笑ってしまった。
「何がおかしいのですか?」
火に油を注いでしまった。真沢さんはやっぱり怒っているみたい。
「いや、なんでもないんだけど……」
誤魔化そうとしたけれど、真沢さんが鋭い視線であたしを睨むから、うまく言葉が出てこない。
「あ、そうだ! 常に模範生でいないといけないんだったら、放課後遊びに行くのもダメじゃない? 校則では学校が終わったらまっすぐ帰らないと行けないって書いてるし。あたしは気にしないけど、真沢さんが無理なら、やめとく……?」
えっ、と真沢さんが困惑気な声を出す。
好感度の数値を信用して良いのなら、真沢さんはあたしに対してかなり高い好感度を持っているはず。つまり、遊びに行くことをかなり楽しみにしていると考えて間違いない。だから、約束を取りやめる方向には持っていかないはず。
あたしはあえて寂しそうな声を出すと、真沢さんが小さく声を出した。
「その……」
明らかに落ち込んでしまっている。いつも自信満々の真沢さんが珍しく俯いてしまっていた。
頭上の数値が150代中盤と170代前半くらいの数値で切り替わっている。紅美花の時は同じペースで上がったり下がったりしている感じだったけれど、真沢さんの場合は160代の数値を経ずに、150代中盤の数値と170代前半の数値が交互に切り替わっている。不安な感情とは違う動きみたいだ。
真沢さんの中で嬉しい気持ちと悲しい気持ちがせめぎあってでもいるのだろうか。
「次の土日とかはどうでしょうか……?」
真沢さんはこちらの機嫌を伺うように、恐る恐るあたしの方を見つめてくる。メガネの奥の目からは、緊張感が伝わってくる。
「うーん、あたし土日は結構忙しいんだよね」
嘘。普通に暇。なんなら遊び相手欲しいくらい。けれど、今はさっさと真沢さんの数値の変化を見て、このメガネのことを知りたい。
真沢さんの頭上の数値が152にまで落ち込んで、うぅ……、と小さな声を出す。普段強気な真沢さんが今日遊びに行けないだけでこんなに弱ってしまっているなんて……。真沢さんの中でのあたしの好感度は一体どうなんているんだ。
ちょっとかわいそうになったし、やっぱり土日まで待とうかな、と思ったけれど、真沢さんが「わかりました……」と小さく頷いた。
「内緒にしておいてもらえますか……?」
「何を? あたしと遊んだこと? あんまりバレたくないの?」
好感度は高いはずなのに、あたしと一緒に遊びに行くことが恥ずかしいということだろうか。不思議に思っていると、真沢さんが続ける。
「学校や親に私が放課後に遊びに行っていたことを内緒にしておいて欲しいということです……。バレたら私が悪い子だと思われてしまうので……」
「いや、言う訳ないじゃん……」
真沢さんの頼みを聞いて、思わず苦笑してしまった。
あたし、真沢さんと一緒に放課後カフェに行ってきました! なんて先生や親に言ってどうするんだろ。そんなことを言われても、子どもが親に友達と遊んで楽しかったよ、的な報告をしているように思われるだけなのではないだろうか。
言われた側も、良かったね、くらいしか返しようもなさそうだし。別に言ったところでただの無邪気な子にしか思われないと思うけれど、真沢さんの中では大罪のようだ。優等生って大変だな……。
あたしが困惑していると、真沢さんの頭上の数値が一気に182まで跳ね上がった。
「そ、それならいきたいです……」
真沢さんは声を潜めて言う。真沢さんの考えていることはわからないことも多いけれど、何はともあれ行く気になってくれてよかった。
あたしはホッと息を吐いてから真沢さんの手を握って、引っ張ろうとした。
「ちょっ」と小さな声が真沢さんの口から出てきた。
「どうしたの?」と不思議に思って見た頭上の数値が196になっていた。なんだ、これは。触れただけなんだけどな。
「恥ずかしいから、離してもらってもいいですか?」
「え、うん……」
紅美花とよく手を繋ぐから、その時と同じ感じで触ってみたけれど、ダメだったみたい。優等生はパーソナルスペースとか結構気にするのだろうか。仕方がないから、わたしは少し真沢さんとは距離を取りながら歩くことにしたのだった。
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