第5話 委員長とのデート 1

「真沢とデートとか絶対やめた方がいいわよ!」

紅美花があたしの肩を両手で掴んで顔を近づけてくる。近すぎて、鼻先が触れてしまいそうだった。


「く、紅美花、顔怖いよ……」

紅美花ととっても相性の悪い真沢さんと一緒に出かけようとしているから、不機嫌なのだと思う。


眉間に皺を寄せて怒っている表情だったので、数値もかなり下がっているのではないかと思って、頭上を見ると、90前後を行ったり来たりしている。90を境にして反復横跳びをしているみたいに動く数値の感情が一体何を示しているのか、気になってしまった。


「一体今何考えてるの……?」

「数値低かったわけ?」

紅美花が口を尖らせた。顔が近いままだから、なんだかそのままキスでもしちゃうんじゃないだろうかと不安になる。


「低いっていうか、すっごい勢いで数値が動いてるよ。なんか不安定な感じ……」

「……なら、見た目通りよ。あんまりそのメガネを信用はしたくないけれどね」


「?」

紅美花の言いたいことがわからず、あたしは首を傾げた。


「不安定な数字の動きの通り、不安ってことよ。真沢と1対1で話すとか、超めんどくさそうじゃん」

「紅美花って真沢さんのことかなり嫌いだよね……」


紅美花はいつも真沢さんに突っかかって喧嘩をしているから、好感度はかなり低そう。基本的に嘘はつかない紅美花のことだから、すぐに頷くと思ったのに、意外にも首を横に振って否定した。


「別に嫌いじゃ無いわよ。真面目な子はクラスには一人は絶対に必要だし。あいつがいないと教室の空気緩み切っちゃうもの。だから、嫌いってわけじゃないし、細かいお小言も理解はしているつもりよ。……ただ、わたしは舞音まおにやたらと厳しく接しているのが許せないのよ! だから、舞音に対してあんな意地悪なやつと一緒にデーt……、遊びになんて行ってほしくないのよ!」


紅美花がフンっと鼻を鳴らした。犬猿の中みたいになっているから、案外紅美花が真沢さんのことを尊重している部分があるのは意外だった。まあ、それはそれとして、あたしがデートをすることに対して怒ってはいるみたいだけれど。


「心配してくれてるのは紅美花の優しいところだけれど、あたしはメガネの効果気になるし、あんな凄い数値出るときの感情が気になるから、やっぱりデートするね!」


あたしの答えを聞いて紅美花が右手で頭を抑えた。好感度の数値は87で固定される。あたしが紅美花の言うことを聞かないから、不機嫌になっているみたいだ。


「ごめんってば。悪いのはわかってるけれど、やっぱり気になるよ……」

「ねえ、せめてデートっていう表現やめられないかしら?」

「え? 良いけど……」


別に一緒に出かけることをどう表現してもいいのだけれど。紅美花が何をこだわっているのかよくわからなかくて、不思議だった。


「じゃあ、真沢さんと一緒に遊びに行く、とかなら良い?」

「終わったらわたしにどうだったか教えてくれる? 真沢に変なこと言われたらちゃんとわたしに言いなさいよ」

「何それ、ヤンデレの彼女みたいじゃん」


あたしが冗談半分で伝えると、紅美花の顔が赤くなって一瞬だけ数値が96にまで上がってから、また80後半にまで戻った。


「か、彼女じゃないわよ!」

必死に否定されたから、あたしは苦笑いをする。

「わかってるって。冗談だよ。とりあえず、ちゃんと結果報告するから」

紅美花もなんだかんだ言って、あたしのメガネのことが気になっているみたいだ。わざわざ結果の報告を求めてくるなんて。


紅美花は口をへのじにしながらも「まあ、それなら……」と一応納得はしてくれた。でも、数値はまだ89で、いつもの点数からはかなり低いから、不機嫌ではあるんだろうな。紅美花はそもそもあたしと真沢さんが一緒にでかけることに対して不満みたい。


お昼休みになり、あたしは真沢さんの席に向かった。

「ねえ、真沢さん。今日の放課後空いてる?」

あたしが尋ねると、真沢さんは怪訝そうな表情を浮かべた。


「空いている、というのは、暇かどうかという意味で大丈夫ですか?」

「他にどんな意味があるの?」

「いえ、鈴川さんが私に予定が空いているかどうかを聞く状況が、ちょっと想定できませんでしたので」


「真沢さんと一緒に遊びに行きたいなって思ったから」

「鈴川さんが私と遊びに行きたいって、どんな冗談ですか……」


ため息混じりで、ツンとした言い方をしているから、メガネをかけていなかったら真沢さんがあたしを嫌がっているようにも感じてしまう。


けれど、メガネの数値はあたしが話しかけてから、かなり高くなっている。元々160代後半くらいという異常値だったものが、178にまで上がっていた。


「真沢さんも行きたいんだったら、一緒に遊びに行こうよぉ」

「一応聞きますけれど、私と鈴川さんの2人きりということで良いのですよね?」

「そうだよ。あたしと真沢さん2人きり!」


あたしが真沢さんの目の前にピースを向けると、真沢さんが少し俯いてから頷いた。真沢さんの頭上の数値は180にまで上がっている。


高すぎる数値は壊れているようにしか思えないけれど、今のところ凛菜の出した5という異様に低い数値以外は、数値と感情が一致しているからきっとこの高い数値にも意味があるに違いない。(まあ、全ての数値に意味があると仮定してしまうと、凛菜があたしのことを嫌いという事実も完成してしまうから、あまりよくはないのだけれど……)


「鈴川さんが嫌じゃないなら、行きたいです……」

あたしの方は見ずに真沢さんは答えてくれた。

「じゃあ、決まりだね! 真沢さんとは遊んだことなかったから、すっごい楽しみだなぁ」


わたしが喜ぶと、真沢さんがパッと見ではわからないくらい小さく口元を緩めて頷いていた……と思う。正直些細な変化すぎて微笑んでいるのかどうかわからなかったけれど、頭上の数値が191になっているから、少なくとも好意的なことには間違いないないと思う。とりあえず、無事に遊び約束ができて良かった。


まあ、改めて真沢さんの数値は高すぎる気がするのは気になるけれど……。

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