第2話 雑貨屋の掘り出し物 1
「ね〜、リア充紅美花さま〜、マジでモテ方教えてよ〜」
帰り道、一緒に帰っていた紅美花の腕を取りながら歩く。
中学時代はどれだけ告白されてもまったく彼氏を作ろうとしなかった紅美花は、半年前にようやく彼氏を作ったのだ。彼氏がいつつも、わたしのことを大事にして、一緒に帰ってくれる優しい紅美花のことが大好きだった。
あたしと紅美花は小学生の時から同じ学校に通っていたから、グループの中では付き合いが一番長い。まあ、紅美花と本格的に仲良くし出したのは中学に入学してからではあるけど。
中学が一緒だったから、当然家も近い。学校から急行列車と各駅列車を乗り継いで、15分ほどかけて最寄り駅まで一緒に帰るのだった。まだ秋だと思って油断してコートを出していなかったから、紅美花にくっついて歩くと、ちょっと温かくて助かる。
「舞音の場合、小柄で小動物みたいに可愛らしいし、普通にしてたらモテると思うけど?」
「紅美花みたいに大きい方がカッコよくてモテそうだけどなぁ。ていうか、あたしはずっと普通にしてんのにさぁ」
「逆に好きな男子いるわけ?」
「いないんだな、それが」
「なら、そこからじゃない?」
「そこから?」
「ターゲットを決めて落としにかかる。それが一番良いんじゃない?」
「落としにかかるって言ってもねぇ……」
そもそも周囲に魅力的な男子がいないから、頑張って彼氏になってもらうためにアピールしたい人もいないし。
「うちのクラスにあんまり良い人いなくない? 紅美花が男子だったら、あたしは紅美花と付き合いたかったんだけどね」
笑いながらいつもみたいに冗談っぽく言ったから、紅美花も笑いながらパシッと肩でも叩いてくるのかと思ったのに、実際の反応は違った。
「へ、へぇぁ!?」と紅美花が変な声を出した。
「どうしたの、くしゃみでも出そうなの?」
「ち、違うわよ! 舞音が付き合いたいとか言うからビックリしたのよ!」
「じょ、冗談だよ?」
思ったよりも大きく反応されてしまって驚いてしまう。そんなに変なことを言ったのだろうか。ちょっと心配になる。
あたしも紅美花もお互いに静かになってしまい、変な沈黙が流れてしまう。鳥の鳴き声や、電車の音が普段よりも大きく耳に入ってくる。
あたしは気を紛らわせるようにして、紅美花に提案する。
「そうだ、久しぶりにいつもの雑貨屋いかない? 何か面白いものが入ってるかもよ」
うん、と紅美花が少し元気なさげに頷いた。
なんだかおかしな紅美花の様子は不思議だったけれど、気にせず雑貨屋に向かう。昔から2人でよく行った、変わったものがたくさん売っている雑貨屋。
お店自体は元々駄菓子屋だった場所を改装して作っているから、あまり大きな店ではないし、映えるような店ではないけれど、大手の雑貨屋では見ないような、可愛らしいものがたくさん売っていて好きだった。
わたしたちがお店のドアを押して開けた瞬間に、元気な声が聞こえてくる。
「いらっしゃ〜い!」
中から出てきたポニーテール姿の元気なお姉さんがこのお店の店長さんである。
彼女は元々大手の文具会社で商品開発の仕事をしていたのだけれど、雑貨全般が好きすぎて会社を辞めて自分のお店を作ったらしい。収入は会社員時代の3分の1になったらしいけれど、好きなものに囲まれる生活は悪くはないらしい。
「2人とも久しぶりだけど、元気にしてた?」
「いつも通りですね。相変わらずの腐れ縁ってやつです」
あたしは雑貨を見回りながら答える。
パステルカラーの貯金箱とか、普段見かけないようなキモカワ系のマスコットキャラのキーホルダーとか、興味の惹かれるものがたくさん並んでいる。見ているだけでも面白かった。普段は紅美花も一緒にはしゃいでいるのに、今日はさっきから随分と静かだった。
「ねえ、一体どうしたの?」
あたしは紅美花に尋ねた。
「どうもしないって。ちょっと考え事してただけ!」
紅美花がいつのもように笑っていたけれど、なんだか作り笑いみたいにも見えた。ちょっと心配だったけれど、紅美花がそれ以上気にして欲しくない感じだったから、わたしは必要以上には踏み込まないようにしておいた。
引き続き商品をのんびりと見ていると、可愛らしい赤色をしたレンズの大きなメガネが目に止まる。
「これ、可愛くない?」
普段通りの調子で紅美花に尋ねると、紅美花がいつものように笑った。
「何? イメチェン?」
「明日から委員長みたいに真面目キャラになろっかなぁ」
メガネを試しにかけてみて、テンプルを人差し指で押し上げてみて、優等生っぽい雰囲気をして紅美花を見る。
「真沢みたいに細かいこと言わないでよ?」
「明日からは紅美花がバレッタつけてきたら注意しようっと」
「真沢じゃん」
紅美花がケラケラと笑い出したから、あたしも合わせて笑う。とりあえず、機嫌を直してくれたみたいでホッとする。真沢さんには悪いけれど、紅美花が彼女のことが苦手だから、機嫌を直してもらうために使わせてもらった。
あたしは真沢さんのことは嫌いではないし、むしろ良い子だと思うけれど、紅美花に合わせて彼女をイジってしまうのはあたしの性格の悪い部分だと思う。そうやって、ほんのりと自己嫌悪に浸っていると、紅美花の頭の上に何か数字が浮かんでいるのが目についた。
「95……?」
一体何の数字なんだろうか。
「いきなりどうしたのさ」と紅美花があたしに尋ねてくる。
「いや……。紅美花の頭の上に何か数字が浮かんでたから」
「何それ、怖っ!」
一瞬紅美花が嫌そうな顔をして、慌てて手で頭の上を振り払うようなポーズをとった。紅美花は嫌そうに振り払っているけれど、レンズ越しに写る数字は消えそうにない。
「それ、何の数字なのよ?」
「今まで付き合った人の人数とか?」
「あんたはわたしをなんだと思ってんのよ……」
紅美花がため息をついてから、適当に続けた。
「次に返ってくるテストの点数とか、そんなのかしら?」
「いや、紅美花がそんな良い点取れるわけないだでしょ」
「おい!」と紅美花が笑いながらあたしの肩をペシっと叩いた。そうやって、2人で普段の調子ではしゃいでいると、店長のお姉さんが笑う。
「なかなか良いものに目をつけたね」
「これ、掘り出し物ですか!」
「イェス!」
お姉さんが嬉しそうに答えてくれた。珍しい商品なのかもしれない。
「これね、かけたら0〜100の間の数値で相手の好感度がわかるメガネらしいの!」
「好感度がわかるって? さっき見た95っていう数字が紅美花のあたしへの好感度ってことですか?」
そうだよー、と何気ない調子で答えてくれたけれど、本当だとしたらこのメガネはかなり凄いものなのでは……。それこそ、小さな雑貨屋にあって良いようなものではない気がするけど……。
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