泉の女神と、めがねとメガネと眼鏡とMEGANEの選択を

初美陽一

やはりめがね……めがねは全てを解決する……!

 ある日、趣味の一人ソロキャンプに興じていた俺は、先ほど不注意でめがねを落とした――泉に、めがねを、落としたんだ。


 そうしたら、その泉から、せり上がるように水が湧き出てきて。


 中央から、絶世の金髪美女が姿を現し――こう言った。


『あなたが今、落としたのは……この、金のめがねですか?』


「…………!」


 もはや。


 もはや、これは確定演出――目の前にあるのは、勝利へのロードだけだ。あまりにも有名すぎる童話、何と答えれば良いかなど、改めて考えるまでもない。


〝いや何で日本の泉から、こんなド金髪の欧州風美女が?〟とか、

〝ドッキリだろ、常識的に考えて……〟とか、

〝ドッキリじゃなかったら、それはそれで怪しすぎるだろ……〟とか。


 どうでもいい。

 あの〝金のめがね〟を目にしてしまった今、どうでもいい。


 純金だぞ、キンキラキンだぞ、さりげなくすらないぞ。

 レンズまでド金ピカだぞ。〝それもう何も見えないだろ〟とかですら、どうでもいい。むしろグラム数が著しく増加して願ったりですよオホホイ。


 さて、〝金のめがね〟のまばゆさに文字通り目がくらんでいると、泉の女神(信じることにしました。その方が、俺にとって……都合がっ、いいからっ……!)は、続きの台詞を口にしようとして。


『それとも……』


 あーハイハイ、銀ね、銀のほうね。金のインパクトと比べればね、アレですけどね。なんだろ、威力が高くて槍に強いけど、剣に弱いとか? いや斧じゃなくて眼鏡なんだから、違うかガハハ。


 まあこれもね、必要な工程ですからね、ちゃんと聞いて――


『メガネっですか?』


「!?」


『具体的には……内気でオドオドして顔を伏せがちだけど、メガネをかけていてさえ隠せない……いやむしろメガネが可愛さにアクセントを加えている美少女で、あと内向的な雰囲気に反しておっぱいはデッケェ、そんなメガネっ娘ですか?』


「!!?」


 なんだコレ……どういうコトだよコレェ!(動揺)


 金のめがねを右手に持つ泉の女神の、左手側に――まさに今ご紹介にあずかりましたような美少女が現れた。

 しかも確かに、メガネっ娘だ。メガネをかけていても、いやむしろメガネをかけているからこそ、魅力が引き立つ。女神の言う通りだ。でも〝銀〟要素どこだよ。あっメガネが銀縁ぎんぶち? ってやかましいわ。


 あとおっぱいデッケェ(小声)


 そんなメガネ美少女が、おどおどと内気そうな様子で、メガネ越しに大きな瞳で俺を見つめてくる。

 ここで告白しておくと、俺は〝めがね〟が好きだ、フェチだ。そらもう、両目とも裸眼で視力1.0あるのに、伊達眼鏡をかけるほどに(泉に落っことしたけども)


 もちろんメガネっ娘も大好きだ。

 目の前のメガネ美少女は、どストライクだ、運命どころか奇跡すら感じる。これが神の御業みわざか。あとおっぱいデッケェ(小声)


『……ちなみに普段は恥ずかしがりやですが、メガネを外すと見えにくいせいで途端に距離感がおかしくなり、まつげとまつげが触れ合うくらいの大接近をしてきたりします――』


 女神コイツっ……シチュエーションめがねラブコメあるあるまでっ……!?


 ……さて、ここで問題となってくるのは。


「は……はあ、はあっ……」


 俺は、どうすれば良いのか――

 いや、答えは簡単だろう。この話の流れ的には、選択を間違える……つまり欲に目が眩んで金や銀を選べば、両方とも手に入らないというオチが待っているはず。

 逆に、正直に答えれば、金も銀も手に入る――そういう、そういう話なのだ。


 だが。

 だがしかし、だ。


 俺は、俺はメガネっ娘を見てしまった――いやもはや、愛してしまった――


 たとえ今だけ、〝落としたのは、普通のクソやっすい伊達眼鏡です〟と、今だけ、今だけ――答えるのだとしても。


 メガネっ娘を選ばなかった、そこに。


 そこに愛は、あるのだろうか―――愛は、あるんか―――?


 俺は、俺は――どうすればいいんだ――!?


「はあ、はあ……はあっ……!」


『………………』


「はあっ……はあ、はあ、はあっ……!」


『……それとも』


「えっ!?」


『こちらの……知的な雰囲気を演出してくれる、ハーフリムの赤縁あかぶちが魅力的な、超高級ブランドの珠玉の逸品いっぴんである眼鏡ですか?』


「!!!?」


 だっ――第三の選択だとぉぉぉぉぉ!!?


 ……いやおかしいだろ! 第三の選択は〝正直に答える〟で据え置きだろ! なぜ新たな、新たな眼鏡が出現する!?


 そしてここへきて内容は普通の眼鏡、されどめがねフェチ的には確かに魅力的、なかなかにツボを押さえていやがるッ!


 これがッ―――緩急かッ!!


「はっ、はっ……はあ、ハアハアハアッ……!」


『………………』


「はァ――ッ、はァ――ッ……!?」


『それとも』


「ちょおまっ」


 第四の刺客、現る―――!!?


 やめてくださいよ、これいじょーぼくを惑わせるのはやめてくださいよぉ!


 されど女神は待ってくれない。女神がめがねを繰り出してくるゥ!!


『この、泉の妖精によって造られし――かければ千里の彼方まで見通せて、光の反射を集束させてレーザーを放つことすら可能とする……あとオマケに魅力のステータスが255上昇して神すら魅了する、まさに超級メガ……名付けて〝MEGANE〟ですか?』


「なんか急激にゲームじみてきた!?」


 当たり前に困惑する俺、だが――かき乱された脳内とは裏腹に、冷静に思い至る。


 ……コレ、このまま黙っておけば……どんどん特典(?)が増えてくのでは?


 ちょっと〝コマンド:ようすをみる〟を選択しますかね。フフッ!


 さて、俺がドキドキしながら待っている、と。


「……………………」


『……………………』


「……………………」


『……………………』


「……………………」


『……………………』


 うん、無いみたいッスね! そりゃね、そうだよね! ごめんね欲の皮つっぱってて! そういう話じゃないもんね!


 とにかく、フィーバータイム(?)はここまでらしい――なら俺は、俺は、一体どうすればいいのか――!?


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」


『……………………』


「ハァ――ッ! ハァ――ッ! ハァ――ッ!(いえっ……言うんだ!〝普通のめがねです〟と……普通ッ、普通ッ、普通ッ……!)ハッハッア、はァ――ッ……!?(こ、声がッ……声が出ないッ……緊張で声がァ――ッ!?)」


『フフッ』


「はァ―――ッ!!?(なにわろてんねん!)」


「……あ、あのっ、がんばってくださいっ……!」


「はァんッ(ありがとうメガネっ娘! ちっくしょ~控えめながら一生懸命な声援がツボ押さえててカワイイぜっ。やっぱメガネっ娘は最高だな!)」


 ツッコミさえ、返答さえ、声にならない俺は――けれど、この極限状態で。

 ぷつん、と何かが切れて――


「……………………」


 極限を超えて、されど意識はギリギリ保ち、俺は―――否、私は、悟った。


 そして私は、それはさながら賢者の如く、女神へとうやうやしく答えを出す。



「いいえ女神様、俺が、いえ私が落としたのは――金のめがねでも、メガネっ娘でも、オシャレ眼鏡でも、チートMEGANEでも、ありません。

 ――ただの、何の変哲もない、クソやっすい、伊達眼鏡なのです。

 それだけが、何の変哲もない。それだけが、真実で。


 ―――私は、大好きなめがねを、ただ泉に落としただけなのです―――」



『あ、そうですか。わかりましたー』


「オイ俺の決意に対して態度があっさりすぎんだろ」


 この女神、どこまでもこの女神。


 それはそうと、俺の答えに対して、泉の女神はお決まりの行動を返してくる。


『では、正直者のあなたには、全てを差し上げましょう……さあ、今しがた紹介しました何やかんやを、お受け取りください……』


「ウス、アリガトゴザアッスッ! ごっつぁんデスッ!」


『それでは、私はこれで……正直者に、幸多からんことを……』


「おっと。ちょっ待ってくださいよう女神さん。まだ全部受け取ってないッスよゥ」


『へ?』


 言いながら、俺は――今しがた受け取った、神すら魅了する〝チートMEGANE〟をかけて。


 水面下へ帰ろうとする泉の女神の手を引き、こう言った。



「女神様―――アンタが、欲しい―――」


『――――――!!?』


「おっと、髪にアメリカザリガニついてんぞ★ 外来種の不法投棄かな。生態系を乱す捨て置けない問題だよね」


『ドッキーーーーンッ……♡』


 こうして、俺は。


 選択を終えた、俺は―――………。



 …………。

 ……………………。

 ……………………………………。



 あれから、暫くして。


 まず、〝金のめがね〟は売りました。シンプルにすごい良いおかねになりました。きんってやっぱすげぇや。改めて俺はそう思いました。


 そして、その資金で購入した家には―――


「あ、あのっ、新しいお料理、挑戦してみたんですっ。ど、どうでしょうか……えっ美味しい? え、えへへっ……嬉しいですっ……♡」


 はにかむように笑う、内気な美少女メガネっ娘の、幸せそうな姿が。

 あと胸元がエプロンを押し上げててすごいです(すごいです)。


 そして、高級ソファに腰かけている、一人の金髪美女は。


「全く……女神たるこの私まで手に入れるなんて、呆れた人ですね……ですが、構いません。このオシャレ眼鏡に免じて、許しましょう♡」


 くいっ、とハーフリムの赤縁眼鏡を持ち上げつつ、泉の――

 いや、今や〝おうちの女神〟が、穏やかに微笑む。


 美少女メガネっ娘と知的眼鏡美女に囲まれ、俺は俺で〝チートMEGANE〟のおかげで仕事も順風満帆。


 きっかけは、家宝として飾っている、泉に落っことした、あのめがね。

 趣味でかけていた、クソやっすい伊達眼鏡を、泉に落っことした、それだけで。


 それが、まさか―――こんなことになるなんて―――

 

 ただ一つだけ、言えることは―――



「やっぱめがねって最高だな!」



 そう、全てはめがね、めがねのおかげ。

 さあ、あなたも今日から、レッツめがねライフ――!



 ~ ★めがねEnd★ ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泉の女神と、めがねとメガネと眼鏡とMEGANEの選択を 初美陽一 @hatsumi_youichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画