第14話 『総合戦闘』
「今日は記念すべき第一回目の授業だ。心して取り組み給え!今日は講義をする。んでもって来週は実技、その次は講義。そんな感じで講義と実技を交互に行っていく」
「もちろん実技だけに出席しても意味がないと思いたまえ!それだけならどんなに実技の成績が良くても取れる単位はゼロだ!わかったな」
「だがまあしかし、この次期学長候補筆頭のこの私、レッド・ブルーの授業だぞ?この世で最も幸せな時間を過ごせるのだから逆に神様に感謝すべきくらいだな。フッハハハ!」
教師はそう言うとプリントを配り始めた。
「かなり癖の強い教師のようだな」
「んー、どういうことだろう。去年は教師に対しての不満なんて噂になってなかったのだけれど……。ちょっと失敗したかもしれないわね」
モニカの発言を皮切りに似たようなことをぼそっとつぶやく学生たちも出てきた。
それに対してレッド・ブルー教授が反応した。
「誰だ!私の不満を言っている者は!?」
教授の声が講義室にこだまする。誰もが下を向き出した。外で小鳥のさえずる声が聞こえてくるくらい場がシーンとした。
そんな中、ニコッと良い笑顔をした教授が学生めがけて歩いてくる。
「ふむふむふむ、ふむふむ?」
「貴様か?」
教授が学生の一人に詰め寄った。
「いえ、違います」
即座に隣の学生に声をかける。
「ではお前か?」
「違います」
それから教授は教卓に戻って血走った目をして奇声を上げた。
「私に聞こえるように不満を言うなあっ!
人として”常識”だぞ」
「では授業を始める」
それまで言うと生徒の誰もが反感を抱いた。
なあ、この授業、ブッチするか?……いやいやまだ早いだろ。
そんなことを視線で交わす者もいれば、
あいつ、気にくわねえな。むかつくぜ、クソがっ!ペッ!
と態度で表す者もいた。
キテンはと言うとなんとも思っていなかった。ここまでひどい人物はなかなかいないがゼロではない。まあ、こんなやつもいるだろう、その程度のものだ。
モニカもそこまで気にしていないようだが、周りの雰囲気がおかしい。
特に前の方の列に座っている奴らは目がキマッていた。
ナイフをなめている者、呪いのわら人形の釘刺しをしている者など様々だが、彼らの思いは一つにまとまっているように見えた。
――どうやったらあいつに仕返しができるか――
そんな様子を見たモニカはこう言わざるを得なかった。
「うちの学校ってこんなに治安が悪いのかしら?」
だが、よく考えれば治安が悪いのは当然のことなのだ。元々、この授業は戦闘について学ぶことが目的だ。それ故に集まってくるのは己の腕に自信を持っている者ばかり。そんな奴らの大半は、教授に負けじと劣らず癖の強い奴らなのだから。
◆ ◆ ◆
「戦闘では肉体スペック、間合い管理、この二つが重要だ。それにプラスして技だの読み合いだのコンボなどがあるが、そんなの意識している者などそうそういない」
「よって、この授業では技、読み合いなども教えるが、基本はトレーニング方法、間合い管理を学ぶことだ」
レッド・ブルー教授の授業は意外にもまともだったといえよう。
彼の態度は大きく、聞いている者が反感を抱くようなしゃべり方をするが、言っていること自体はキテンの経験則から納得できた。それに加えて、キテン自身が感覚でやっていたことを上手く言語化しているので、戦い方についてより考えを深められた。
キテンはこれほど戦闘についてわかりやすく教えることができる者を知らなかったので、彼の中でレッド・ブルー教授の株が上がった。故にキテンは疑問に思う。
なぜ、自分はレッド・ブルーという名の人物を知らないのか、と。
レッド・ブルー。
彼は軍に配属されると優秀さを認められ、瞬く間に出世していった。それ故、近いうちに将軍になるだろうと噂されていたが、自身の性格が災いして味方内に敵を作りすぎてしまったため、飼い殺し状態となってしまった。
それからというもの、大きな戦果を上げることができなくなり、とうとう将軍になる前に戦争が終わっていた。彼はプライドが高かったので今まで自身の態度を改めることをしてこなかった。だが将軍になれなかったことがさすがに堪えたのか、どうすれば良かったのか考えることとなった。
そして考え抜いた上、上の立場の者に対してのみヘコヘコすることに決めた。上の者に対してはなんとか耐えることができたが、下の者に対して丁寧に接することができそうになかったからだ。
そんな彼は戦争が終わり、もう名声を得られそうにないため軍隊を抜けた。だが、現実は甘くない。どんなに頑張っても名誉ある仕事につくことができなかった。時間だけが無為に過ぎ去っていく中、一通の手紙が彼に届いた。
新しく創設されるという真央学校の教師にならないか、という旨であった。何でも学校の教頭になる予定の男が戦時中、彼に助けてもらったらしい。故に彼に恩義を感じており、そして実力も知っていた。あなたなら学生たちを上手く育てられるだろう、とも書かれてあった。
久しぶりに自分を認めてもらった彼はもうここしかないと悟り、教師になることに決めたのだ。
そんなレッド・ブルー教授の過去を知るよしもない学生たちは、いや、知っていたとしても止まるはずない学生たちは作戦を実行に移した。
「貴様らはこの学校に来れるほどの実力を持つ。並の者ならば自身の肉体スペックで相手を蹴散らせるだろう。だからこそ、トレーニングをして自身の能力を高めていくというのが一番やるべきことなのだ」
「しかし、次の実技では実力を測るために実践形式を行う。それまでの短い時間でトレーニングしても意味ないと思うのでまずは間合い管理について教える」
「もし、素手で戦闘を開始するならば相手との間合いをどうやって狭めていくのかが重要になってくる。そこで一番意識して欲しいことは相手の動きだ。もし相手が武器を持っており、その場にとどまっていたり、後ろに引いた場合は、自分が前に出たとしても自分が攻撃できず一方的に攻撃される間合いになってしまう」
「そのため、相手が前に出てくる瞬間を狙うのだ。自分と相手が互いに近づこうとするとき、一気に間合いが縮まり、自分の得意な間合いに持って行くことができる。……、…………」
リーーン。リーーン。
講義室に鐘の音が響き渡った。
「誰だ!授業中にアラームを鳴らしているのは。校則違反だぞ!お前か!?没収だ。没収」
そう言うと教授は先ほど奪ったタイマーを自分のバックに放り込んだ。
「では、次に自分が剣を持っているときについて話していく。そのときは『プッパラッパッ、ドンタッタッタッ』っ。またか!」
そこまで言ってこちらを向いた教授は固まった。彼が見たものは何なのか……。
小太鼓をたたく者、笛を吹く者、そして歌を歌う者がいた。
「演奏は、ないだろう……」
教授は顔をゆがませた。
「教授、校則には演奏してはいけないと書いていません」
「くそっ。腐ったミカンどもめ!」
その後も同じようなことを繰り返しているうちに授業時間が終わっていた。
講義室を出たキテンとモニカは校門に向け歩いていた。
「授業はどうだった?」
「うーん、強いて言えば一瞬だったな」
そう、学生と教授のやりとりのせいで授業がほとんど進まずに終わっていたのだ。内容が気に入ったためにキテンは不完全燃焼であった。まあ彼はほかの授業を受けていないので授業とはこんなものなのか、とだけ感じていた。
「まあ、ほとんど動物園みたいな状態だったものね。ほかの授業はもっとしっかりしてるのよ」
そこまで言ったモニカは口を閉じた。
彼女の視線はあちこちを向き、頬も少し染まりだした。
まるで緊張しているようである。
彼女は意を決したように深呼吸した。
「ねえ、キテン。今夜暇?」
なぜそのようなことを聞いてくるかわからないが正直に答える。
「ああ、今日中は暇だな」
「なら、私の家に泊まりにこない?」
キテンはつばを飲み込み、控えめに「うん」と答えた。
売国の魔女 ~最強の戦士 無双する~ 漆黒の権化 @211041
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。売国の魔女 ~最強の戦士 無双する~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます