ムシゴロシ

佐倉満月

 子供の頃、虫眼鏡を覗くのが好きだったんですよ。普段見ているものが拡大されて見えて、知らない世界を覗き込んでるみたいで楽しかったな。

 理科の授業で、虫眼鏡で太陽光を集めて黒い紙を焦がす実験やったの覚えてます? 自分は早めに成功させてしまったので、残りの時間は暇になりました。なかなか成功しない生徒は先生に手伝ってもらってて。そいつらを横目にどうやって暇を潰そうか考えてました。

 太陽光を使う関係でグラウンドで授業をしてましたよね。そこで蟻を見つけたんですよ。蟻って黒いじゃないですか。もし虫眼鏡を向けたらどうなるんだろうって疑問が膨れ上がってきて、持ってた虫眼鏡を蟻の上に翳したんです。そしたらぱちんと弾けて。それが堪らなく愉快だったんですよ。夢中になって蟻を焼いてました。蟻を沢山焼きながら、蟻だけじゃなくて、もっと大きな生き物も虫眼鏡で殺せないかなって考えたんです。

 それから好奇心の赴くまま、色んな生き物で試してみました。蟻よりも大きな昆虫から始まり、鼠や猫、犬などの小動物に至るまで。大きい生物になるとどうしても逃げちゃうからしっかり固定して。鳴き声がうるさいやつは殺して縛りつけてました。黒い生き物はちゃんと燃えましたよ。体が大きいほど焼けるまで時間はかかるんですけど、逃げられずにじりじり焼かれていく様は滑稽だったなあ。

 だから、あなたも同じように焼かれてください。僕のこと、昔から気味が悪いって散々いじめてきましたよね。無視もされました。僕が今まで色んな生き物を焼いてきたのは、人間も焼けるか試すためでもあったんですよ。ほら、あなたも黒いじゃないですか。髪の毛も、目玉も。どっちに先に火がつくかなあ。この日のために大きいレンズを用意したんですよ。あなたのための特注品です。どうです、嬉しいでしょう?

 人殺し? イカれてる? どうぞ、何とでも言ってください。その程度の罵倒で僕は止まりませんから。

 本当はね、あなたのことも予め殺しておきたかったんですけど、それじゃつまらないじゃないですか。恐怖の声を、断末魔を聞かせてください。僕はじっくり待ちますから。虫眼鏡で、虫ケラのあなたが燃え尽きるまで。

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