縁無しめがねの憂鬱

葉月りり

気に入って買ったけど

 子供の頃から近眼でめがねを使っていた。そのうちお年頃になりメイクもするようになってコンタクトレンズを使うようになった。


 若いうちは見た目をとても気にしていたが日々は確実に過ぎ、そろそろ私も老眼が入って来ている。もう見た目を気にする年でもないし最近ドライアイ気味でもあるので、コンタクトレンズを卒業して遠近両用めがねを作ることにした。


 近所の眼鏡屋さんに行ってみると、小さい店なのにたくさんのフレームが置いてあった。格好をつけることはない、軽くて着け心地の良いものをと試着してみるが、今までメガネを使っていなかったのでどれをかけても違和感がある。


 悩みすぎて、もう自分で決められそうにないので専門家に頼ろうと相談すると、それなら縁無しにしてみたらと勧められた。フレームがなければ素顔に近い感じになるのだと。

 試してみるとなるほど納得で、それならテンプルも細いものにして色もなるべく目立たないように艶消しの金色にしたら、より気にならなくなった。


 これはいい買い物ができたと喜んで帰ったが、私はすぐにこのめがねを選んだことを後悔する。


 顔にかけて目立たないという事は、置いておいても目立たないという事だった。


 久しぶりのめがねなので疲れやすく、見えないくせについつい外して適当なところに置いてしまう。そしてうっかり置いたところを忘れてしまうのだ。


 さあ、いざちゃんと見なきゃという時にどこにあるのかわからない。私のぼやけた目には、このめがねは周りに溶けるように見えなくなってしまうのだ。


 目を皿のように見開いて棚や机、鏡台に顔をくっつけんばかりに寄せて探す。手をあちこちに這わせながら。


 あーめがねを探すためのめがねが欲しい!


思わず声に出てしまった。


 今はこの縁無しめがねに派手な眼鏡チェーンを付けて、外しても首にぶら下げておけるようにしている。


 この次めがねを作るときは「アラレちゃん」ばりの太いフレームにしようと思う。


おしまい

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縁無しめがねの憂鬱 葉月りり @tennenkobo

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