第12話 田坂家のドア

 築何年くらいだろうか。木造の古めかしいアパート。「矢吹荘」と半分消えかけている看板を確認する。

 203号室。

 若干緊張しながらドアの前に立つ。ここに田坂光一が住んでいるはずだ。

 呼び鈴を鳴らす。

 ・・・・

 反応がない。もう一度鳴らす。

 ・・・はい。

 消え入りそうな小さな声がドア向こうから聞こえてきた。おそらく田坂の声だろう。

「こんにちは。私、田坂光一君が通われている高校の担任をしております乃木と申します。光一君は御在宅でしょうか?」

 少し待つが何も反応がない。おそらくドアの向こうにいるのは本人だろう。反応があるまでジッと待つ。

「・・・はい。」

 聞こえるか聞こえないボリュームで答えてくる。しかしドアは開かないまま。

「田坂君か?こんにちは。風邪で結構休んでるからさ、心配で来てみたんだけど大丈夫?」

「・・・はい。」

「そっか、それならいいんだけどさ、少しお話できないかなぁと思ってさ。どう?」

「・・・。」

 無言。中には入れさせてくれなさそうだ。だが少しでいいから対面で話がしたい。この機会を逃してしまうと後々面倒になってしまうんじゃないかと危惧していた。

「まだ体調悪いのか?」

「・・・。」

「勘違いだったらごめんなんだけどさ、体調以外に何か元気じゃなくなることはある?」

 我ながら変な聞き方をしていると思う。が、ほかにどんな言い方をしていいか分からない。けれど田坂からの返答はない。

「・・・開けてはくれないかな?」

 ここからいくら返事を待っても帰ってくることはなかった。

 

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不幸を平等に ポンタ @yaginuma0126

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