全人類がメガネに乗っ取られた恋愛ゲーム世界を伊達メガネで生き抜こうと思う。
七篠樫宮
1本目 最近の恋愛ゲームは主人公の性別を選べるらしい話
『眼鏡ヒロインが絶対に負けないラブコメゲーム』という
よくある学園モノのゲームで、主人公は魅力的な同級生や先輩後輩などと学園生活で仲を深めていくというストーリーだ。
一般的な恋愛シミュレーションゲームには多種多様な属性を持つヒロインが登場する。
幼馴染系だったり、スポーツ系だったり、男装系だったり、ツンデレ系だったり、お姉さん系だったり。
それらの属性は容姿に関するモノから性格に関するモノまで、文字通りにヒロインの数だけ存在するのだ。
もちろん『眼鏡ヒロイン』というのも属性の一種だ。そのまんま眼鏡をかけているヒロインの事である。
ここまで言えば察しの良い人なら気付くかもしれない。
恋愛ゲームは色んな属性を持つヒロインを攻略するゲームであり、誰が勝ちヒロインになるのか、あるいは誰が負けヒロインになるのかは主人公――つまり、プレイヤー側に
では、この恋愛ゲームは何故『眼鏡ヒロインが絶対に負けない』なんてフレーズを
メインヒロインが『眼鏡キャラ』だから?
――いいや違う。このゲームにメインヒロインやサブヒロインなんて区分はない。
どのルートを選んでも最終的に『眼鏡キャラ』のヒロイン一人にしか行き着かないから?
――いいや違う。このゲームは登場する全てのヒロインが攻略可能だ。
作中で容姿も性格も一番魅力的なヒロインが『眼鏡キャラ』だから?
――いいや違う。このゲームは全ヒロインそれぞれに優劣の付けられない魅力がある。
では、何故『眼鏡ヒロインが絶対に負けない』のか?
答えは単純。
「この恋愛ゲームには『眼鏡キャラ』しか登場しないからさ」
『眼鏡ヒロインが絶対に負けない恋愛シミュレーションゲーム』もとい、タイトルを【このメガネは曇らないっ!〜君とメガネのハイスクールシンフォニー〜】。
ファンの間での呼び名を『眼鏡不敗神話』。
『眼鏡キャラ』が負けヒロインと呼ばれることに耐えられなかった
そして奇遇なことに、俺が転生したゲーム世界の原作の名も【このメガネは曇らないっ!〜君とメガネのハイスクールシンフォニー〜】であった。
「マジかぁ。よりによって『眼鏡不敗神話』に視力強化チート持ちで転生……?」
俺は頭を抱えた。
なんで全人類がメガネの世界に【視力EX】で転生するんだよ。
登場キャラが眼鏡オンリーという設定ゆえに、この恋愛ゲーム世界の全人類は眼鏡をかけているのだ。
ちなみにコンタクトという概念はこの世界には存在していない。
つまり眼鏡をかけなくても生活できる俺はこの世界では異端も異端。
分かりやすく言えば、眼鏡無しで街中を歩くということは社会の窓を全開どころか全裸にニーソで出歩くことと同義。
だが、視力チート持ちの俺に普通の眼鏡は邪魔にしかならない。
そんな目が良すぎる俺がかけても問題ない眼鏡……そうか!
「よし!
度のない眼鏡くらい売っているだろう。無ければ市販の眼鏡からレンズだけ抜けばいいし。
――この日、俺は全人類がメガネに乗っ取られた恋愛ゲーム世界を伊達メガネで生き抜こうと心に決めた。
*――*――*
俺が伊達メガネでの生活を決心した日から月日は流れる。
運命の
原作開始の当日、すなわち学園の入学式の日に俺はゲームの舞台である『
俺の目的はこの恋愛ゲーム世界を生き抜くこと、そして原作キャラ達の恋愛を温かい目で見守ることだ。
もちろん彼らの恋愛事情に首を突っ込む気は無い。馬に蹴られて死にたくないからね!
だからこそ入学式でのイベントを邪魔しないため――もといデバガメするために俺は家をメチャクチャ早く出たのだ。
あぁ時が戻るなら一時間前の自分を殴りたい。後、数分でも早く、
なにせ、俺の目の前には――――
「すみません! 本当にすみません! ちょっと前が見えてなかったんですっ!」
「全然大丈夫だ。なんともないからな。そもそも正門前で立ち止まってた俺の方が悪かった」
俺にぶつかったことを全力で謝っている少女。
高級車にでもぶつかったんじゃないかと思うくらいに平身低頭だ。
「え、いえいえボーッとしてた私が悪いんです! ほら、新天地にワクワクして調子乗っててすみませんっ! あの、これで勘弁してくだひゃい!」
彼女はどこからか取り出した
俺は慌てて少女を
「いやいや本当に大丈夫だから! 同級生から金を巻き上げるとか無いから!」
「このお金で気を鎮め……え、同級生?」
「君も新入生だろう? 俺もなんだ」
彼女は小声で「マジですか。この顔と格好で同級生……不良漫画の主人公かな? 普通に怖いんですが……」と呟いている。おい全部聞こえているぞ。後、その発言は
「はっ! では、半分だけ……」
「いらないよ。というより、この光景を誰かに見られたら俺の評判が入学初日に終わるから早く
「そうですか……」とお札を仕舞う彼女をよく観察する。
俺と同じ制服を着た新入生。
背丈は俺の胸あたり。
髪は黒色のミディアムボブで、前髪が長い。俗に言う
そしてこの世界の人々の類に漏れず、赤い
先に言っておこう。メカクレ女子なんて希少な属性をもつ彼女だが、原作の攻略可能キャラではない。
大事なことなので二回言おうか。彼女はゲームのヒロインじゃない。
でも俺は彼女を良く知っている。なんなら、どのヒロインや原作登場キャラよりも長い付き合いであるとさえ言える。
「えーと、お見苦しいところをお見せしました。まさか、こんなに早い時間に私と同じ新入生がいるとは……」
「俺も同じ気持ちだよ。それじゃ、またどこかで」
足が全力で逃げたがっている。まさかまさかだ。なんで彼女とエンカウントするんだ。
「あ、あの! 待ってください!」
「どうかしたか?」
「これも何かの縁ですし、お名前だけでも……」
「……俺は
「そうですか! 私は
藤堂怜。
恋愛ゲーム、【このメガネは曇らないっ!〜君とメガネのハイスクールシンフォニー〜】の主人公のデフォルトネームも『藤堂怜』。
俺は笑みを浮かべる彼女を前にしながら、心の中で全力で叫んだ。
「(この世界、女主人公ルートかよッ!?)」
こうして俺――才賀天治のバレてはいけない伊達メガネ学園生活が幕を開けた!!
全人類がメガネに乗っ取られた恋愛ゲーム世界を伊達メガネで生き抜こうと思う。 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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