めがね超越物語~ぎがね誕生~

杉林重工

めがねの上にぎがねを掛けたら最強なのでは

「助手よ、ついにわしは超次世代めがね、すなわち『ぎがね』の開発に成功した!」


「名前がダサい。僕はめがねがいいです」


「釣れないことを言うな、洒落だよ洒落。いいかい、このぎがねは超広角ビューで三百六十度の視野を持ち、自動焦点調整機能で遠近乱視、ついでに老眼にも対応している!」


「博士にとっては老眼鏡だけで事足りるのでは」


「そう言うでない。さらに網膜投射型プロジェクターにより、AIでリアルタイムで見たものの姿形を補正してどんな瞬間も逃すことがない! 加えて、助手にとって大事なお楽しみモードもあるぞ」


「お楽しみモード?」


「そうだ、大きな声では言えないがな、ナイトビジョンモードがある。さらに、その応用で赤外線を利用した透視だってできるんだよ! これはつまり、あんなことやこんなことにも使えるが、もちろんそういうことやああいうことには使っちゃだめだ。それはさすがに不適切だ。コンプライアンス的にもよろしくない。だからロックを掛けて置く」


「ならなぜ教えた。理不尽だ。あんまりです」


「それからeSIMにも対応しているから常にインターネットに接続して天気予報からニュースのヘッドライン、道案内をはじめとしたマップ機能や、動画サイトを視野の片隅に置くこともできる! そのほか一度でも見た人間の顔や名前は自動登録されるから、もう金輪際、あの人の名前なんだっけ、なんて考えなくてもいい。どうだ、すごいだろう」


「でもそれって、ただのApple Visionじゃないですか」


「違う! ぎがねの本領はここからだ。めがねと違ってぎがだぞ、ぎがだ。ぎがのぎがたる由縁はその情報量にある。ぎがねにはさらに、超拡張現実機能があるんだ」


「胡散臭い。僕はめがねでいいです」


「この機能により人の動きやその流れを予測してぎがね上に表示することで、事前に面倒事が回避することができるのだ。否、それどころか、この先起こりうる事件や事故をすべて演算してタイムライン上に映像として出力できる。落ちてくる植木鉢も横入りしようとするクソババアも信号無視した車も、逆に公園から飛び出してくる子供もすべて事前に認識できる」


「さすがにそれは無理では」


「ぎがねは視覚情報を共有しておる。これによりこういったことが可能なんだ」


「おいおいプライバシー。めがねのほうがいいでしょう」


「さらに、そのネットワーク機能を応用して、自分がどういった行動を起こせば望む結果を引き起こせるか、それすらも演算が可能だ。つまり、見えないものを見ることができるめがねの機能を超え、見たいものを見る機能だ」


「望遠鏡?」


「それでも、この超演算機能で賄いきれない不都合な現実は映像としてAIが自動的に補正して、目に触れないようにすることもできる。もう、道端のうんこからゲロ、嫌いな広告や気に食わない人間の顔も見なくて済む」


「スマホのブラウザに搭載してくれたらそれでいいですよ、広告ブロックは」


「つまり、ぎがねの普及は人間同士のそういった煩わしさから解放し、皆が皆、嫌なもの見ないで円滑に過ごすきっかけになるはずだ。やがて人間は常にぎがねを掛けたまま、理想の友人や家族、恋人と過ごす時間で満ち溢れる! もちろん、ぎがねの弦部分には骨伝導スピーカーが内蔵されているから音声もばっちりだ。匂いもごまかせる機能もそのうち追加しよう。どうだい、そうなればもうめがねの時代は終わり、このぎがねの登場で人類は次のステージに上がる! どうだ、素晴らしい発明だろう!」


「それは構いませんが博士、そのぎがねを外した時、僕は本当にいますか?」


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