エピローグ

エピローグ

「えっほ、えっほ、えっほ……」

 へろへろになりながら、三連自転車を漕ぐ三人がいた。

 ハンドル三本に、サドル三つ、タイヤ四つ。どこで売っているんだろうか。某大手通販サイトの海外版でも全くお目にかからないだろう、奇妙奇天烈な自転車である。

「オシャンティ様、また失敗でやんしたねえ」

「うるさいっ!」

「ま~た、貧乏生活に逆戻りで~すねえ」

「ああ……。ホテルのスイート生活が懐かしいわぁ。とほほほ」

 そうボヤく三人を、時折通りかかる農家の爺ちゃん婆ちゃんが不審な目で眺める。

 一一月下旬の、夕方である。

 どこまでも続く、海岸線国道。太平洋から吹き付ける風が、ひたすら冷たい。

「はあ。都内までこうやって自転車で帰るのか~い! あと何キロあるのぉ~っ。死んじゃうよぉ~~」

 オシャンティがそうボヤいた途端。――

「こ~の、スカポンチンっ!」

 突如、自転車前面のスピーカーから怒鳴り声が響き渡った。

「「うわわわぁっ!」」

「その声は……ワ、ワルプルギス様ぁ~~~~」

 ガタガタと震え出す、三人。

「ま~た失敗したなぁ。あの程度の仕事も出来ないようじゃあ、今日も折檻ゝゝだっぺ~っ!」

 不気味な声が、スピーカーから響く。

「いやいやいや、ワルプルギス様~っ。今回はアイツらが手強かったんですよ~っ。素人と思えない手管で……」

「そうそう、そうでまんねん」

「それならそれで、こっちに報告して指示を待てばよかったっぺ~っ。やっぱお前らの落ち度だっぺ!」

「「「そ、そんなぁ~~~~」」」

「というわけで、恒例の折檻ゝゝだっぺ~っ!」

 すかさずスピーカーから、ベルリオーズ幻想交響曲の終楽章が流れ、

「「「うわわわぁっ!!」」」

 自転車が轟音と共に、盛大に爆発した。

 立ちのぼる黒煙。

 数秒後、アタマ黒焦げチリチリ、衣服がズタボロになる三人組。……

「ひえぇ~~っ。ま~た真っ黒コゲ。と~ほほのほ」

「オシャンティ様、今日はベージュでっか」

「いやぁ~んっ! おパンティ丸見えじゃないのぉ~! あわわわ……何か、何か隠すものは無いの~!?」

「ベージュなんか履いてるから、行き遅れるんで~すよ~、オシャンティ様ぁ」

「うるさいっ!! あたしゃまだ二六歳だっつーの!」

 ズタボロ三人がオタオタする中、

「ワハハハハ。お前らはアジトに戻ったら、蟄居謹慎だっぺ。ほんでもって、次の指示を待つだっぺ!」

 壊れ落ちた三連自転車のスピーカーから、酷い雑音混じりの声が流れた。

「「「ははぁ~~っ!」」」

 スピーカーに向かい平伏する三人に、南国の冬の、穏やかな夕日が射した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

縄文文書(もんじょ)で世界を救え!! 幸田 蒼之助 @PeerGynt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ