KAC2024に参加するお話その8

那田野狐

第1話 万太郎と幼なじみ その2

 底辺ウーチューバーである漆虎万太郎のスマホに幼なじみの獅子吼玲於奈から連絡があった。


 どうやら彼女は前回訪れた日本の居酒屋がえらく気に入ったらしく、月に数日しかないという貴重な休みの日に再び地球の日本の居酒屋でビールを片手に焼き鳥を食べたいので再びエスコートして欲しいという事だ。


「よう。万太郎」


 待ち合わせ場所、スマホで動画配信サイトウーチューブの動画を見ていた万太郎の背後から声が掛けられる。


「おう玲於奈。着たか」


 万太郎は、声がしたほうを見て顔を引き攣らせる。

 そこには、分厚い瓶底みたいなめがねに大きな黒いマスク。野暮ったい大きな帽子を被った玲於奈がいた。


「前回と違って重装備で来たな?」


 万太郎は僅かに目を細める。


「最近、その周りの目が厳しくなってね・・・」


 眉毛をへの字に曲げた玲於奈はたははと笑う。

 何でも玲於奈は近く行われる全銀河スポーツ大会のアンバサダーに就任したためゴシップ系の雑誌の記者に追い回されているらしい。


「それはご愁傷様です」


 南無南無と呟きながら手を合わせる万太郎。


「何だね?その仕草は」


「ぁぁ、地球、俺の住んでいる日本の宗教仕草だよ」


「宗教仕草を普段使いするなんて随分殊勝ね?信仰心でも生まれたの?」


 玲於奈は笑う。彼女からすると宗教というのは死者に対する儀式というモノで普段使いするモノではない。食事の前に食事出来ることを神に感謝することもない。

 以前、万太郎が食事の前に「いただきます」と言って食べ始めたときも指摘した事を思い出す。玲於奈にとって「命をいただく食材への感謝の言葉」というのは新鮮だった。


「取りあえず大会が終わるまではこんな感じだよね」


 玲於奈の笑いが苦笑いに変わる。


「仕方ない。自分が選んだ道だ」


 二人して苦笑いして居酒屋に向かった。



「お前、酒が入ったら獅子じゃなく虎だな」


「いや面目次第もありません・・・」


 翌日、即席の氷嚢を頭にに載せ万太郎に頭を下げる玲於奈であった。

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