【KAC20248】『想像で補う世界とはさようなら』

小田舵木

【KAC20248】『想像で補う世界とはさようなら』

 歪んで見えていた世界が。あっという間に補正されて。

 私は今、初めて世界の正しい姿を知った―

 うん。ただ。生まれて初めて眼鏡をかけただけなんだけど。

 

 歪んでいない世界は。

 真っ直ぐな線と綺麗にあったピントの世界。

 …ボケた視界に生きていた私にはちょっと眩しい。

 ありのままの世界は。私にはちょっとあからさま過ぎて。

 隠れる場所がないように思えてしまう。

 

「そんなに戸惑ってどうした?」後ろから聞こえる声。

「いやあ。眼鏡、ついに買ってさ」私は振り返らずにこたえる。まだ、彼の顔を見るのは怖い。

 

 彼。幼馴染の彼。

 私は眼が悪いから。そして彼の顔を見るのが気恥ずかしいから。

 まだ、彼の顔をしっかりとは知らない。

 今日。眼鏡をかけてしまったから。

 私は彼の顔を嫌でも知ることになる。

 少し怖い。私はぼんやりとしかしらない彼の顔を。想像で補っていた。

 想像する彼の顔は。優しげで美しい。

 私は真実なんて知りたくはない。自分の想像の中に生きていたい。

 だけど。眼鏡をかけてしまったから。

 もう。想像で補う世界とはさようなら。現実の世界を生きなくてはならない。

 

「嫌にクリアに見えるだろ?」彼は言う。

「必要ないディティールまで見えるのが面倒くさい」

「…現実は。どうでもいいディティールの集まりなんだぜ?」

「何だか。世界がとっ散らかって見えるなあ」

 

 そう。世界がゴチャゴチャして見えるのだ。

 見えなくてもいいモノが見えてしまうのだ。

 眼が悪かった私は。世界を見たいように見て生きていた。

 意外とそれで何とかなってしまっていた。

 見たいように見て。見なくていいモノは見ない…

 それが私の人生観なのだった。

 

「ほーれ。これが俺の顔ですよっと」

 彼が、私の前に立つ。

 ちょっと待って欲しい。まだ、心の準備が出来ていない―

 だけど。その気持ちとは裏腹に視線は彼の顔の方に向かって。

 彼の顔が目に入る。

 

「わお。おでこにニキビがあるねえ」

 これが私の感想だ。素直な。

 顔の印象どうこうよりも。おでこに出来た立派なニキビが気になってしょうがない。

 

「しゃーねえでしょ。お年頃なんだっての」

「に、したって。大きすぎだよ…」私は吹き出してしまって。

 

 おでこのニキビが気になる彼の顔は。

 私の想像していた顔とは違っていた。

 優しくて美しい…そんな顔では全然ないんだけど。

 なんでだろう?彼の顔だからかな。

 不思議と悪くないなって思えたんだ。

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【KAC20248】『想像で補う世界とはさようなら』 小田舵木 @odakajiki

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