いろめがね

かざみ まゆみ

第1話

「天城先生、そんなに沢山のサングラスをどうしたんですか?」


 助手の里美君が首を傾げている。

 今日はゴシック・ロリータのメイド姿だ。別にメイド姿が制服ではないし、強制もしていない。服装は自由で良いと伝えただけだ。


 ここアキバの街にはいろいろな存在が住んでいる。人が入り込めない裏路地にも棲み着いている住人がいる。里見君もそういった住人の一人だ。


「これは色目薬の代わりに使ってもらおうと思ってね。装着者の精神状態に反応して濃度が変わる優れものですよ」


 へぇ~と手に取って眺める里見君。


「まだ固定の色は着いていないのですね。それに度も入っていないみたい」


 里見君は眼鏡を掛けてみると、こちらを見ながらクイッと右手で位置を調整した。眼鏡キャラが良くやるアノ仕草だ。


「眼鏡もよく似合うよ」

「お世辞でも嬉しいですわ」


 里見君が頬を染める。

 ゴスロリのメイドが恥じらう姿もまた珍しいものだ。


「この前の彼女みたいな、突然色彩欠落症になった人は色目薬を処方しないと駄目だけど、慢性的な症状にはこういうのも良いかなと思ってね」


『色彩欠落症』


 近年増えている奇病で、ストレスの種類によって視界の中から色が欠落するという病。心因反応のひとつと考えられている。

 単色だけ欠落することもあれば、白黒の世界になってしまう事もある。

 己の世界から色が消えてしまう、いわば絶望の世界。放置したまま悪化すれば自ら死を招く病だ。

 とある殺人鬼の視界は黒地に白線の世界だった。


「裏路地の職人さんに手伝ってもらってね。上手く調整できるといいんだけど……」


 私は他者の視界が共有出来る異能持ちだ。症状に合せて調合した色目薬を投与する事が出来る。この色薬いろぐすりも裏路地の職人さん達と一緒に研究開発した逸品だ。


 この研究所には、いろいろな伝手で紹介された患者さんがやってくる。


「ほら、また新しい患者さんがいらっしゃいましたよ。里見君、お出迎えをしてください」


 誰がドアをノックした。

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