ハイパーウルトラフルフラットMAXデュエルXO-JANG

ゴメス

最終回 運命の激突

 人間の住む『現界』とカードモンスター達の住む『異界』の狭間、時間と空間の揺らめく世界の中に二人の人間がいた。

 一人は少年、皇城すめらぎゲンキ。中学生二年生で、身にまとう学ランは所々ほつれており、ここまでの激戦を物語っている。

 もう一人は長身の男。全てのマジモンバトルを支配しようとする闇の組織〈YAMINOSOSHIKI〉の首魁にして最強と目されている男である。闇の仮面によってその 顔は見えないが、放たれる威圧感がただ者ではないことを示していた。

「目を覚ましてくれよ、親父!」

「私はお前の父ではない」

 仮面の男はゲンキの訴えを一蹴した。

「お前の父はここにはいない」

 男は冷徹に、しかし少しの憂いを含みながら答える。

「そんな……『暗黒の仮面』の力で人格が乗っ取られているなんて!」

「違う。私は乗っ取られてなどいない。これが私なのだ」

「そんな嘘にだまされてたまるかよっ! 決闘だ!」

 少年は腕に決闘ディスクを装着した。

 決闘ディスク、それはマジモンカードを用いた決闘を行う際に使用する決闘専用デバイスである。これを装着したと言うことはすなわち、マジモン決闘で勝負をつけるということだ。

「よかろう。身の程というものを教えてやる」

 仮面の男はそう言いながら禍々しい決闘ディスクを腕に装着した。決闘了承の合図である。

「「決闘!」」

 二人が同時に叫ぶと、きらめく粒子が四次元空間を展開し決闘フィールドを作り上げた。

 互いのライフ、4000ポイントを削り合う闇のゲームの開始である。

「先攻は私がいただこう。ドローカード」

 仮面の男が山札から五枚のカードを引き抜く。初期手札である。

「私は手札から呪文カード『合体』を発動する」

 呪文カードが呪文ゾーンにセットされ、効果が発動する。

「このカードは手札、フィールドの複数のモンスターを合体させ、エクストラデッキからモンスターを一体召喚することができる。私は手札のLV.2『ゲイズ』とLV.4『ダークオーガ』を合体する。現れよ、『悪魔王デビルキングヘルゲイザー』!」

 フィールドに禍々しい悪魔が召喚された。筋骨隆々の体はあらゆるモンスターを破壊し、三つ目の邪眼はあらゆる敵をひるませる。悪魔の中の悪魔、故に悪魔王である。

「こ、攻撃力5000だと……!」

「ただし、ヘルゲイザーが自分のフィールドにいるとき、自分は呪文ゾーンに呪文をセットすることができない。よってターンエンドだ」

 男がターンの終了を宣言し、ゲンキのターンとなる。

 ゲンキは目を閉じ、天を仰いだ。

 思い出されるのは過去のライバル達。やたらカードと決闘ディスクを舐めるアイツ、紐みたいなビキニでやたら胸を強調しながらバトルするアイツ、ゴリラ、リーゼントのくせにサラリーマンやってるアイツ、ゴリラ、ゴリラ、ゴリラ……。

「お前達とのバトル、糧にするぜ!」

 そう叫ぶと右手を山札……ではなく天に掲げた。

「ハンドレスドロー!」

 その声に合わせて山札からカードが勢いよく飛び出した。

 ハンドレスドロー、それは最強のマジモニストによって継承された古代より受け継がれし秘技である。特に意味はない。

 何それ怖い、仮面の男は思った。

「俺はLV.3『カニモン』を召喚!」

「そんな雑魚モンスターごときで何になる」

「そして手札から呪文カード『ハイパーウルトラフルフラットMAXデュエルXO-JANG

 』を発動! カニモンの攻撃力を900000アップさせる!」

「な、なにっ!?」

『ハイパーウルトラフルフラットMAXデュエルXO-JANG』、それは古代より受け継がれる呪文カードであり、〈YAMINOSOSHIKI〉の幹部達は皆持っていたが、何故か仮面の男だけが持っていないマストカードである。

「いけ、『カニモン』! ヘルゲイザーに攻撃!」

 カニモンの太く黒光りしたカチカチのはさみがヘルゲイザーを貫いた。そして余剰ダメージが仮面の男のライフポイントを残らず削り飛ばした。

「ぐわあぁぁぁぁっ!」

 仮面の男はもんどり打って倒れ、転がり、そして仮面が割れた。

 その素顔は、ゲンキ少年に少し似ていた。

「やるな、ゲンキよ……」

「お、おやj……誰?」

 そしてその正体はゲンキの父ではなかった。

「私はお前の父の弟……つまり伯父である皇城アマカケルリュウノヒラメキだ」

「えっ、あの長野のアマカケルリュウノヒラメキ叔父さん!?」

「ああ、五歳の時ぶりだな……」

 仮面の男改めアマカケルリュウノヒラメキは懐かしそうに目を細めた。

「じゃあ……じゃあ本当に親父じゃなかったのか!」

「ああ、そうだ」

「闇の仮面に操られて……」

「操られていない。全て正気だったのだ」

 ゲンキ少年は口をあんぐりと開けて動かなくなる。

「これまでの経緯を全て話そう……」

 そう言ってアマカケルリュウノヒラメキは事の真相語り始めた。

「俺はお前がカードにはまるのが怖かったんだ。兄もそうだったからな……。俺はお前に公務員になって欲しかった。でもお前はカードにのめり込み、遂に変な能力まで身につけた。俺はそんなお前の目を覚まさせるために〈YAMINOSOSHIKI〉を結成しお前の邪魔をしたのだ。全てはお前のためだったのだ……ちなみに兄、お前の父親は海外で犯罪を犯して今フィリピンの超過密刑務所にいる」

 アマカケルリュウノヒラメキは、そう言って一枚の写真をゲンキに渡した。

 そこには数人の男達に紛れて、ゲンキの父、皇城クズリュウセンの姿があった。

「そうか、そうだったんだ……」

 写真を見てゲンキはようやく魂が戻ってきたようだった。

 そして強い決意を持って言った。

「俺、公務員目指すよ」

 ゲンキ少年の新たなる戦いが、幕を開ける。

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