【KAC20248】お眼鏡にかなう、かな

ぬまちゃん

コンタクトにしようかな

「先輩! あ、あの。第二ボタンをいただけませんか?」


 卒業式も無事に終わって三年生男子におとずれる至福の時間。

 ハンサム男子やスポーツ男子の周囲に出来上がる、顔を赤らめ涙目の後輩女子たちの輪。


「先輩……」


 僕たちのような一般的な男子高校生には、これは無縁なイベントと思っていたけど、クラスメートの男子にも可愛い後輩女子からの声掛けが。


 ……


 でも、僕の周りにはいない。やっぱり僕が黒縁メガネの地味男子だから?


 メガネって野暮ったいけど、便利だよ。

 風の日は、ごみの侵入を防いでくれるし。

 視線を隠してくれるので、きょろきょろしても大丈夫。

 それに、なにより、黒板の文字がしっかり見える。


 なのに、めがねをかけているだけでモテない。だから、僕の周りは全員コンタクトに逃げた。憂うつな大学生活を考えながら校門の前まで来ると、後ろから女性の声が。


「せ、せ、せんぱい。あの、記念の第二ボタンをください」


 神様、ありがとうございます。生きていてよかった。

 僕は心の中で手を合わせ、めがねの位置を直してから、振り返る。

 そこには、息をきらせた後輩女子が二人も。一人はショートボブの幼顔、もう一人はピンクフレームで三つ編み。


 ピンクフレームの子もきっと可愛いんだろう、メガネを取れば。でも、やっぱりメガネをかけてないショートボブの子の可愛さの方が勝つよな。僕はそんな不埒なことを考える。


 やっぱり、めがねは不便だよ。

 雨が降れば、レンズが濡れて見えないし。

 めがね外の視野はぼやけるから、結局はキョドる。

 それに、授業は聞いてないから黒板の文字なんか見ない。


 うん、やっぱり。メガネは無い方がいい。そう思って、ショートボブの子に向かって一歩。


「何してるの、K君」

 後ろから、幼馴染の彼女が声をかけてくる。


「彼女たち、私の後輩なの、K君が可哀そうだから頼んだの。ちなみに彼女たちは双子だよ。メガネのあるなしでずいぶん印象変わるでしょ?」


 彼女は後輩女子をさえぎるように僕の前に進んで、にやにやしながら聞いてくる。


「ところで、どうしてショートボブの子の方に進んだのかな? めがね大好きなK君」

 幼馴染のピンクフレームが、きらりと光った。


(了)

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